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第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって

第622話 悪ガキ共の所行にキレたらしい…

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 タロウの話が終わったところで、今度はおいらが質問することにしたんだ。

「ねえ、おいら、知りたいことが沢山あるんだ。
 でも、時間が無いから今日は二つだけ教えて。
 一番教えて欲しいのは魔物のこと。
 魔物って、マロンさんが生み出したものでしょう?」

 魔物を倒すと『生命の欠片』を落とすでしょう。
 おいら、それが常々不自然だと感じていたんだ。
 でも、魔物がマロンさんによって人為的に作り出されたのだとしたら。
 その不自然さも納得できるような気がするんだ。
 ただそうすると、何のために、どうやって生み出したのかが気になるの。
 それを教えてもらいたいと、おいらは思ったんだ。

「あなたの想像通り、魔物を生み出したのはマロンよ。
 ただ、それについては今度来た時にしましょう。
 魔物を生み出した動機や開発過程について話すと長くなるし。
 マロンの気持ちを知ってもらうためには当時の映像を見て貰った方が良いと思うから。
 今度は時間のある時にゆっくり来なさい。
 あなたの知りたいことを全て教えてあげるわ。」

 アカシアさんは、おいらの質問に答えるには時間が足りないと言ったんだ。

「じゃあ、一つだけ。
 『魔物の領域』って、人族の国と国とが直接接しないためにわざわざ創ったんでしょう?
 マロンさんは、国と国との間に魔物の領域を創って戦争が起こるのを防ごうとしたんじゃ。」

「あら、あなた、自分でそれに気付いたの?
 アルトに教えてもらったんじゃなくて?
 その歳で良く気付いたわね。」

 おいらが一つだけ確認しよう尋ねたら、アカシアさんは感心した様子でおいらを見てたよ。 

「うん、おいら、オードゥラ大陸に行った時に知ったんだ。
 あっちの大陸では国と国との争いが絶えないと。
 でも、この大陸じゃ、戦争なんてずっと起こってないでしょう。
 どうしてこの大陸では国と国の争いが起こらないんだろう。
 それを考えた時に真っ先に頭に浮かんだんだ。
 『魔物』と『魔物の領域』のことが。」

 人の住む村や町を襲う魔物がいるから、人同士で争っている場合じゃないんだ。
 協力して魔物の脅威に立ち向かわないといけないし。
 ましてや他国の領土に攻め込もうだなんて。
 そんな無謀なことを考える為政者はいなかったのだと思うの。
 国と国との間を往来するには、大概狂暴な魔物が跋扈する『魔物の領域』を越える必要があるからね。

 おいら、漠然と思っていたんだ、随分と都合よく魔物の領域があったもんだと。
 だから、今回、マロンさんの映像を見せてもらって、もしやと思ったの。
 それに、ワイバーンがマロンさんの手に依り創り出されたことを匂わす映像もあったからね。
 その開発に漕ぎ着けたところまでは、今回見せて貰った映像の中には無かったけど。

 おいらがそんな返答をすると。

「本当に聡明な子供ね。
 あなたの想像通りよ。
 詳しく話している時間は無いけどね。
 ある日、マロンがキレちゃったのよ。
 悪ガキ共の乱暴狼藉が余りに目に余るものだから。
 問題行動を続ける連中をこの森から追放したの。
 同時に、つるんでいるグループ毎に居住地域を分けたのよ。
 そして、居住地域の間には魔物が多い地域を配したの。
 仲の悪いグループが鉢合わせしないようにね。」

 アカシアさんから聞かされたのは、おいらの予想通りのセリフだった。

 見せてもらった映像からしばらく時間が経過すると、人族の培養が軌道に乗ったそうだよ。
 ここで暮らす子供が増え、その子供達が十代半ばに成長した頃の出来事らしいよ。
 子供達の間で諍いが増えてきたそうなんだ。
 まだ小さな頃は、子供のヤンチャは仕方がないとマロンさんも思っていたそうなの。
 子供達が喧嘩するたびに、マロンさんは根気よく諭してきたそうなの。
 暴力はいけないことだ、話し合いで解決することが大切なのだと。

 でも、子供達の中には言うことを聞かないどころか、歳を経るごとに乱暴になる悪ガキが居たそうなんだ。
 それぞれに自分のグループを作って、グループ同士の集団抗争を起こしたらしいの。

