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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない
第443話 けっこう大きな影響が出てしまったようです
しおりを挟む「ねえ、おかあさん。
ソールさんのあの光、拙いんじゃない?
馬車なんか事故を起こしているかもしれないよ。」
結構長い時間、帝都全体が眩い光に包まれたのだから……。
馬なんか驚いて暴走するかもしれない。
人だって、階段や梯子から転落するかもしれないしね。
わたしの指摘にウンディーネおかあさんはお茶目にテヘッと笑って。
「あら、やっぱり人の多いところであれだけの術を使ったのは拙かったかしら。
私達のしたことで無関係の人達が傷つくのは気が引けるわね。
今度は私が少し力を出しましょうか。」
そんなことを言うやいなや、仄かに青い光がウンディーネおかあさんを中心に広がったの。
優しい光、ウンディーネおかあさんの放つ『癒し』の術だ。
小さな頃怪我をするとこうしてよく治してくれたっけ……。
って、違う!これはこれで拙いって。
「おかあさん、ストップ!、ストップ!」
「うん?どうかした?」
わたしが慌ててウンディーネおかあさんを制止するとのんきな返事が帰ってきた。
「おかあさん、この『癒し』の力は拙いって。
これじゃあ、瀕死の病人まで元気になっちゃう。
こんなのを帝都中に広げたら別の意味で騒ぎになっちゃうよ。」
「えっ、何かいけなかったかしら?」
わたしの指摘をウンディーネおかあさんは理解できないようで、不思議そうな顔をしたの。
大精霊の放つ『癒し』は人から見たらまさに奇跡のような力だ、だって死んでなければ治っちゃうんだもの。
そんなモノが皇宮を中心に帝都中に広がれば、どんな噂が立つことやら想像が出来ない。
でも、ウンディーネおかあさんは癒されるのなら良いじゃない程度にしか思っていないようなの。
人の社会に与える影響なんてものは、ウンディーネおかあさんにとっては些事みたい。
しかし、このウンディーネおかあさんの『黒の使徒』に対するチョットした意趣返し、これがケントニスさんが皇帝としての地位を固める上で追い風になったの。
何が幸いするか分からないね……。
**********
最初にソールさんが放った『浄化』の光、これによって『色の黒い人』が『色なし』に変わるのを帝都の各地で目撃されたの。
例えば、『黒の使徒』傘下のゴロツキが酒場の主に店先でみかじめ料を脅し取ろうとしている現場とか、『色の黒い』貴族が上流階級向けのカフェでお茶を楽しんでいるところとか。
とにかく、街中の人が集まるところで目撃されたの。
そして、帝都に住む人々は察したみたい、さっきの光が『色の黒い人』からご自慢の『黒い』容姿と魔力を奪い去ったのだと。
流石にカフェでお茶をしている貴族に暴行を加える者はいなかったが、みかじめ料をせしめようとしていたゴロツキは酒場の主人と近所の男等によって袋叩きにされたようだ。
『黒の使徒』の傘下のゴロツキたちが袋叩きにされるのは帝都の各地で目撃されたようだが、衛兵は近くにいても見て見ぬ振りをしたそうだ。衛兵はだれも暴行を止めようとしなかったのだって。
『黒の使徒』傘下の連中は、帝都でも我が物顔で振る舞って衛兵の恨みを買っていたらしい。
その日のうちに帝都中にこんな噂が流れたそうだ。
曰く、『黒の使徒』に連なる人たちの横暴な振る舞いが神の怒りに触れ、天罰が下った。
曰く、神は、与えた豊富な魔力を用いて、人々を虐げた『黒い』者を赦しはしなかった。
この噂が流れると程なくして、帝都に在った『黒の使徒』の本部及び五の月の騒動以降も残っていた傘下の組織の者が一人残らず帝都から逃げ出したとのこと。
帝都の人達からの報復を恐れて逃げ出したみたい。
自分たちが如何に帝都の民を虐げていたかは、それを悪いと思っているか否かは別として、自覚はしていたようだ。
同じく、『黒の使徒』の息のかかった貴族連中も帝都から逃げ出したと聞いている。
その貴族たちの多くは、皇宮の火災で当主を失っており、後ろ盾だった前皇帝の崩御に伴い自分達の不利を悟ったらしい。
領主貴族は領地へ、宮廷貴族は『黒の使徒』ネットワークで婚姻関係にある地方領主を頼って、帝都を離れたそうだ。
そうそう、この騒動の切欠となった魔導部隊なんだけど、全員反逆罪で軍法会議に掛けられた。
例によって、軍法会議の場で、「我々は逆賊ケントニスに正義の鉄槌を下そうとしたのだ。」とか訳の分からないことを言って、議長を務める将軍の頭を悩ませたそうだ。
まあ、弁明の余地もなく全員縛り首になったという。
将軍たちは話の通じない連中を裁くのに疲れ切った様子だったらしいけど、会議後は軍のお荷物を一掃出来たといってホッとした表情をしていたとのこと。
ただね、『色の黒い人』にも可哀想な人達が居た訳なんだ…。
それは、突然、お腹の赤ちゃんを失った妊婦さん。
当然、お腹の子が魔獣化していたなど知る由もない。
楽しみにしていた赤ちゃんを失った悲しみ、喪失感は、子供のわたしには想像できないほど強いのだと思う。
何も知らないで『黒の使徒』の連中に勧められるまま、瘴気の森の木材で作られた調度品に囲まれて生活した結果が胎児の魔獣化と浄化による消滅では、なんともやるせないね。
その一点だけでも、『黒の使徒』の連中を絶対に赦してはいけないという怒りを感じるよ。
**********
一方でウンディーネおかあさんの放った『癒し』の術の影響なんだけど……。
わたしの懸念どおり、ソールさんの眩い『浄化』の光のせいで帝都の各所で事故が生じたそうなの。
ウンディーネおかあさんの『癒し』の術は目的どおり、その事故で傷ついた人々を癒してくれたの。
ただね、やはり術の効果はそれに留まらなかったみたい、仄かに青く輝くの癒しの波が通り過ぎた後には数々の奇跡が起こったそうなの。
あるところでは高所から転落して寝たきりになっていたトビ職の男性がいきなり全快して仕事に復帰したという話が聞かれたの。
また、あるところでは治癒術師に見せるお金も、薬を買うお金もない貧しい家庭で、病気のために命の灯火が消えかけていた幼子が急に起き出して『お腹が空いた』と言ったという。
極めつけは、老衰で死の床にいたおじいちゃんが、『癒し』が放たれた翌日、かくしゃくとして町を歩いているのが目撃されたそうなの。それって、良いのだろうか……。
この奇跡を起こした光の波が、皇宮の方から流れてきたと目撃していた人から伝わるとこんな噂になったの。
曰く、新しいの皇帝の誕生を神が祝福して、帝都の民に奇跡をもたらしてくれた。
結局、ケントニスさんが皇帝の座に就くにあたり、神は新皇帝の治世を阻もうとする旧弊を排除するために『黒の使徒』とそれに連なるものに天罰を与え、一方で新皇帝の誕生を祝福して人々に奇跡を与えてくれたとする噂が市井の人々の間で流布することになったの。
これは、ケントニスさんの治世にとって極めて強いアドバンテージになったんだ。
こうした追い風を受けて、前皇帝の国葬と新皇帝としての即位式にケントニスさんは臨む事になるの。
はたして、何事もなく乗り切ることが出来るだろうか……。
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