太陽のような君

ひろ・トマト

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4,恋バナ

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「川口くんてさ、彼女いんの?」

目の前の彼女がそう聞いてきた。



いつものように相川さんと帰っているときだった。

揺れる電車の中で他愛もない話をしていた。



「んーー……いないね」

「なにその間」

相川さんはにやにやしながら聞いてきた。



「あーいや、なんでもない」

「その感じはいるっしょ」

「いないよ。いままでいたこともない」



本当のことだ。僕には彼女とは程遠い人間だろう。



「ふーん。作らんの?」

彼女は何気なさそうに聞いてきた。

そんな簡単にできるものじゃないだろう。少なくとも僕にとっては。



「いやそんな簡単にできないでしょ」

僕は思考をそのまま口に出していた。



「できるって」

「どうやって」

「なんか適当にしゃべって、遊んで流れで告る」

相川さんはこともなしげにそう答える。それができないから苦労しているというのに。



「無理」

「なにが無理なの」

「女子と話すと緊張するし」

「いや陰キャかよ」

相川さんはけらけらと笑った。



なんというかすさまじく価値観が違う。彼女もまた主役に近しい人種なのだろう。

だからこんなモブの自分の気持ちを理解できないのだろう。



「ていうかそもそも好きな人は?」

そう聞かれて僕は言い淀んだ。だって目の前に好きなひとはいるのだから。だが僕は当然そんなことは言えず。



「いー……ないね……」

そんなことをいうのだった。



「じゃあ好きな人からまず作らないと。好きなタイプは?」

別に彼女を作りたいと言ったわけではないのに、相川さんはどんどん話を進めている……彼女がほしいのは事実だが。



それにしてもタイプ……何だろうか。

うーんと唸りながら、十秒ほど頭を捻らせて。

「……好きになったひとがタイプ……とか?」

などと言うと



「それモテルやつが言う言葉でしょ」

などと言われた。



まあそれはそうだが、事実だから仕方がないだろう。



そこから僕たちはの恋バナは続いた。

誰々が付き合った、友達が大学生の知り合いに恋してる……などなどいろんな話をした。



今までからすると僕は相川さんと会話ができていた。

主導権を握られてこそいるが、僕から話題を振ることも増えてきたし、キャッチボールの回数も増えた。

少しずつだが相川さんとの距離が縮まっている。そう感じられる。



そうこうしているうちに相川さんが下りる駅に到着した。

相川さんは「じゃねー」と手をふって電車をあとにした。

僕も手を振り返しながら相川さんの後ろ姿を見つめた。



先ほどの恋バナの中で聞きそびれた……いや、聞けなかったことがあった。

それは、相川さんに好きな人はいるのかということだった。



なぜ聞けなかったのか。答えは明白だ。僕に勇気がないからだ。

答えを聞いて、他の男子の名前が出たときに落胆しないという自信がないからだ。



きれいで、明るくて、太陽のような相川さんに好きになってもらう。

そんな可能性は低い。わかっている。わかっているのだが……。



そこまで考えて僕は思わず苦笑してしまった。

ここ最近、僕らしくもないことばかり考えている。前までは考えられないことだった。

いったんこのことを忘れようと僕はイヤホンを耳に着けて音楽に耳を傾けるのだった。
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