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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない

第464話 本当の家族

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 あの日、わたしはハンナちゃんを大泣きさせてしまった。
 凄く申し訳ないと思ったよ。
 
 でも、教皇がわたしの本当の両親を殺害したと聞いて理性が保てなかったの。

 ただ、こうなってしまったのはそれだけが原因ではないと思う。
 わたしの本当のお母さんがわたしを護ろうとしてくれた、わたしは要らない子ではなかったんだ。
 それを聞いた時、わたしは人に生まれたことに満足してしまった。
 人の姿に未練がなくなってしまったと言った方が正しいかも。

 わたしは精霊の森で育てられる中で何度も聞かされてきた。
 周りのみんなが数千年の時を生きる一方で、わたしは長くても八十年しか生きられないと。
 
 それが凄く悲しかったの。
 出来ればずっとおかあさん達と一緒にいたい。
 叶わない願いと知りつつも、小さな頃からずっと思っていたの。

 最初に倒れた時、人の器ではマナを収めきれないと聞いて考えたの。
 人の器を脱ぎ捨てたらどうなるのかと、もしかして……。
 そして、わたしの想像通りになった、おかあさん達とずっと一緒にいられる。

 わたしはそう喜んだのだけど、周囲の目は微妙だ……。
 ウンディーネおかあさんはため息をついているし、ミーナちゃんはジト目で見ている。

 ウンディーネおかあさんはわたしがこうなってしまうのを予感していたみたい。
 少しでも長く普通の人間として生きて人の幸せを感じて欲しかったようで、無茶をしないように監視していたそうだ。

 一方のミーナちゃん、成長期のみんなと一緒に過ごす中で、わたしだけ十二歳の姿のままではおかしいと思われると言い。
 それでは、ずっと一緒にいることが出来ないじゃないと言われてしまった。

 そんな中で、ハンナちゃんだけがわたしが帰ってきたことを手放しに喜んでくれたの。
 ハンナちゃんにとっては、わたしが人間でも精霊でも関係ないみたいだった。
 喜んでくれてホッとしたよ、ずっと一緒にいるといった約束を破ることになったかと思っていたから。


 精霊になったから何かが変わったかといえば、自分では余り変わった気がしないの。
 夜は眠るし、ご飯も食べる。他の精霊と違ってちゃんと味覚もあるよ。

 夜眠いと思うのは本当に眠いのではなく、今まで習慣から眠いように感じるのだろう。
 同様に、何か食べたいと思うのもお腹が空いたわけではなく、食事時になると習慣でそう感じるのではないか。
 ウンディーネおかあさんはわたしの行動を見て、そんな風に考察していたの。


     **********


 何はともあれ、エーオースおかあさんに報告しないと拙いということになり、翌日も学園をサボってわたしはウンディーネおかあさんと精霊の森に帰省することにした。

 ハンナちゃんも付いて来ようとしたけど、「精霊の森に行くのなら危ないこともないでしょう」とミーナちゃんが言って学園に連れて行ってしまった。
 二日連続で学園をサボるのは許さないって。


 精霊の森に帰ると四人のおかあさん達が微妙な表情で出迎えてくれた。
 それを見てウンディーネおかあさんは気まずそうな顔をしているよ。

「ターニャ、おかえりなさい。
 色々と言いたいことはあるけど、取り敢えずはあなたが無事でよかったわ。」

 そう言って、エーオースおかあさんはわたしを抱きしめてくれた。

 精霊になってしまったことは不本意みたいだけど、わたしが消えてしまわなくてホッとしたようだった。

「あなたは人の身でマナを生み出すという小さな頃から不思議な体質だったけど。
 まさか、精霊になってしまうとは……。
 何千年も過ごしてきたけれど、人が精霊になるなんて初めてみたわ。」

 エーオースおかあさんは数千年の時の中で色々な事を知ってきたけど、自分達精霊のことが一番解らないと言う。
 他の生物のように親から生まれるわけでなく、突然小さな光として発生し長い年月を経て自我を持つ。そして、人と同じような姿を持つようになる。
 その発生原理からして謎なのに、まさか人が精霊になってしまうなどとは考えもしなかったみたい。

 マナを生み出せる人が生まれて、それが精霊になる。
 しかも、いきなり大精霊クラスの力を持つ精霊に、謎は深まるばかりだ……。

 そもそも、精霊って生き物なのだろうか?


     **********


「ターニャ、精霊になってしまったと言うことは人とは別の時の流れの中を生きることになるのよ。
 その覚悟はあるの、あなたはかけがえのない友達が老いて亡くなるのを見送ることになるの。
 それは、とっても悲しいことよ。
 わたしたちの中でもたった一人、ウンディーネだけはその悲しみを知っている。
 かつての愛娘が亡くなった季節になると二千年の時を経た今でも悲しい目をしているの。」

 うん、知っているよ。
 小さな頃、寝物語にヴァイスハイトさんの話を聞かせてもらった時、時々凄く悲しそうな顔をしていたから。

 でもね、ウンディーネおかあさんがミルトさんやフローラちゃんを見るときって、凄く優しい目をしていて嬉しそうなの。そう、自分の孫を見ているように……。
 二人の中にヴァイスハイトさんや初代ミルトさんの面影を見ているのだと思う。
 わたしもそうなれたら良いなと思っているんだ。

 それにね、わたし、ある予感がしているの。
 きっと、別れはそんなに多くないんじゃないかと……。
 多分、あの子達とあの人は……。


「でも、わたしが短い生涯を終えたら、今度はおかあさん達全員が悲しい思いをするんじゃないの。
 わたし、そんなの嫌だ。
 わたしはおかあさん達を悲しませるより、ずっと一緒にいたいの!」

 わたしの言葉にやっとエーオースおかあさんが笑みを浮かべてくれた。

「そう、あなたがそう言うのならば、もう何もいわないわ。
 じゃあ、改めてあたしたちの世界にようこそ。
 今までも実の娘だと思って接してきたけれど、今日からは名実共に本当の家族になったのよ。」

 『本当の家族』…、わたしが一番欲しかった言葉、それをエーオースおかあさんが言ってくれた。

「ありがとう!おかあさん大好き!」

 わたしは思わずエーオースおかあさんに抱きついた、小さかった頃のように。

 今日、この時、わたしは本当の意味でここにある精霊の家の家族になった。


 
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