文化祭実行委員会、恋も友情も停電も!―桜陽高校ラブフェスティバル―

乾為天女

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第8話「夏合宿計画始動」

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 五月二十八日、水曜日。放課後の生徒会室には、蒸し暑さと紙資料の匂いが充満していた。
 文化祭実行委員の八人が、長机を囲んで座っている。
  ホワイトボードには「文化祭夏合宿計画案」と書かれ、赤と青のマーカーで複数の候補地が書き出されていた。
「じゃあ今日の議題、“夏合宿”の開催地と日程について詰めていきます」
  委員長である遥輝が手元のプリントを軽く叩きながら、全体に目を向けた。
「この資料、三案出してるけど、どれもメリット・デメリットあるんだよなー。
  一応、生徒会側には“二泊三日以内、県内”って条件で通してあるから、それだけは厳守ってことで」
「移動時間が少ない市内の研修センターは、やっぱ楽よね」
  真緒がふむふむと資料を見ながらつぶやく。
「でも、せっかくなら自然多いとこ行きたくない?」
  亮汰が顔を上げて言った。
 「遊びじゃなくても、雰囲気って大事だろ? テンション上がるし」
「確かに。山とかいいかも」
  志歩も同意を示す。
 「空気変わると、なんか集中できそうだし」
 一方で、優作は冷静に指摘を入れる。
「移動距離が延びれば予算は当然増える。交通費、食費、宿泊費、緊急時の対応。
  “テンション”で選んだ結果、スケジュールが破綻するようなことがあってはならない」
「そこまで堅くなくても……」
  俊介がぼそっと漏らすが、それを聞きつけた百合香が手を挙げた。
「でも、優作くんの言ってることも正しいと思う。
  ただ、“気持ちが動く場所”でやるっていうのも、きっと意味がある。
  だったら両方取れる場所を探してもいいんじゃないかな?」
 遥輝はうんうんと頷き、みんなの意見をまとめるように言葉を続けた。
「つまり、実行力のある計画と、印象に残る環境――どっちも叶えられる場所を選ぶってことだね」
 全員が頷いたその瞬間、パタンと音がして一人立ち上がった。
「じゃあ、私が決めていい?」
 そう言ったのは、百合香だった。



「……え、百合香が決めんの?」
 亮汰が目を丸くした。
「ちょ、ちょっと待って、それってどういう――」
  志歩も慌てたように言葉を挟むが、百合香は静かに、それでいて強い意志を秘めたまなざしで全員を見渡した。
「みんなの意見を聞いたうえで、“折り合い”をつける役目が必要なんだと思う。
  で、それを誰が担うかって話になったとき、私は“自分がやるべき”だって感じたの」
 その言葉に、真緒が小さく息をのんだ。
「理由は?」
  優作が問いかける。
「私は、いろんな委員会で“案を通す側”の動きを見てきたから。
  学校側と交渉するには、正直さだけじゃ足りない。説得力とスピードが要る。
  それに、責任の所在を曖昧にしないって意味でも――私が引き受けたほうがいいと思う」
 その論理性に、一同は一瞬、言葉を失った。
「……たしかに、百合香がいると話が早いし、学校側との接点も多い」
  遥輝がぽつりと呟くように言った。
「実際、去年の生徒会選挙でも、文化系クラブの要望を整理して出してくれたのって、百合香だったよね」
  真緒が同意すると、優作も一拍置いてから小さく頷いた。
「個人の判断で動くのは原則として推奨されないが、
  百合香の提案には根拠がある。任せても、危険性は低いと判断する」
 いつの間にか、議論は“賛成の空気”に傾いていた。
 だが、そのとき――
「でも、百合香って……ちょっと強引じゃね?」
 亮汰の口から、ぽつりと反対意見が落ちた。
 一瞬、空気が固まる。
「なにそれ」
  希が珍しく、すぐに食ってかかった。
 「ちゃんと理由つけて話してたじゃん。むしろ一番まっとうな意見だったと思うけど」
「いや、そうだけどさ。なんつーか……決めつけが早すぎるっていうか。
  “これが最善でしょ”って押し通そうとする感じ、俺はちょっと――苦手」
 俊介が視線をそらし、ため息をつく。
  その言葉に、百合香の瞳がわずかに揺れた。
 しかし、彼女は表情を崩さない。
「……その懸念もわかる。でも、私は私のやり方で、みんなを前に進ませたいの。
  決めることと、独断は違うよ。そこはちゃんと意識して動くから、信じて」
 彼女の言葉には、決して揺らがない“誠実さ”があった。
 そしてその誠実さは、ゆっくりと、再び場の空気を和らげていった。



「……じゃあ、百合香に任せるってことでいい?」
 遥輝が確認するように全員を見渡す。
 静かな空気のなか、それぞれが順にうなずいていった。
  亮汰も、少しだけ口を尖らせながらも最後には「任せるわ」とつぶやいた。
「ありがとう。責任持って、プラン詰めるね」
  百合香は軽く頭を下げ、手元のノートにメモを取り始めた。
  その背筋は、誰よりもまっすぐで、揺るぎがなかった。
「……にしても、山奥って本気か?」
  志歩が苦笑いしながら問う。
「うん。本気だよ。携帯の電波が入らないくらいの場所で。
  それくらい非日常じゃないと、“本音”なんて出てこないと思う」
「本音ねぇ……」
  亮汰はどこか気まずそうに目をそらしながら、机の角を指先でいじっている。
「ま、そっちのほうが“映え”そうだし? キャンプ感あるし」
  俊介が冗談めかして笑うと、志歩がすかさず反応した。
「は? 誰が写真撮るのよ。山奥で化粧なんてできるわけ――」
 「わかってるよ。冗談、冗談」
 「むぅ……」
 そんなやり取りに、思わずクスッと笑った真緒が言葉をつなげる。
「でも、ちょっと楽しみかも。山の空気とか、夜の静けさとか――
  ふだんの学校じゃ感じられないこと、いっぱいありそうだよね」
「そうだね」
  遥輝が穏やかにうなずく。
 「文化祭の準備って、イベントってだけじゃなくて――
  たぶん“人を知る”っていう目的もあるんだと思う。
  なら、合宿はそのチャンスになるはず」
 全員の視線が、自然と遥輝へと集まる。
  その言葉の一つ一つが、どこか背中を押してくれるようだった。
「よし、じゃあ次回の会議までに、予算と日程の叩き台を百合香が用意。
  それをもとに、来週正式決定って流れで行こう。OK?」
「異議なし~」
 「了解」
 「賛成」
 全員の返答を確認し、遥輝が最後に笑った。
「よし、じゃあ今日はここまで。おつかれさま!」
 椅子を引く音、プリントを片付ける音、ドアを開ける音。
  そんな日常の音にまぎれて、少しずつ変わっていく何かが、確かにあった。
 まだ誰も気づいていない――でも、これが始まりだった。
  この“合宿”こそが、彼ら八人を繋ぎなおす、最初のきっかけになる。
 外では、夕陽が傾き、茜色の空が校舎を包んでいた。
(第8話 完)
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