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第8章 夏休み明け
第201話 花の迷路を作る
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学園祭の三日前、わたし達は高等部の魔法実習場に来ている。魔法実習場と言っても高等部の建物の横にある単なる広場だ、いや荒地と呼んだ方が良いのかな。
剥き出しの表土には所々雑草が生えていて、殆ど手入れがされていないのがわかる。
まあ、魔法実習に使われて、耕されたり、穴を掘られたり、表土を固められたりするのだから手入れをするだけ無駄か。
わたし達は、ここに学園祭で出店する花の迷路を造るために来たの。
高等部の校舎のすぐ隣で立地は良いのだろう、当日は他にも出店が並ぶらしいし…。
「荒地ね……。」
高等部のお姉さんの一人が呟いた。いや、お姉さん高等部の生徒なんだからこの場所の状態はわかったいたでしょう。
この学園の生徒は七、八割が貴族の子女、残りが平民なんだけどそのほぼ全てが農作業とは無縁な大商人の子女だ。実際の農作業などしたことがある訳がない。
もう種蒔きができる状態だと思っていた人が多かったみたい。だって、みんな、お出かけするような服装なんだもの。
その中で、ラインさんとルーナちゃんだけが、いかにもこれから農作業をしますという感じの動きやすそうな服装をしている。汚れてもかまわないという感じの木綿の服の上に革製の前掛けを着けている。足元は革製の長靴だしね。
麦藁帽子を被った姿はどこから見ても農家の娘さんだ、とても貴族のお嬢様には見えないよ…。
「魔法実習場ですもの、そのままでは使えないことはわかっていたでしょう?
さあ、頑張って耕しますよ!」
「はーい」
ラインさんがハッパをかけたけどみんなは気の抜けた返事を返している。
「あらあら、大丈夫ですの?今日中に発芽までやってしまう予定なのですよね。」
わたしの隣でその様子を見ていたフローラちゃんが呆れている。
わたし達が来たことに気づいたラインさんが、
「ゴメンね、ターニャちゃん、かっこ悪いところ見せちゃって。
みんな、やる気はあるのよ。
ただ、花の栽培なんて自分でやったことがない人ばかりなので勝手がわからないようなの。
単に種を蒔けばいいと思っていた人が多かったみたい。
ところで、隣の方はどなたかしら?」
と言った。隣のフローラちゃんを誰かわからないようだ。
たしかに、今日はわたしやミーナちゃんとお揃いで、村娘風の服を着ているものね。
フェイさんに頼んで動きやすい服をハンナちゃんもあわせて四人分そろえて貰ったんだ。
この恰好じゃあ、王女様だなんて思わないよね。
「ごきげんよう、ラインさん。
ターニャちゃんのクラスメートのフローラです。今日はよろしくお願いしますね。」
「フローラって…、ひ、ひめさま!?」
名前を聞いたラインさんは、フローラちゃんの顔をジーと見て、やっと気づいたようで驚きの声を上げた。
「学園の中なので気軽にフローラと呼んでいただいてかまいませんわ。
ターニャちゃんから手伝ってと言われたの。
聞けば何やら楽しそうなことをすると言うじゃない、是非とも協力させていただくわ。」
あ、ラインさんが固まってしまった…、ちょっと驚きすぎじゃない。
「ラインさん、驚かせちゃったみたいでごめんなさい。
迷路の大きさを聞いて、わたしとミーナちゃんだけではきつそうなので応援を呼んだの。
こっちの小さな子はハンナちゃんって言うのよろしくね。」
わたしはラインさんに詫びると共に、わたしの背に隠れていたハンナちゃんを紹介した。
「本当よ、姫様も一緒にこられるなら前もって教えてくれないとビックリするじゃない。
ところでなに? もしかしてフローラ様やハンナちゃんも植物の成長促進が使えるの?」
「うん、そうだよ。二人とも強力な助っ人だよ。」
