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「ところでランの性別はなんなんだ?」
「……ベータだよ」
「そっか」

 お茶がすっかり冷めたころになってレクスがそう聞いて来た。ランの答えを聞いたレクスは少しほっとしたような顔をした。
 思わず嘘で答えたランは少し胸が痛んだ。本当は性別は不明のままだ。……どちらにしろレクスの番になれないことには変わりは無いのだが。

「なら、この部屋に住んでしまえ」
「そんなの勝手にしていいの?」
「大丈夫。侍従を増やしたとか適当に言っておく」
「そう……まあとにかく今日は一回帰るよ」

 ランがそう言って立ち上がると、レクスはその腕を掴んだ。

「帰ってくるよ。ちゃんと」
「本当か?」

 まるでこれでは図体ばかり大きな子供だ。ランは手を放さないレクスの手の甲をつねった。

「僕はダチに嘘はつかない。荷物をとって、下町の仲間に事情を伝えたら帰ってくるから」
「……わかった。ただ案内に人を付けさせてくれ。王城にまた入るのに面倒だ」
「うん」

 レクスはしぶしぶといった感じでランの手を放すと、手を叩いた。すると、茶褐色の髪をした生真面目そうな男がやってきた。

「ロランド、俺の友人を送って用が済んだらまた連れて帰ってくれ」
「かしこまりました」

 ロランドはだぶだぶの服を着たランをチラリと見て答えた。

***

「ねぇロランドさん、ここから先は危ないと思うんだけど」

 王城を出て、下町に向かったランとロランドだったがロランドはそのまま下町の奥まで付いてこようとする。

「連れて帰れと言われてますから」
「でも……」
「問題ありません。私はレクス様の護衛も兼ねてます。特技は氷の攻撃魔法、趣味はピアノ演奏です」

 趣味までは聞いてないけどな。とランは思ったが大まじめな顔で言われてどうつっこんでいいのかわからなかった。

「オレの仲間を攻撃しないで欲しいな……」
「向こうがしなければしません」
「……はあ」

 なんだか調子が狂う。ランは内心ため息を吐きながらそのまま下町に入り込んだ。

「ビィ! ビィいるか?」

 そう声を上げると、しばらくしてビィが姿を現した。

「どうした、生きてたか!」
「よお」

 ビィはランに駆け寄ろうとして背後のロランドを見て足を止めた。

「その人は?」
「ああ……えっと、さっきの男の部下の人」
「へぇ?」

 首を傾げるビィに、ランはレクスが知り合いだったこと、そこに世話になることになったと説明した。

「そっか……よかったな。ここから出られるなら御の字じゃないか」
「ごめんな」
「謝るなよ。あ、荷物持ってきてやるから」

 そう言ってビィはねぐらにランの荷物を取りに行ってくれた。

「はい。もう帰ってくるなよ!」
「ビィ……」
「じゃあな!」

 別れはあっさりだった。振り向かずに通りに消えて行くビィ。その背中を追いかけてはいけないのだ、とランは思った。

「行きましょうか、ラン様」
「……様はいらないです。ロランドさん」

 そうしてランはロランドを連れて、また王城へと戻った。
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