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第四章 魔物暴走(スタンピード)顛末記
第75話 予想の斜め上をいくクズでした…
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おいらがクッころさんから、騎士団とカイエンの話を聞いているうちに、気を失っていた九人の騎士が目を覚ましたんだ。
ノイエに手酷くやられたカイエンだけは、今でもピクピクと痙攣したまま転がっている。
「さてと、あなた達、洗いざらい聞かせて頂きましょうか。」
クッころさんが、目を覚ました騎士に命じます。
「すいません、全てお話しますので。
どうかそちらの、妖精をけしかけるのはご勘弁ください。」
ノイエのビリビリに懲りた一人の騎士が、そう言うと別の騎士が続いて話し始めました。
「きっかけは、エクレア様のもう一人のお兄様、騎士団長の弟さんが近衛騎士団に抜擢された事なんす。
日頃から、騎士団長は弟さんのことをスカした野郎で気に食わないと言ってやしたんすが…。
自分が落ちこぼれの番外騎士団に押し込められているのに、弟さんがエリート部隊に抜擢されたのが余程腹に据えかねたようでやんす。
ここらで、大手柄を上げて自分も近衛騎士団にのし上がってやるなんて言い出したんでやんす。」
それで、クッころさんの上のお兄さんが考え出したのが、『ハエの王』を倒してスタンピードを引き起こし。
それを、自分達の騎士団が討伐することで、『自作自演』の大手柄を仕立て上げようという悪だくみだったの。
普通、スタンピードを一つの騎士団で討伐する事なんか絶対できないのだけど、そこはそれ。
『虫』の魔物は戦闘能力は大したことない上、人を捕食している時は全くの無防備になるからね。
先に町や村を襲わせて、人を襲っている最中の『虫』を背後から切りつけることで倒そうと計画したみたい。
町や村の一つか二つは犠牲にして、スタンピードを収めるつもりらしいよ。
『虫』の退治が終ったら、若くてキレイな女の人数人を残して、生き残った人ごと村を焼き払う計画らしいの。
『疫病予防』を口実に、人々を餌にして『虫』退治をやった事の証人を消すんだって、死人に口なしだって。
残した女の人は調教して、自分達に都合の良い証言をさせるんだって言ってたよ。
何でも、『虫に襲われた町に颯爽と現れてその女の人を救った英雄』みたいに証言させるつもりらしい。
そんな細かい事まで、計画に入っているんだ…。
「なんて、酷いことを…。
屑だ、屑だと思っていましたが、そこまで人間が腐っていたとは…。」
騎士の話を聞いてクッころさんがそんなことを呟いてた。
でも、それって、そんなに都合良くいくものなの?
『ハエの王』って、最低でもレベル五十はあるって聞いたよ。
実際、『ハエの王』を倒せたから、スタンピードが起こったんだろうけど…。
クッころさんの上のお兄さんって、そんなにレベルが高かったのかな。
クッころさんもおいらと同じ疑問を持ったようで…。
「しかし、あの兄上に『ハエの王』を倒せるような実力はないと思いますが。
いったい、どうやって『ハエの王』を倒そうと考えていたのですか。」
「ええ、それが、騎士団の中に実家の領地が『虫』型の魔物に効くと言う菊を栽培してモンがおりまして…。
それを聞いた団長が、騎士団の金をありったけ注ぎ込んで虫殺しの菊を買い込んだんで。
その菊で『ハエの王』を燻して、動きを弱らせてから総員でタコ殴りにしてして仕留めようと言うんでやんす。
そりゃあもう、来月の食料を買う金が無いほど、騎士団の金を根こそぎ突っ込みましたんで凄い量を買い込んだでやんす。」
乾燥させたその菊の煙で燻すと低レベルの『虫』型の魔物ならイチコロ、高レベルの『虫』型の魔物でも動きが鈍んだって。
でも、その菊は余り栽培されてないそうで、たいてい町や村で少しだけ備蓄しておいてはぐれの『虫』型魔物が出た場合の備えにしているんだって。
