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店をオープンしよう
4-4 2人目(?)のお客さま
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初めてのお客様がヒストリア王女で、しかも王女の顔や声は以前クエストで出会ったセレスという新米冒険者と瓜二つ。
気持ちのもやもやは当然強く、出だしは好調とは言えない。
俺のオープンはそんな暗い感じで始まったのだが、店を開けて数時間経った今更に暗い気持ちになった。
「誰も……来ない……」
そう、客が1人も来ないのだ。
どうなっているんだ。もう昼時だぞ。
1人くらいは来てもおかしくない。
あれだけ宣伝して、あれだけ頑張って準備したのに……。
この数日間来ていた下見の人間は一体なんだったんだ。
「はぁ……」
完全に暇を持て余している状況になり、俺はやるせない気持ちと共に大量に用意した食材を見つめる。
「どうするんだよこれ……」
今日中に使わないといけない食材もあるし、捨ててしまうのも勿体ない。
いっそ自分で食べてやろうかと思ったその時、ドアが開いた音がした。
俺は期待しながら慌ててキッチンから出る。
だがその客の顔を見た途端、驚いて転びそうになる。
「いらっしゃいま………せ………」
「ご、ごきげんよう……」
そこにはもじもじと恥ずかしそうな顔をしたセレスが立っていた。
先程の人形のようなお姫さまとは違い、俺の知っているセレスだ。
「セ、セレス……?」
「お、お店のオープン、おめでとうございますわ!」
「あ、あぁ、ありがとう……」
「……かけてもよろしくて?」
ぽかんとする俺を差し置いてセレスは優雅に座る。
かなり気まずい空気の中、メニュー表を見ながら一言呟く。
「……メニュー、少ないんですのね」
「あ、いや、決まったメニューはそれだけだけど、基本は俺がおまかせで作るというか……でございます」
先程のことがあったため、つい畏まってしまう。
「……いつも通りでいてくださいまし」
「え……は、はい。じゃなくて分かった」
「コホン、改めて、おまかせでお願いしますわ」
「分かった」
俺はぎこちない足取りでキッチンに入ると、深呼吸をする。
セレス? だよな?
念の為もう一度客席を除く。セレスだ。
服装も森で出会った時と同じだし、表情も豊かだ。
正直どう接したらいいのかわからない。
けれどあの感じは向こうも気まずいと思ってる。
だからこそ何も無かったことにしたいらしい。
このまま有耶無耶にされるのが嫌だった俺はある事を考え、彼女のために料理を作った。
「お待たせしました」
「まぁ、早いんですのね!」
「トロピオのサラダと茹でタル麺だ」
「ヘルシーな料理と……茹でタル麺…?」
セレスが一瞬眉をしかめる。
それもそのはずだ。
タル麺は麺の割に短く、もちっとした食感と噛めば噛むほど甘みと酸味が濃厚になるのが特徴的だ。
しかし同時にかなり脂が濃く、まるで肉を丸かじりしているかのようなジューシーさから、一般的な調理方法は焼くか揚げるかの2択という麺らしくない食材でもある。
「あぁ、味をアレンジしたんだ。それに、この組み合わせならタル麺の重たさはそこまでないはずだ」
俺がそう言って、首を傾げるセレスの前に貴族が使うカトラリーを用意すると、セレスは固まった。
「な、なんですの?」
「そのままの食べ方、どうせ知らないんだろ?」
確か、前に料理を作った時も食べること自体に苦戦していた。
あの時は俺のオリジナル料理だからかと思っていたが、きっと本来のマナーが良すぎて普通の食べ方を知らなかったんだろう。
「あ、あれは、その、私ではなくてふ、双子の姉で……」
「誰もその話はしてないぞ」
「えーと……」
朝困らせたことへの軽い仕返しだ。
目があちこちに泳いでいたセレスは観念したようにぺこりと頭を下げる。
「……申し訳ありませんわ。あの時はちゃんとしたお祝いも出来ず……知らない態度を取ってしまいました……」
「はぁ……随分上品だとは思っていたけど、まさか王女だとは思わなかったよ」
「……申し訳ありませんわ」
大袈裟にリアクションをとるとしゅんとうなだれるセレス。
そんなに落ち込むなんて、さすがに意地悪し過ぎたなと反省する。
「ま、なかなか人に言えることでもないし、冒険者になったのもなにか理由があるんだろ」
セレスは何も答えなかった。
参ったな。こんな空気にするつもりじゃなかったのに。
「その、あれだ。とりあえず温かいうちに召し上がれ」
「……えぇ。いただきますわ」
セレスは上品な仕草で麺を食べ、サラダを食べる。
すると驚きの顔をうかべた。
「タル麺の脂がこんなに薄いなんて……もしかしてこのサラダのおかげかしら」
「そう、トロピオの葉は癖がなく、爽やかな風味をしているから脂を打ち消すのにちょうどいいんだ。
更に俺のオリジナルのドレッシングで後味はタル麺と混ざりあって歯ごたえはそのまま、爽やかな風味、濃いしょっぱさに少し甘味を加えてタル麺そのものの味を活かしたんだ」
「そうなのですね。とても美味しく、それにもちもちですわぁ」
幸せそうに食べるセレスを見て、機嫌が治ったと安心した。
貴族はサラダと麺を交互に食べる。
それを利用したメニューなのだが気付いているだろうか。
