精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第11章 王都、三度目の春

第277話 残念王子の側近は…

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「なんだ、貴様は。余はまだ納得しておらんぞ。」

 噛み付くトレナール王子にミルトさんが言う。
 しかし、この王子誰彼かまわず噛み付くな、本当に自分より偉い人はいないと思っているのか…。

「私はこの子の後見人よ。
 この子がイヤだと言っているのだから、諦めてお国に帰ってくださいな。
 だいたい十八歳の青年が十歳の少女に婚姻を迫るなんて外聞がよろしくなくてよ。」

「ふざけ…」

 トレナール王子が何か言いかけたところで、今度は公使が王子の口を塞いだ。ハンカチで物理的に…。

「これはこれは、皇太子妃殿下、私共の第三王子がご無礼なことを申しまして誠に申し訳ございません。
 この王子はいささか言動に問題がございまして、本国でも蟄居を命じられていたはずなのですがどうやら逃亡してきたようでして。
 後ほど正式な謝罪に伺いますので、この場は寛大な措置をお願いいたします。」

 公使はミルトさんに平謝りだ、顔色も悪くしているし…。
 自国の王子が大国の皇太子妃に暴言を吐いたのだから仕方がないか。

「そうですか、では、この子は私が後見人をしているので、今後この子に勝手に接触することを禁じます。
 それを守っていただけるのであれば、この場は見逃しましょう。
 それが破られた時には外交問題とさせていただきますので、そちらの王子には良く言い聞かせてくださいね。
 あと、事情聴取がしたいので、そこにいる王子の側近をここに残していただけますか。」

「寛大なお言葉に感謝いたします。
 今後このお嬢さんに接触することはないように王子にはきつく言って聞かせます。
 で、側近をここへおいていけと言うお申し付けですが…。」

 公使はそう言いながらエフォールさんの顔をうかがった。
 きっと、本来なら口裏を合わせるため一旦全員で帰りたいところだろう、公使はエフォールさんを残しても問題ない人物かを考えているみたい。

「おまえ、もしかしてエフォールか?」

「はい、公使、お久し振りでございます。私のような者の名前を覚えていて頂けるとは光栄です。」

「おまえ、何でここにいる?
 私はおまえのことを外務か、内務のそれなりのポストへ就けるように指示したはずなのだが。
 よりによって外れ王子のお守り役なんていう閑職に置くとはどういうことだ。」

 あれ、公使はエフォールさんと知り合いなのかな。
 しかし、『外れ王子のお守り役』とか言ってるけど本人が目の前にいるんだよ、いいのそれ。

「あら、公使はその側近の方と知り合いなのかしら。」

「あ、皇太子妃様、勝手に話し込んでしまい失礼しました。
 私は公使になる前、官吏登用の仕事をしておりまして、公使として赴任する直前に採用した者なのです。
 官吏登用試験を受ける者としては珍しい平民でありながら、抜群の成績だったものでたまたま記憶に残っていたのです。
 わかりました、この者であれば粗相はないと思いますのでここに残してまいりましょう。」

 公使は、エフォールさんを迂闊に秘密を漏らしたり、無礼な対応をしたりする人物ではないと判断したようだね。


     **********


 「余は納得がいかん、まだ帰らぬぞ。」とか喚いているトレナール王子を引き摺るように公使が立ち去った寮の応接室、一人取り残されたエフォールさんが戸惑いの表情を見せている。

 それはそうだ、今室内にいるのは皇太子妃のミルトさん、その侍女(実は女官)のリタさん、フローラちゃんにわたしと見事に女子供ばかりだもの。
 取調官らしきものを呼んだ気配もないしね。
 だいたい不法入国者一人に皇太子妃が自ら尋問するなんて思いもしないだろう。

「さて、改めて自己紹介するわね、私はこの国の皇太子の妃でミルトよ。
 ここに至った経緯などを細かく聞きたいけど、まずはあなたのことを聞かせてもらえるかしら。
 さっきの公使の話では、今のあなたの立場と公使が推した立場は違うようだけどその辺のことも聞きたいわ。」

 エフォールさんは更に面食らっていた、わたしは最近まで知らなかったのだけど王族が直接声をかけることは諸外国では稀な事らしい。
 他の国では近習、ミルトさんの場合ならリタさんの立場の人が声をかけるそうだ、そして返答もリタさんに対して行うらしい。
 しかし、今リタさんの格好はどう見ても侍女であり近習には見えないし、質問はミルトさんから直接された、エフォールさんは直接ミルトさんに返答してよいものか迷っているみたい。

「どうしたの、何か答え難いことでもあるのかしら?」

 ミルトさんに促されてエフォールさんが言う。

「あの、直答を許していただけるのでしょうか。」

「あら、面白いことを言うのね、私が質問しているのに私以外の誰に答えるというの。
 細かいことは気にしないで良いから、早く話してくれる。」

 ミルトさんにそういわれて安心したのかエフォールさんが話し始めた。

「私はエフォールと申します。私は平民でして、我が国では平民に家名はございません。
 貿易商の三男に生まれまして、家業は兄が継ぐこととなっているため官吏を目指したのです。」

 エフォールさんの家は貿易商なので外国の人が頻繁に出入りしているそうだ。
 子供の頃から、家を訪れた人に外国の話を聞き海外の国に憧れを持ったみたい。
 それで、外交官になりたくて官吏を目指したらしい。

 私塾を卒業して官吏登用試験を受けて官吏になったのが三年前、そのときは公使の言ったとおり外務卿の下で三ヶ国連合の調整をする部署に配属されたとのこと。
 なんでも、この部署は官吏の中でも花形らしく、従来貴族しか配属されていなかったそうだ。
 その中で、メキメキと頭角を現したエフォールさんは貴族の中から疎まれるようになったみたい。
 出る杭は打たれるってやつだね。

 今から、二年前、トレナール王子が問題を起こして離宮に蟄居を命じられたとき、平民のエフォールさんが花形部署にいることを妬んだ貴族達の策略でトレナール王子の側近を押し付けられたとのこと。
 官吏になってまだ二年目のエフォールさんは立場的には見習い同然で、何処に配置換えになっても文句言えない立場だったそうだ。
 それに加えて、王族の側近というのは官吏の中でもかなり上の立場にあり、形式の上では大抜擢なためエフォールさんを可愛がってくれた外務の上司も文句言えなかったみたい。


「ところであなた、王国語が堪能だけどノルヌーヴォ王国の公用語は王国語と共通なのかしら。」

 話が一旦途切れたところで、ミルトさんはエフォールさんが流暢に王国語の会話をこなす事に違和感を感じたみたい。

「いいえ、ノルヌーヴォ王国を始めとする三ヶ国連合は、西大陸の諸国と融合を図るため、西大陸共通語を公用語としております。
 こちらの国の言葉とは全くと言って良いほど言語体系が異なります。」

 エフォールさんの話では西大陸は地域によって方言はあるものの、何処の国も西大陸共通語を公用語にしているとのこと。
 エフォールさんの場合、東大陸への憧れがあったことから、子供の頃から帝国語と王国語を独学で学んできたそうだ。
 エフォールさんの家に出入りする帝国人や王国人を相手に会話の練習をしたんだって、凄いね。

 あれ、そういえば、トレナール王子も流暢に王国語を話していたよ、全く違和感を感じなかったし。
 どういうこと?
 


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