精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
179 / 508
第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第178話 夏だけの街

しおりを挟む
 女神の湖の畔にある小路をハンナちゃんと手を繋いで歩く、朝早く目が覚めたハンナちゃんが散歩に行きたいといってわたしにせがんだの。

 ここは空気が澄んでいて気持ちが良いね。
 広大な精霊の森をしょっている王都も空気がきれいだと思っていたけれど、夏場はここの方が気持ちが良いと思う。
 ここの空気はひんやりとしていて、しかも適度に乾わいている。
 この時期、王都の空気はじめっとしていて暑いんだ、だから息苦しく感じるの。

 湖の周りに広がる森は精霊の森にはなっていないけど手付かずの森が広がっているためたくさんの精霊が棲んでいる。
 わたしたちが散歩をしていると地元のおチビちゃん達が寄ってくる。ハンナちゃんは一々おはようと声をかけながら歩いているよ。
 あんまり愛想を良くしているとおチビちゃん達が付いて来ちゃうよと思っていたら、既に何体かがハンナちゃんの肩に座ったりしていて付いて来る気満々のようだ。

 わたしがそんな精霊達の様子に気をとられていると、

「あっ!」

と声を上げたハンナちゃんが、わたしの手を振りほどいた。

 ハンナちゃんは数歩早足で歩いてしゃがみこむ。

 ハンナちゃんが見ていたのは、傷ついて丸まった縦じま模様のネズミ?だった。
 
 ネズミってあんなに尻尾がふさふさしていたっけ?

「ああ、リスですね。後ろ足を怪我しているようです。猛禽にでもやられましたかね。」

 ハンナちゃんの肩越しに覗き込んだフェイさんが教えてくれた。

「りすさん、けがをしているの?まっててね、いまなおしてあげる。」

 ハンナちゃんがリスに治癒を施すとリスの怪我が見る間にふさがっていく。

「ハンナちゃんもなかなか手馴れてきましたね。」
 
 フェイさんも感心したようだ。そう、このところハンナちゃんの上達が著しいの。

 ハンナちゃんの両手をあわせた手のひらの上に乗っていたリスは傷が治ると頭を左右に振って周囲を確認すると、木の枝を上るようにハンナちゃんの腕を登っていき肩の上に止まった。

「怪我を治してもらったのが分ったのでしょうか?どうも懐かれたようですね。」

 ハンナちゃんの肩から下りようとしないリスを見てフェイさんが言う。

「ターニャおねえちゃん、りすさん連れて帰ってもいい?」

 ハンナちゃんが上目遣いに聞いてくる。そんな目で見られたら置いていきなさいって言えないよ。

 わたしは、フェイさんに助けを求めると、

「動物を飼うのは子供の情操教育に良いと言いますので、許しても良いのではないですか。
 わたしも世話をするのを手伝いますし。」

とフェイさんが言った。フェイさん、あなたもですか…。

「ハンナちゃん、ちゃんとお世話できるなら連れて帰ってもいいですよ。」

 フェイさんがハンナちゃんに注意をすると、

「うん、ハンナ、ちゃんとおせわするよ。」

とハンナちゃんはいい笑顔で答えた。


 縞リスの『りすさん』がハンナちゃんの仲間に加わった…。


     **********


 りすさんを連れて別荘に戻るともうみんな起きていて、今日の予定を話し合っていた。
 今日は一昨日来るときに通った全国各地の名店が並ぶと言う街を見に行くことになったみたい。
 お昼時にあわせて行って街の中の食事処で昼食をとってから街をぶらつこうということになった。

 ちなみに『りすさん』は人懐っこくてあっという間にみんなの人気モノになっていた。

 そして、やってきました夏しか人がいない街、街中をゆっくりと見て歩けるように街の入り口に馬車を止めるところがあるんだよ。
 そこから、ゆっくりと街を見ながら歩くの、最初の目的地はエルフリーデちゃんお勧めの地元料理のお店。

 個室に通されると大きな鍋にぐつぐつと煮えくり返った粘度のある黄色い液体とパンや野菜それにハムやソーセージが大皿に盛り付けられて出てきた。

「お鍋に入っているのは白ワインで溶かしたチーズです。チーズは北部地域の特産品なのですよ。
 大皿の上の食材を手元にある金串にさして、鍋の中のチーズに漬けて食べてください。
 熱いから火傷しないように注意してくださいね。」

 言われたとおりパンを一欠けら金串の先につけてチーズに浸して食べてみる。
 パンにトロリと溶けたチーズが絡み、口に入れると芳醇なチーズの味がいっぱいに広がる。
 うん、名物料理というだけあって美味しいね。
 パンもあうけど、野菜もいいね、アスパラ、ベビーコーン、茹で芋、どれも溶けたチーズと良くあった。角切りにしたハムや茹でたソーセージもチーズと相性が良かった。
 つい、お腹いっぱい食べ過ぎたよ。