驚いて固まっていたラインさんだったけど、ハタと何か思いついたような表情になってやる気無さげなみんなに向かって言った。
「みんな、フローラ姫様が手伝いに来てくださいました!さあ、頑張って作りましょう!」
そうだね、起爆剤にはいいかもね…。
**********
結果としてはラインさんの思惑通りだった。
王族の前でみっともない姿は見せられないと思ったようで、みんな俄然やる気を出したよ。
さすが、高等部のお姉さんが中心になっているだけあって、みなさん土属性の魔法の使い方が巧みだった。
あっという間に五シュトラーセ四方の広い面積をきれいに整地した上に、種を蒔ける様に耕したの、しかも丁寧に。初等部とは比べ物にならないと感心したよ。
でも、これからが大変だった。
お姉さん達が縄と細い棒を持って駆け回っている。
設計図を見ながら迷路の曲がり角になる所に棒を立てそこを縄で結んでいる。
あ、転んだ…。
やっぱり、素人のやること、最初に一辺五シュトラーセの正方形を固める時点で何度もやり直しをした。きちんと角が直角にならないで形が歪んでしまうみたい。
外形がいい加減だと中の通路が上手く作れなくなってしまうので大変だ。何とかきちんとした正方形が描けたときはだいぶ時間が押していた。
そして繰り広げられる目の前の光景、時間に追われて小走りになりながら縄張りをしている。
ここでも、長さを測り間違えたり、曲がり角が直角になっていなかったりで何度かやり直すことになったみたい。
そして、設計図どおりに縄を張り、通路となる部分に『固化』の魔法をかけて表面を石畳のように固め終わったときには、お姉さん達はぐったりと疲れ切っていた。
そこに、ラインさんとルーナちゃんが二人でコスモスの種を蒔いている。あ、ミーナちゃんも手伝いに行った…。
「ターニャちゃん、種蒔き終ったよ!今日は発芽までで止めておいてちょうだい。」
ラインさんに声をかけられてやっとわたし達の出番だ。
わたし達は、ミーナちゃん、フローラちゃん、ハンナちゃんと手分けをして蒔かれたコスモスの種の発芽を促していく。四人で手分けをしたのであっという間だった。
ラインさんの依頼だと明後日、学園祭の前日に開花するようにして欲しいとのことだ。
そうすると、明日わたし達の背丈ぐらいまで延ばして、それからは明後日かな。
**********
そして、学園祭前日、予定通りコスモスは色とりどりの花をつけていた。
迷路の入り口に入場料を徴収するカウンターも作ったし、出口の近くには去年と同じように球根を販売するための屋台も設けた。
もちろん、花を咲かせて売るための鉢植えの準備も終ったよ、鉢に土をつめて球根を埋め込む作業。
さあ、準備万端だ!
剥き出しの表土には所々雑草が生えていて、殆ど手入れがされていないのがわかる。
まあ、魔法実習に使われて、耕されたり、穴を掘られたり、表土を固められたりするのだから手入れをするだけ無駄か。
わたし達は、ここに学園祭で出店する花の迷路を造るために来たの。
高等部の校舎のすぐ隣で立地は良いのだろう、当日は他にも出店が並ぶらしいし…。
「荒地ね……。」
高等部のお姉さんの一人が呟いた。いや、お姉さん高等部の生徒なんだからこの場所の状態はわかったいたでしょう。
この学園の生徒は七、八割が貴族の子女、残りが平民なんだけどそのほぼ全てが農作業とは無縁な大商人の子女だ。実際の農作業などしたことがある訳がない。
もう種蒔きができる状態だと思っていた人が多かったみたい。だって、みんな、お出かけするような服装なんだもの。
その中で、ラインさんとルーナちゃんだけが、いかにもこれから農作業をしますという感じの動きやすそうな服装をしている。汚れてもかまわないという感じの木綿の服の上に革製の前掛けを着けている。足元は革製の長靴だしね。
麦藁帽子を被った姿はどこから見ても農家の娘さんだ、とても貴族のお嬢様には見えないよ…。
「魔法実習場ですもの、そのままでは使えないことはわかっていたでしょう?