まぁ本人がボロを出してくれたので良しとする。
全て食べ終えたセレスはそっとお茶を飲んで一息ついた。
俺は食器類を片付けると、本題に入る。
気持ちのもやもやは当然強く、出だしは好調とは言えない。
俺のオープンはそんな暗い感じで始まったのだが、店を開けて数時間経った今更に暗い気持ちになった。
「誰も……来ない……」
そう、客が1人も来ないのだ。
どうなっているんだ。もう昼時だぞ。
1人くらいは来てもおかしくない。
あれだけ宣伝して、あれだけ頑張って準備したのに……。
この数日間来ていた下見の人間は一体なんだったんだ。
「はぁ……」
完全に暇を持て余している状況になり、俺はやるせない気持ちと共に大量に用意した食材を見つめる。
「どうするんだよこれ……」
今日中に使わないといけない食材もあるし、捨ててしまうのも勿体ない。
いっそ自分で食べてやろうかと思ったその時、ドアが開いた音がした。
俺は期待しながら慌ててキッチンから出る。
だがその客の顔を見た途端、驚いて転びそうになる。
「いらっしゃいま………せ………」
「ご、ごきげんよう……」
そこにはもじもじと恥ずかしそうな顔をしたセレスが立っていた。
先程の人形のようなお姫さまとは違い、俺の知っているセレスだ。
「セ、セレス……?」
「お、お店のオープン、おめでとうございますわ!」
「あ、あぁ、ありがとう……」
「……かけてもよろしくて?」
ぽかんとする俺を差し置いてセレスは優雅に座る。
かなり気まずい空気の中、メニュー表を見ながら一言呟く。
「……メニュー、少ないんですのね」
「あ、いや、決まったメニューはそれだけだけど、基本は俺がおまかせで作るというか……でございます」
先程のことがあったため、つい畏まってしまう。
「……いつも通りでいてくださいまし」
「え……は、はい。じゃなくて分かった」
「コホン、改めて、おまかせでお願いしますわ」
「分かった」
俺はぎこちない足取りでキッチンに入ると、深呼吸をする。
セレス? だよな?
念の為もう一度客席を除く。セレスだ。
服装も森で出会った時と同じだし、表情も豊かだ。
正直どう接したらいいのかわからない。
けれどあの感じは向こうも気まずいと思ってる。
だからこそ何も無かったことにしたいらしい。
このまま有耶無耶にされるのが嫌だった俺はある事を考え、彼女のために料理を作った。
「お待たせしました」
「まぁ、早いんですのね!」
「トロピオのサラダと茹でタル麺だ」
「ヘルシーな料理と……茹でタル麺…?」
セレスが一瞬眉をしかめる。
それもそのはずだ。
タル麺は麺の割に短く、もちっとした食感と噛めば噛むほど甘みと酸味が濃厚になるのが特徴的だ。
しかし同時にかなり脂が濃く、まるで肉を丸かじりしているかのようなジューシーさから、一般的な調理方法は焼くか揚げるかの2択という麺らしくない食材でもある。
「あぁ、味をアレンジしたんだ。それに、この組み合わせならタル麺の重たさはそこまでないはずだ」
俺がそう言って、首を傾げるセレスの前に貴族が使うカトラリーを用意すると、セレスは固まった。
「な、なんですの?」
「そのままの食べ方、どうせ知らないんだろ?」
確か、前に料理を作った時も食べること自体に苦戦していた。
あの時は俺のオリジナル料理だからかと思っていたが、きっと本来のマナーが良すぎて普通の食べ方を知らなかったんだろう。
「あ、あれは、その、私ではなくてふ、双子の姉で……」
「誰もその話はしてないぞ」
「えーと……」
朝困らせたことへの軽い仕返しだ。
目があちこちに泳いでいたセレスは観念したようにぺこりと頭を下げる。
「……申し訳ありませんわ。あの時はちゃんとしたお祝いも出来ず……知らない態度を取ってしまいました……」
「はぁ……随分上品だとは思っていたけど、まさか王女だとは思わなかったよ」
「……申し訳ありませんわ」
大袈裟にリアクションをとるとしゅんとうなだれるセレス。
そんなに落ち込むなんて、さすがに意地悪し過ぎたなと反省する。
「ま、なかなか人に言えることでもないし、冒険者になったのもなにか理由があるんだろ」
セレスは何も答えなかった。
参ったな。こんな空気にするつもりじゃなかったのに。
「その、あれだ。とりあえず温かいうちに召し上がれ」
「……えぇ。いただきますわ」
セレスは上品な仕草で麺を食べ、サラダを食べる。
すると驚きの顔をうかべた。
「タル麺の脂がこんなに薄いなんて……もしかしてこのサラダのおかげかしら」
「そう、トロピオの葉は癖がなく、爽やかな風味をしているから脂を打ち消すのにちょうどいいんだ。
更に俺のオリジナルのドレッシングで後味はタル麺と混ざりあって歯ごたえはそのまま、爽やかな風味、濃いしょっぱさに少し甘味を加えてタル麺そのものの味を活かしたんだ」
「そうなのですね。とても美味しく、それにもちもちですわぁ」
幸せそうに食べるセレスを見て、機嫌が治ったと安心した。
貴族はサラダと麺を交互に食べる。
それを利用したメニューなのだが気付いているだろうか。
まぁ本人がボロを出してくれたので良しとする。
全て食べ終えたセレスはそっとお茶を飲んで一息ついた。
俺は食器類を片付けると、本題に入る。
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