それを上のお兄さんは、金にあかせて買い集めたらしいよ、自分のお金じゃないけど。
「あきれた、それでは公金横領ではないですか。
公になったら、ただごとでは済みませんよ。」
「ええ、ですが団長は、スタンピードの討伐に成功すれば、そんなの帳消しになるって言ってたでやんす。
『ハエの王』を倒せばレベルも国内最強クラスに上がるだろうし。
その上、スタンピードを収めた英雄として崇められれば、多少の金を使いこんだところで誰も文句なんか言える訳がねえって。」
クッころさんの上のお兄さん、やりたい放題だね。
よくそんなギルドの冒険者みたいなロクでなしを、騎士にしたもんだ…。
********
「で、あなた達はどうしてこの町へ来たのですか。
兄上の命令ですか。」
クッころさんが尋ねると。
「いえ、俺たちは番外騎士団の中でも、特に落ちこぼれなんでやんす。
団長が、『虫』ごときに後れを取りそうなモンは、体面が悪いので連れて行けんと言いやんして。
留守番部隊を言い付かったでやんすが。
カイエン隊長は団長のお気に入りでやんしょ。
団長からこっそり耳打ちされていたんでさぁ。
この辺まで来れば、本体が撃ち漏らした『虫』くらいしか辿り着けないだろうって。
数が少なければ、俺達でも何とかなるだろって言ってたそうでやんす。
もし、手に余るようならその辺の平民を盾にすれば良いからって言ってたでやんす。」
クッころさんのお兄さんは、番外騎士団の訓練演習のため辺境へ行くと騎士団の本部に申請して王都を出たらしい。
落ちこぼれの集団とは言え、一応騎士なので訓練演習と言われると本部も許可を出さざるをえなかったみたい。
ただ、騎士団がそっくり王都を留守にする事は出来ないので、留守番部隊としてこの人達が残されたんだって。
留守番部隊の選別基準は、落ちこぼれの番外騎士団の中でも、更に戦闘能力に劣る人達みたい。
この人なんて、自分で特に落ちこぼれだなんて言ってるし。
カイエンが隊長を務めるこの部隊は、クッころさんのお兄さんの助言に基づいて、十日前の晩にこっそり駐屯地を抜け出してきたらしい。
「ここに来るまでに、二つ村が『虫』に襲われていたでやんす。
団長の言われた通り、大した数の『虫』じゃなくて俺達でも簡単に退治できたでやんすよ。
人を食っている最中の『虫』にこっそり近付いて後ろからブスッとやりゃあ良いんすから。
『虫』の方から襲ってきたとしても…。
村のガキをとっ捕まえといて、目の前に放り出せば『虫』はバカだからすぐに喰い付く。
あとは、ガキを食っている間に、後ろから仕留めれば良いでやんすからね。」
などと、自慢げに話す騎士、おいら、聞いてて胸くそが悪くなったよ。
「でも、『虫』ときたら全然、『生命の欠片』を落としやがらねえでやんす。
団長からは、弱いくせに時たま高レベルなのがいると聞いてたでやんすよ。
博打と同じで、ほとんど当たらねえけど、あたった時は大きいって。」
確かに、『虫』型魔物って病原菌で敵を倒すんで、弱いわりにレベル持ちが多いんだよね。
ただ、この騎士は、百匹以上『虫』を狩ったみたいだけど、レベル持ちは一匹だけだったみたい。
それも最低のレベル五だって愚痴ってた。
レベル持ちが多いと言っても所詮はレベルゼロが標準の魔物、百匹やそこらじゃ、当たりは一匹かそこらだよ。
おいら、それより二桁多く狩ったもの。
それでもこの騎士はまだ運があった方で、他の連中はハズレばっかりだったと言っているよ。
隊長のカイエンも、やっぱり一つも当たらなくて、昨日から機嫌が悪かったみたい。
昨日立ち寄った村では、八つ当たりに生き残った村人を全部斬り殺して村に火を点けたとか言ってるし。
うーん、こいつら、殺っちゃって良いかな…。
「マロン、こんな奴らでも、人を殺すと後味が悪いわよ。
マロンを人殺しにしたら、私がアルトお姉さまから叱られてしまうわ。