 そんな事態を目にして、マロンさんは愕然としたそうだよ。
 二度とテルルの轍は踏むまいと決意してたのに、出だしから躓いたものだから。
 今度こそ争いの無い世の中を創り出そうとの使命感を持っていただけに、マロンさんは凄く落ち込んでたって。

 そして、ある日、余りに酷い出来事があって、マロンさんはキレちゃったらしいの。
 アカシアさんを始めとする『不思議な空間』持ちの妖精さんにお願いしたんだって。
 グループ毎に離れた場所にポイしてきて欲しいと。

 悪ガキ共は、人の足ではとても往来出来ないくらい離れた場所に放置されたらしいけど。
 マロンさんは、それでも安心できなかったそうなの。
 惑星テルルでは、交通手段が未発達な太古の昔にとんでもなく広範囲を征服した国があったから。

 油断しているとそんな野蛮な国が出来るかも。
 そう考えたマロンさんは決意したそうだよ、人類共通の敵を創ろうと。
 それは既にオリジンから提案されてたことだけど、人族の理性に期待してたマロンさんは却下してたんだ。
 でも、それは過剰な期待だったと諦めの境地に至ったそうだよ。
 そうして魔物を生み出すと、人族の居住区域の中間にその生息域を創ったそうだよ。

 アカシアさんは、今度来た時にその頃の記録映像を交えて詳しく教えてくれると言ってたよ。

       **********

「もう一つだけ良いかな?
 人族、妖精族、『山の民』、『海の民』の話はあったけど。
 ミンメイの先祖、『森の民』についての映像が無かったよね。
 『森の民』もマロンさんが創り出したんじゃないの?
 まさか、『森の民』だけこの大陸に元から住んでいたとか?」

 最後にもう一つ疑問に思っていたことを尋ねてみたの。

 すると…。

「『森の民』が生み出されたのは、今回見た映像より大分先のことよ。
 マロンの研究の集大成であると共に、マロンが安らぎを求めた存在なの。」

「集大成?」

「そう、争いを好まない穏やかな人族を創り出すという研究のね。
 それに成功した時、十八だった少女は既に晩年を迎えていたわ。
 その頃には、みんな、この研究所を巣立った後で…。
 残っているのは、私を始め少数の妖精族だけだった。
 一人ぼっちになったマロンは寂しかったのよ。
 寂しさを紛らわすために、『森の民』にはある能力強化が施されたの。
 それは、音感と手先の器用さ。
 音楽を愛し、楽器作りを得意とする種族としてね。」 

 結局、人族に争いが絶えないのは、男性ホルモンが影響しているそうだったの。
 乱暴で血気盛んな男は男性ホルモンの分泌が多かったらしくてね。
 マロンさんは、思い切って男性ホルモンの分泌を抑えた人族を創り出してみたそうだけど…。
 確かに温厚な人種は創れたものの、今度は性欲が希薄になって子作りしようとしなくなるんだって。
 男性ホルモンは性欲を旺盛にする役割も担っていたから。

 でも、マロンさんは男性ホルモンの分泌抑制はそのままにして、別の対策を施したんだって。
 それは、希薄な性欲でも子孫を作れるように繁殖可能年齢を引き延ばすこと。
 その結果、寿命が三百年まで延びちゃったそうだよ。
 それでも、一組の男女が生涯で成す子供は一人、多くて二人だったみたい。

 他にも、『森の民』の男女が少しでも惹かれ合うようにと工夫したらしい。
 誰もが好感を抱くような美男美女を選りすぐって、その保存精子、保存卵子から受精卵を作ったらしいの。
 そこに遺伝子操作を施したそうだよ。
 だから、『森の民』は極めつけの美男美女が多いんだって。  

 そして、音楽好きの『森の民』に囲まれて、マロンさんは賑やかで楽しい晩年を過ごすことが出来たんだって。

「マロンは、『森の民』をとても愛していたの。
 と同時に、その種族の未来をとても心配してたわ。
 温和に創り過ぎたために野蛮な人族から迫害されるのではと。
 有り難う、人族と森の民が仲良く暮らしている証を連れて来てくれて。
 もしマロンがミンメイちゃんを見ることが出来たら、きっと喜んだでしょうね。」

 アカシアさんは再びミンメイを愛おしそうに見つめていたよ。
 口が裂けても言えないね、愚か共達の耳長族狩りで絶滅しかかってただなんて…。 
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