 お腹が膨れたところで街を見て歩くことにした。
 普段は街を歩くことがない貴族達がのんびりと歩けるように、道には馬車が通るスペースの両脇に歩行者専用のスペース有り、馬車と歩行者のスペースの境には鉄柵が設けられている。
 これなら、馬車を気にせずに街をみて歩けるね。

 
 エルフリーデちゃんの領地は鉱物資源が豊富だと言っていただけあって、宝飾品の店が多かった。宝飾品の店の中には地元の店と並んでシーマ男爵領の真珠の店もあったのには驚いたよ。

 みんな子供といえども貴族の女の子、並んだ宝飾品をうっとり眺めている。
 もちろん買わないよ、貴族とはいえ子供にそんなお金持たせる訳ないもん。

 宝飾品に縁のないわたし達三人が飽きてきた頃、エルフリーデちゃんがわたし達に気遣って言ってくれた。

「ターニャちゃんが冬に買ってきてくれた貝殻細工、とてもきれいでしたよね。
 うちの領地にも貝殻じゃないけどきれいな細工品があるのですよ。
 それでしたら、宝飾品ほど高くはないし、子供のわたし達でも普段身に着けれるので見に行きましょうか。
 髪飾りなんてとてもきれいですのよ。」

 エルフリーデちゃんのお勧めのお店の中に入るとそこで目にしたのは、

「虹色に輝く石?」

とミーナちゃんが不思議がるものだった。

 虹色というより玉虫色かな?

 その店の商品棚には、光沢のある緑や赤、青などが混じって光る不思議な石を使った、髪飾りやペンダントなどが並べられていた。

「鉱山を掘っていると巻貝の形をした石が出てくるのです。
 その巻貝の形の石を割ると稀にこのような美しい色のものがあるのです。
 非常に美しいし、あまりたくさん取れるものではないのですが、ダイヤやルビーといった貴石に比べて脆い物ですから価値の保存手段としては向かないと言うことで手頃な値段なのです。
 この髪飾りなんて素敵でしょう。」

 エルフリーデちゃんが指差した髪飾りは、金で縁取られた蝶のデザインで羽の部分に薄くカットされた虹色の石が嵌め込まれていた。
 そこには、銀貨十枚と値段が記されている。
 うーん、銀貨十枚、安くはないけど平民でも買えない値段ではないよね。
 ここでしか買えないなら、ちょっと無理して記念に買うのも良いかも知れないね。

 どうしようかと迷ったけど、結局、わたしもミーナちゃんも気に入った髪飾りを一つずつ買うことにした。
 もちろん、ハンナちゃんにも記念に一つ買ってあげたよ。ただ、本人はあまり興味がなかったみたいで、みんなでどれがハンナちゃんに似合うかを話し合って買ったんだ。
 ウサギの形にカットされた石が嵌め込まれたペンダントにしたよ。髪飾りだとどこかにぶつけて落としそうだから。



しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【完結】追放された転生聖女は、無手ですべてを粉砕する

ゆきむらちひろ
ファンタジー
「祈るより、殴る方が早いので」 ひとりの脳筋聖女が、本人にまったくその気がないまま、緻密に練られたシリアスな陰謀を片っ端から台無しにしていく痛快無比なアクションコメディ。 ■あらすじ 聖女セレスティアは、その類稀なる聖なる力(物理)ゆえに王都から追放された。 実は彼女には前世の記憶があって、平和な日本で暮らしていたしがないOLだった。 そして今世にて、神に祈りを捧げる乙女として王国に奉仕する聖女に転生。 だがなぜかその身に宿ったのは治癒の奇跡ではなく、岩をも砕く超人的な筋力だった。 儀式はすっぽかす。祈りの言葉は覚えられない。挙句の果てには、神殿に押し入った魔物を祈祷ではなくラリアットで撃退する始末。 そんな彼女に愛想を尽かした王国は、新たに現れた完璧な治癒能力を持つ聖女リリアナを迎え入れ、セレスティアを「偽りの聖女」として追放する。 「まあ、田舎でスローライフも悪くないか」 追放された本人はいたって能天気。行く先も分からぬまま彼女は新天地を求めて旅に出る。 しかし、彼女の行く手には、王国転覆を狙う宰相が仕組んだシリアスな陰謀の影が渦巻いていた。 「お嬢さん、命が惜しければこの密書を……」 「話が長い! 要点は!? ……もういい、面倒だから全員まとめてかかってこい!」 刺客の脅しも、古代遺跡の難解な謎も、国家を揺るがす秘密の会合も、セレスティアはすべてを「考えるのが面倒くさい」の一言で片付け、その剛腕で粉砕していく。 果たしてセレスティアはスローライフを手にすることができるのか……。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」、「アルファポリス」に同内容のものを投稿しています。 ※この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。よろしければそちらもご覧ください。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...