ここは、穏便にキツイお仕置きを与えることで赦して上げたらどうかしら。」
その時、おいらの心を見透かしたように、ノイエが声を掛けてきたんだ。
そうだね、キツイお灸を据えておこうかな。
ノイエに手酷くやられたカイエンだけは、今でもピクピクと痙攣したまま転がっている。
「さてと、あなた達、洗いざらい聞かせて頂きましょうか。」
クッころさんが、目を覚ました騎士に命じます。
「すいません、全てお話しますので。
どうかそちらの、妖精をけしかけるのはご勘弁ください。」
ノイエのビリビリに懲りた一人の騎士が、そう言うと別の騎士が続いて話し始めました。
「きっかけは、エクレア様のもう一人のお兄様、騎士団長の弟さんが近衛騎士団に抜擢された事なんす。
日頃から、騎士団長は弟さんのことをスカした野郎で気に食わないと言ってやしたんすが…。
自分が落ちこぼれの番外騎士団に押し込められているのに、弟さんがエリート部隊に抜擢されたのが余程腹に据えかねたようでやんす。
ここらで、大手柄を上げて自分も近衛騎士団にのし上がってやるなんて言い出したんでやんす。」
それで、クッころさんの上のお兄さんが考え出したのが、『ハエの王』を倒してスタンピードを引き起こし。
それを、自分達の騎士団が討伐することで、『自作自演』の大手柄を仕立て上げようという悪だくみだったの。
普通、スタンピードを一つの騎士団で討伐する事なんか絶対できないのだけど、そこはそれ。
『虫』の魔物は戦闘能力は大したことない上、人を捕食している時は全くの無防備になるからね。
先に町や村を襲わせて、人を襲っている最中の『虫』を背後から切りつけることで倒そうと計画したみたい。
町や村の一つか二つは犠牲にして、スタンピードを収めるつもりらしいよ。
『虫』の退治が終ったら、若くてキレイな女の人数人を残して、生き残った人ごと村を焼き払う計画らしいの。
『疫病予防』を口実に、人々を餌にして『虫』退治をやった事の証人を消すんだって、死人に口なしだって。
残した女の人は調教して、自分達に都合の良い証言をさせるんだって言ってたよ。
何でも、『虫に襲われた町に颯爽と現れてその女の人を救った英雄』みたいに証言させるつもりらしい。
そんな細かい事まで、計画に入っているんだ…。
「なんて、酷いことを…。
屑だ、屑だと思っていましたが、そこまで人間が腐っていたとは…。」
騎士の話を聞いてクッころさんがそんなことを呟いてた。
でも、それって、そんなに都合良くいくものなの?
『ハエの王』って、最低でもレベル五十はあるって聞いたよ。
実際、『ハエの王』を倒せたから、スタンピードが起こったんだろうけど…。
クッころさんの上のお兄さんって、そんなにレベルが高かったのかな。
クッころさんもおいらと同じ疑問を持ったようで…。
「しかし、あの兄上に『ハエの王』を倒せるような実力はないと思いますが。
いったい、どうやって『ハエの王』を倒そうと考えていたのですか。」
「ええ、それが、騎士団の中に実家の領地が『虫』型の魔物に効くと言う菊を栽培してモンがおりまして…。
それを聞いた団長が、騎士団の金をありったけ注ぎ込んで虫殺しの菊を買い込んだんで。
その菊で『ハエの王』を燻して、動きを弱らせてから総員でタコ殴りにしてして仕留めようと言うんでやんす。
そりゃあもう、来月の食料を買う金が無いほど、騎士団の金を根こそぎ突っ込みましたんで凄い量を買い込んだでやんす。」
乾燥させたその菊の煙で燻すと低レベルの『虫』型の魔物ならイチコロ、高レベルの『虫』型の魔物でも動きが鈍んだって。
でも、その菊は余り栽培されてないそうで、たいてい町や村で少しだけ備蓄しておいてはぐれの『虫』型魔物が出た場合の備えにしているんだって。
それを上のお兄さんは、金にあかせて買い集めたらしいよ、自分のお金じゃないけど。
「あきれた、それでは公金横領ではないですか。
公になったら、ただごとでは済みませんよ。」
