精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
180 / 508
第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第179話 怪我をした女の子 ①

しおりを挟む
 お昼ご飯も食べたし、旅の思い出になる物も買った、お店も十分に見たことだしそろそろ別荘に帰ろうかということになって駐車場の方へ向かっていたときのことなの。

 その時、ヒヒーンという馬の嘶きと共に何かがぶつかるような大きな音が聞こえた。

 何事かと音が聞こえた方に目を向けると、車道に馬車が今にも横転しそうな形で停まってたの。

「馬車の前輪の車軸が折れたようですね。
 片側の前輪が外れてしまっています。
 速度が出ていなかったおかげか前輪が外れた方の車体が上手い具合に接地して横転は免れたようですね。」

 わたしの後ろに控えていたフェイさんが説明してくれた。
 ああ、それで車体が前のめりになって斜めに傾いでいるんだ。さっきの大きな音は車体が地面にぶつかった音だったんだね。


 停まった馬車の周囲には何事かと思ったのだろう人が集まり始めているよ。
 周囲の人の目が集まる中、侍女らしき服装の女の人がハンナちゃんくらいの小さな子供を抱えて馬車から降りてきたの。

「お嬢様、しっかりしてください。お嬢様、お嬢様…。」

 侍女はそう言いながら、抱かかえた女の子を揺すっている。
 抱かかえられた女の子はぐったりと脱力しており、気を失っているようだ。

 あ、それは良くない…。そう思い女の子のもとへ向かおうとしたら…。

「おねえちゃん、そんなふうにゆすっちゃだめだよ。その子死んじゃうよ。
 頭を強くぶつけたでしょう?頭の中で血が出ているって。
 そういう時はゆすったらダメなんだって、静かに横にしておかないと。」

 いつの間にかわたしの横からいなくなっていたハンナちゃんが、侍女に向かって言った。
 あ、おチビちゃん達から聞いたんだね。

「えっ、なにを…?」

 ハンナちゃんから注意された侍女は困惑しているようだ。自分が抱きかかえている子と同じ年頃の子に注意されても戸惑うよね、普通は。


 わたしは、フローラちゃん、ミーナちゃん、フェイさんと一緒にハンナちゃんの傍まで出て行った。

「大丈夫です、その子に指示に従ってください。」

 フローラちゃんが侍女に声をかけた。

「あ、フローラ姫だ!」

「姫様が、こんなところに…。」

 周囲にいるフローラちゃんに見覚えのある貴族から声が上がった。
 それが、目の前の侍女の耳にも入ったのだろう。

「姫様?」

 と侍女が戸惑いの表情のまま呟いた。

「はい、フローラです。今はその子の手当てを急がないといけませんね。
 ハンナちゃん、出来ますか?
 無理ならば、私かターニャちゃんが治しますけれど?」

 フローラちゃんはハンナちゃんに出来るかどうか尋ねた。
 うん?いつもならわたしに振るところなのに、どうしてだろう?

「うん、ハンナ、できると思う、やってみるね。
 小人さん、力を貸してね。」

 そういうとハンナちゃんは指先にマナを集めると水のおチビちゃん達に、横たわる女の子に『治癒』を施すようにお願いする。
 ハンナちゃんも、女の子の怪我が酷いことを分っているようでかなりのマナを放出しているようだ。

 女の子の体をほのかな青い光が包み込み、それが体に吸い込まれるように消えていく。

 かすかに目を開いた女の子が、女の子を覗き込んでいるハンナちゃんを目にしたようだ。

「…天使さま?…。」

 そう呟くと再び目を閉じた。

 顔色は良いし、呼吸は安定している、なにより安らいだ表情をしている。
 気を失ったのではなく、スヤスヤと寝入ってしまったようだ。

 ハンナちゃんの治療が上手くいったのかを気にするフローラちゃんや侍女に向けて、フェイさんが言った。

「もう心配要りませんよ、ちゃんと治癒できています。
 この子は眠っているだけですので、じきに目を覚ますでしょう。」

 フェイさんの言葉に侍女は安堵の表情を浮かべた、こういう時は大人の言葉が安心できるよね。

 わたしはこっそりとフローラちゃんに尋ねた。

「どうして、ハンナちゃんに治療させたの?
 かなりの重症のようだったし、いつもならわたしがやるところだよね?」

「ああ、それはね、ハンナちゃんが珍しく自分から出て行ったでしょう。
 あの子とお友達になりたいのかと思いまして。
 馬車の紋章を見ると筋の悪い家ではないので、ハンナちゃんの友達にどうかと思って。
 ハンナちゃんが治療すれば友達になるきっかけになるでしょう。」

 どうも、治療をした女の子はフローラちゃんが知っている家の子供みたい。
 ハンナちゃんに年の近い友達がいたほうがいいのでは思ってハンナちゃんにさせてみたようだ。
 もし無理なら、フローラちゃんが治療しても良いと思っていたようだね。

 でも、貴族の友達ってハンナちゃんは喜ぶかな?


     **********


 侍女に抱きかかえられたまま眠る女の子を見ていたフローラちゃんが言った。

「いつまでも、このようなところで寝かしておくわけにも参りません。
 それに、一応目を覚ますまではちゃんと治癒できたかが心配ですので私達の目の届く所に居た方が良いでしょう。
 差し支えなければ、私の別荘が近くにありますのでそこでこの子を休ませませんか。」

 フローラちゃんの提案に侍女は戸惑っていたが、王族からの誘いを無碍に出来るわけがない。
 結局、その子はわたし達の魔導車に乗せて別荘に連れてくることになった。



しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...