さあ、頑張って耕しますよ!」
「はーい」
ラインさんがハッパをかけたけどみんなは気の抜けた返事を返している。
「あらあら、大丈夫ですの?今日中に発芽までやってしまう予定なのですよね。」
わたしの隣でその様子を見ていたフローラちゃんが呆れている。
わたし達が来たことに気づいたラインさんが、
「ゴメンね、ターニャちゃん、かっこ悪いところ見せちゃって。
みんな、やる気はあるのよ。
ただ、花の栽培なんて自分でやったことがない人ばかりなので勝手がわからないようなの。
単に種を蒔けばいいと思っていた人が多かったみたい。
ところで、隣の方はどなたかしら?」
と言った。隣のフローラちゃんを誰かわからないようだ。
たしかに、今日はわたしやミーナちゃんとお揃いで、村娘風の服を着ているものね。
フェイさんに頼んで動きやすい服をハンナちゃんもあわせて四人分そろえて貰ったんだ。
この恰好じゃあ、王女様だなんて思わないよね。
「ごきげんよう、ラインさん。
ターニャちゃんのクラスメートのフローラです。今日はよろしくお願いしますね。」
「フローラって…、ひ、ひめさま!?」
名前を聞いたラインさんは、フローラちゃんの顔をジーと見て、やっと気づいたようで驚きの声を上げた。
「学園の中なので気軽にフローラと呼んでいただいてかまいませんわ。
ターニャちゃんから手伝ってと言われたの。
聞けば何やら楽しそうなことをすると言うじゃない、是非とも協力させていただくわ。」
あ、ラインさんが固まってしまった…、ちょっと驚きすぎじゃない。
「ラインさん、驚かせちゃったみたいでごめんなさい。
迷路の大きさを聞いて、わたしとミーナちゃんだけではきつそうなので応援を呼んだの。
こっちの小さな子はハンナちゃんって言うのよろしくね。」
わたしはラインさんに詫びると共に、わたしの背に隠れていたハンナちゃんを紹介した。
「本当よ、姫様も一緒にこられるなら前もって教えてくれないとビックリするじゃない。
ところでなに? もしかしてフローラ様やハンナちゃんも植物の成長促進が使えるの?」
「うん、そうだよ。二人とも強力な助っ人だよ。」
驚いて固まっていたラインさんだったけど、ハタと何か思いついたような表情になってやる気無さげなみんなに向かって言った。
「みんな、フローラ姫様が手伝いに来てくださいました!さあ、頑張って作りましょう!」
そうだね、起爆剤にはいいかもね…。
**********
結果としてはラインさんの思惑通りだった。
王族の前でみっともない姿は見せられないと思ったようで、みんな俄然やる気を出したよ。
さすが、高等部のお姉さんが中心になっているだけあって、みなさん土属性の魔法の使い方が巧みだった。
あっという間に五シュトラーセ四方の広い面積をきれいに整地した上に、種を蒔ける様に耕したの、しかも丁寧に。初等部とは比べ物にならないと感心したよ。
でも、これからが大変だった。
お姉さん達が縄と細い棒を持って駆け回っている。
設計図を見ながら迷路の曲がり角になる所に棒を立てそこを縄で結んでいる。
あ、転んだ…。
やっぱり、素人のやること、最初に一辺五シュトラーセの正方形を固める時点で何度もやり直しをした。きちんと角が直角にならないで形が歪んでしまうみたい。
外形がいい加減だと中の通路が上手く作れなくなってしまうので大変だ。何とかきちんとした正方形が描けたときはだいぶ時間が押していた。
そして繰り広げられる目の前の光景、時間に追われて小走りになりながら縄張りをしている。
ここでも、長さを測り間違えたり、曲がり角が直角になっていなかったりで何度かやり直すことになったみたい。
そして、設計図どおりに縄を張り、通路となる部分に『固化』の魔法をかけて表面を石畳のように固め終わったときには、お姉さん達はぐったりと疲れ切っていた。
そこに、ラインさんとルーナちゃんが二人でコスモスの種を蒔いている。あ、ミーナちゃんも手伝いに行った…。
「ターニャちゃん、種蒔き終ったよ!今日は発芽までで止めておいてちょうだい。」
ラインさんに声をかけられてやっとわたし達の出番だ。
わたし達は、ミーナちゃん、フローラちゃん、ハンナちゃんと手分けをして蒔かれたコスモスの種の発芽を促していく。四人で手分けをしたのであっという間だった。
ラインさんの依頼だと明後日、学園祭の前日に開花するようにして欲しいとのことだ。
そうすると、明日わたし達の背丈ぐらいまで延ばして、それからは明後日かな。
**********
そして、学園祭前日、予定通りコスモスは色とりどりの花をつけていた。
迷路の入り口に入場料を徴収するカウンターも作ったし、出口の近くには去年と同じように球根を販売するための屋台も設けた。
もちろん、花を咲かせて売るための鉢植えの準備も終ったよ、鉢に土をつめて球根を埋め込む作業。
さあ、準備万端だ!
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