「ええ、ですが団長は、スタンピードの討伐に成功すれば、そんなの帳消しになるって言ってたでやんす。
『ハエの王』を倒せばレベルも国内最強クラスに上がるだろうし。
その上、スタンピードを収めた英雄として崇められれば、多少の金を使いこんだところで誰も文句なんか言える訳がねえって。」
クッころさんの上のお兄さん、やりたい放題だね。
よくそんなギルドの冒険者みたいなロクでなしを、騎士にしたもんだ…。
********
「で、あなた達はどうしてこの町へ来たのですか。
兄上の命令ですか。」
クッころさんが尋ねると。
「いえ、俺たちは番外騎士団の中でも、特に落ちこぼれなんでやんす。
団長が、『虫』ごときに後れを取りそうなモンは、体面が悪いので連れて行けんと言いやんして。
留守番部隊を言い付かったでやんすが。
カイエン隊長は団長のお気に入りでやんしょ。
団長からこっそり耳打ちされていたんでさぁ。
この辺まで来れば、本体が撃ち漏らした『虫』くらいしか辿り着けないだろうって。
数が少なければ、俺達でも何とかなるだろって言ってたそうでやんす。
もし、手に余るようならその辺の平民を盾にすれば良いからって言ってたでやんす。」
クッころさんのお兄さんは、番外騎士団の訓練演習のため辺境へ行くと騎士団の本部に申請して王都を出たらしい。
落ちこぼれの集団とは言え、一応騎士なので訓練演習と言われると本部も許可を出さざるをえなかったみたい。
ただ、騎士団がそっくり王都を留守にする事は出来ないので、留守番部隊としてこの人達が残されたんだって。
留守番部隊の選別基準は、落ちこぼれの番外騎士団の中でも、更に戦闘能力に劣る人達みたい。
この人なんて、自分で特に落ちこぼれだなんて言ってるし。
カイエンが隊長を務めるこの部隊は、クッころさんのお兄さんの助言に基づいて、十日前の晩にこっそり駐屯地を抜け出してきたらしい。
「ここに来るまでに、二つ村が『虫』に襲われていたでやんす。
団長の言われた通り、大した数の『虫』じゃなくて俺達でも簡単に退治できたでやんすよ。
人を食っている最中の『虫』にこっそり近付いて後ろからブスッとやりゃあ良いんすから。
『虫』の方から襲ってきたとしても…。
村のガキをとっ捕まえといて、目の前に放り出せば『虫』はバカだからすぐに喰い付く。
あとは、ガキを食っている間に、後ろから仕留めれば良いでやんすからね。」
などと、自慢げに話す騎士、おいら、聞いてて胸くそが悪くなったよ。
「でも、『虫』ときたら全然、『生命の欠片』を落としやがらねえでやんす。
団長からは、弱いくせに時たま高レベルなのがいると聞いてたでやんすよ。
博打と同じで、ほとんど当たらねえけど、あたった時は大きいって。」
確かに、『虫』型魔物って病原菌で敵を倒すんで、弱いわりにレベル持ちが多いんだよね。
ただ、この騎士は、百匹以上『虫』を狩ったみたいだけど、レベル持ちは一匹だけだったみたい。
それも最低のレベル五だって愚痴ってた。
レベル持ちが多いと言っても所詮はレベルゼロが標準の魔物、百匹やそこらじゃ、当たりは一匹かそこらだよ。
おいら、それより二桁多く狩ったもの。
それでもこの騎士はまだ運があった方で、他の連中はハズレばっかりだったと言っているよ。
隊長のカイエンも、やっぱり一つも当たらなくて、昨日から機嫌が悪かったみたい。
昨日立ち寄った村では、八つ当たりに生き残った村人を全部斬り殺して村に火を点けたとか言ってるし。
うーん、こいつら、殺っちゃって良いかな…。
「マロン、こんな奴らでも、人を殺すと後味が悪いわよ。
マロンを人殺しにしたら、私がアルトお姉さまから叱られてしまうわ。
ここは、穏便にキツイお仕置きを与えることで赦して上げたらどうかしら。」
その時、おいらの心を見透かしたように、ノイエが声を掛けてきたんだ。
そうだね、キツイお灸を据えておこうかな。
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