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第十九話 天賦の才に目が眩み、己が責を見失う
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震えた声で「大丈夫」と言ったラルーチェの顔は、恐怖に打ち勝とうとする、開戦前の戦士の表情に似ていた。
どうやら彼女は、私の期待が重荷になっているらしい。昨日、アイラに言われたばかりだというのに、どうしても可能性に満ちた若者には期待を寄せてしまう。次からは気を付けなければ。
頭の片隅では、仮に水が燃えなかった時にラルーチェにどのような言葉をかけるべきか、と考えながらも、私はほとんど確信していた。ラルーチェが宙に浮かせている水は燃えるだろう、と。
「では、燃やしてみようか。その水をこちらに移動させられるかね。君に近いと燃えたとき危険だからね」
「はい」
本来、これほどの量の水を自由に動かすのは難儀なはずなのだが、彼女はすぐに私の要望に応えてくれた。
私は、万が一にも子供達が火傷することの無いようにするためにアイラへ視線を向けると、彼女は全てわかっているから問題ない、という顔で頷いてくれた。
私は魔法で右手に火を現出させ、ラルーチェが現出させた水に近付けた。すると――
――小さな炎に触れた水は、全てが一瞬で美しい炎へと姿を変えた。
刹那の内に消えた烈火は、仄かな暖かさだけを残した。
「素晴らしい」
頭で考えるよりも先に、口から言葉が零れ出た。それほどにラルーチェの魔法は、私の想像を超えていた。
魔法により現出させた物質に、後天的に特性を付加させる場合、物質全てに特性が付加されることはほとんどない。大抵は特性が付加されてない部分が残ってしまうのだ。だというのに、ラルーチェの現出させた水は一切の水滴を残すことなく、炎となって燃え尽きた。
ここまでの精度で思い通りに魔法を現出できるのならば、『特別魔法技能試験』を受けて、レヴェルク国立学校の魔法学部に編入することも可能だろう。彼女のような『超論理』によって魔法を現出できてしまう特別な存在のために、あの試験方式はあるのだから。
「ラルーチェ、大丈夫?震えているわ」
興奮で視界からの情報が遮断されていた私の脳に、アイラの声が入ってきた。
どうやらラルーチェは、『魔力欠乏症』の初期症状が出ているらしい。初心者がいきなり、あれだけの魔法を長時間現出させていたのだから無理もない。
比較的珍しい症状とはいえ、予想できる事態だったはずだ。
「アイラ、ラルーチェを椅子に座らせてやってくれ」
悔やむのは後にして、私はそう言い残し急いで台所へと向かう。
台所にて、まずは冷蔵庫から水を取り出し、コップの中に入れる。次に戸棚から蜂蜜瓶を取り出して、スプーン5杯の蜂蜜をコップに入れ、魔法で温めながらよく混ぜる。
出来た蜂蜜水を、ラルーチェの元に持っていって、ゆっくりと飲ませる。
「これで、しばらく安静にしていれば大丈夫だろう」
――幸いにも、ラルーチェの震えはすぐに止まった。
---------------
造語解説
『特別魔法技能試験』:魔法学部の一部が実施している、卓越した魔法の技術を持つ子供を入学させるために魔法現出能力だけで合否を決定する入学試験制度。
『超論理』:魔法を現出させる方法は、出来る限り論理的な存在定義(魔法自体が完全に論理化されていないため、多少の非論理性は含まれてしまう)を定める方法が一般的だが、それ以外にもある。その中の一つが『超論理』で、当人が強く確信していれば、論理が破綻していていようとも魔法が現出することがある。
『魔力欠乏症』:激しく長時間に渡る魔法の使用により、極度の低血糖状態に陥ること。
ちなみに、魔力という物質が観測されたことは無い。しかし、何かを生み出すには同等の何かを消費する必要があるというエネルギー保存則的な通念から、魔法が現出される際に消費されるであろう「何か」を、魔力だと仮定している。
どうやら彼女は、私の期待が重荷になっているらしい。昨日、アイラに言われたばかりだというのに、どうしても可能性に満ちた若者には期待を寄せてしまう。次からは気を付けなければ。
頭の片隅では、仮に水が燃えなかった時にラルーチェにどのような言葉をかけるべきか、と考えながらも、私はほとんど確信していた。ラルーチェが宙に浮かせている水は燃えるだろう、と。
「では、燃やしてみようか。その水をこちらに移動させられるかね。君に近いと燃えたとき危険だからね」
「はい」
本来、これほどの量の水を自由に動かすのは難儀なはずなのだが、彼女はすぐに私の要望に応えてくれた。
私は、万が一にも子供達が火傷することの無いようにするためにアイラへ視線を向けると、彼女は全てわかっているから問題ない、という顔で頷いてくれた。
私は魔法で右手に火を現出させ、ラルーチェが現出させた水に近付けた。すると――
――小さな炎に触れた水は、全てが一瞬で美しい炎へと姿を変えた。
刹那の内に消えた烈火は、仄かな暖かさだけを残した。
「素晴らしい」
頭で考えるよりも先に、口から言葉が零れ出た。それほどにラルーチェの魔法は、私の想像を超えていた。
魔法により現出させた物質に、後天的に特性を付加させる場合、物質全てに特性が付加されることはほとんどない。大抵は特性が付加されてない部分が残ってしまうのだ。だというのに、ラルーチェの現出させた水は一切の水滴を残すことなく、炎となって燃え尽きた。
ここまでの精度で思い通りに魔法を現出できるのならば、『特別魔法技能試験』を受けて、レヴェルク国立学校の魔法学部に編入することも可能だろう。彼女のような『超論理』によって魔法を現出できてしまう特別な存在のために、あの試験方式はあるのだから。
「ラルーチェ、大丈夫?震えているわ」
興奮で視界からの情報が遮断されていた私の脳に、アイラの声が入ってきた。
どうやらラルーチェは、『魔力欠乏症』の初期症状が出ているらしい。初心者がいきなり、あれだけの魔法を長時間現出させていたのだから無理もない。
比較的珍しい症状とはいえ、予想できる事態だったはずだ。
「アイラ、ラルーチェを椅子に座らせてやってくれ」
悔やむのは後にして、私はそう言い残し急いで台所へと向かう。
台所にて、まずは冷蔵庫から水を取り出し、コップの中に入れる。次に戸棚から蜂蜜瓶を取り出して、スプーン5杯の蜂蜜をコップに入れ、魔法で温めながらよく混ぜる。
出来た蜂蜜水を、ラルーチェの元に持っていって、ゆっくりと飲ませる。
「これで、しばらく安静にしていれば大丈夫だろう」
――幸いにも、ラルーチェの震えはすぐに止まった。
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造語解説
『特別魔法技能試験』:魔法学部の一部が実施している、卓越した魔法の技術を持つ子供を入学させるために魔法現出能力だけで合否を決定する入学試験制度。
『超論理』:魔法を現出させる方法は、出来る限り論理的な存在定義(魔法自体が完全に論理化されていないため、多少の非論理性は含まれてしまう)を定める方法が一般的だが、それ以外にもある。その中の一つが『超論理』で、当人が強く確信していれば、論理が破綻していていようとも魔法が現出することがある。
『魔力欠乏症』:激しく長時間に渡る魔法の使用により、極度の低血糖状態に陥ること。
ちなみに、魔力という物質が観測されたことは無い。しかし、何かを生み出すには同等の何かを消費する必要があるというエネルギー保存則的な通念から、魔法が現出される際に消費されるであろう「何か」を、魔力だと仮定している。
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