実話怪談・短編集◆とほかみ◆

茶房の幽霊店主

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◆手 紙◆

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※このお話は十数年以上前の出来事ですが、
(当時)相談者が中学生でしたので慎重に取り扱っています。

その時の、考えられる対処方法としての発言と提案ですので、
対処がすべて正しいというわけではございません。その点をくれぐれもご注意ください。
_____________________________________

※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)




夕方五時頃、実家の二階でくつろいでいたとき、母親の呼ぶ声が聞こえました。

『あなたに会いたいという学生さんが来てるけど、知り合い?』

会社へ就職して数年が経過していましたので、学生時代の友達には心当たりがありません。

『どんな人?』

『制服着てるから、たぶん〇〇中学ね』

中学生? まったく誰の顔も思い浮かばず、 とりあえず、一階の玄関まで向かい引き戸に手を掛けました。

まだ、戸も開ききってない状態で、少年は早口で話し始めます。

『俺、寝ていたら胸を押さえつけられて、苦しくて動けなくて。それで、押し入れに黒い影がいるんです。 〇〇(店主の苗字)さん、お祓いできるんですよね?』

『お祓いはできないですよ。失礼ですが、どなたからこの住所を 聞かれたのですか?』

『お祓いできないんですか!?どうにかできないですか?』 

『…………』

後ろには同級生かクラスメイトらしき男子が2名、居心地悪そうにしています。

事前の連絡もなく、夕方の五時にクラスメイトを連れて、顔も見たことのない人物に会いに来るとは……。
必死に何か訴えている少年は、 姿勢が悪く猫背で、視線はあちこちを見ていて、 目を合わせる様子もありません。両手は胸の前で擦り合わせるようにしています。

『文字がうまく書けなくなってしまって。勉強もちゃんとできなくて。親に言ったけど、親父に蹴られて。 ……俺、どうしたらいいですか?』

『何も憑いてないですよ。あなたはどうしたいですか?』

『……ぁ……。そんなはずないです!何か悪いモノがいるはずなんです!寝ていたら胸を誰かが押さえつけてきて、苦しくなるんです!』

文字が書けなくなっている。日常生活に支障がでている。
親にSOSのサインを出しても、逆に暴力を振るわれている。
何より、この藁をもつかむ、死に物狂いで依存したい心の状態。
この依存心をクラスメイトにぶつけても、どうにもならなかったのでしょう。

『今はどうですか?』

『いまも、しんどいです。苦しいです。俺、眠れてなくて。それで……』

『まずは“精神保健福祉相談”に行きましょう。市役所で相談先や受診する病院を紹介してもらえますので、そこから始めましょう』

『言葉キツくないですか? コイツの気の済むように、お祓いっぽいことしてくれたら落ち着くのでは?』

後ろに立っていた内の一人が会話に入ってきました。
残り一人は地面を見たまま腕を掻いています。

『このままお友達を放置していたら、取り返しのつかないことになります。まだ誰かに助けを求めているうちに、医療の専門家へ繋ぐべきです。取り巻く環境を変えることが困難ならなおさらです。本当はあなたも分かっているのでしょう?自分で言いたくなかっただけ』

その後、控えている二人が何か言ってくることはありませんでした。

『市役所に行ったら楽になりますか?だったら行きます!もう嫌なんです!何もかも!』 

『大丈夫ですよ。きっと良い方法が見つかります』

こういった場合、どこへ相談し、繋いで、治療していくのか。
通常の生活をしていたらなかなか知る機会がありません。

もし、あなたのお友達や知り合い、家族の人格が変わってしまった時、いきなりお祓いに頼ったり、民間療法を実行しないでください。

暴力依存は旦那さん本人のパーソナリティ障害が要因であるにもかかわらず、力に抵抗する奥さんがおかしい『悪霊のせい』と他責に走り、何度も神社へお祓いに行く夫婦を見たことがあります。そして、何も解決しないまま……。

医療機関でしっかり確認し、 体調不良が本当に原因不明なのか【要因】を見定めることから、 目を逸らさないことが 、

明日のあなたの日常を明るいものにしていくのだと、私はそう信じています。

少年が訪れてから数カ月後、ポストに切手が貼られていない手紙が入っていました。

“市役所で紹介してもらった病院で、治療をしてから気持ちが楽になりました”

まだ大きさも不揃いで不安定な文字でしたが、懸命に書いたのだと思います。

店主の母親は、『直接手紙を家に持ってくるだなんて、怖いわ』

と言っていましたが、 何か形にしたかったのでしょう。

その後、近所でその少年を見かけることはなかったので、自分のことしか見えていない状態から、相手がどう感じるかを考えられるようになったのだと思っています。


※※※※※


※(ここからは【手 紙】の追記です)

ジャンル分けを“ヒトコワ”としたのは、この少年の言動ではなく、彼を取り巻く環境がヒトコワだと感じたからです。

中学生だと段々自立心も出てくる多感な時期、不安であることを親に聞いてもらいたいと思うひともいれば 親なんかに自分の気持ちなど分かるものか!と友達に愚痴をいう人もおられるでしょう。

どこをどう通ったのか、
まったく知らない人の噂を聞いて 遥々訪ねてくるのは、一見して狂気なのですが、“誰に相談したらいいのかわからない”状態だったのでしょう。

心を専門にされている診療所などは、予約を入れても 受診できるのは一カ月、二カ月先もざらです。

ですが、緊急性の高いものだと判断してくれる窓口を知っていれば、治療までの道のりを安心して相談できるはずです。

どうしたらいいの?となった時、
まずは市役所、 地域の保健所や保健センター、都道府県・政令指定都市に設置されている精神保健福祉センターなどで相談できます。

奇妙な出来事に注視するより、明らかなストレスなど【要因】があるなら上記を頼ってみてください。
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