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優等生も楽じゃない
しおりを挟む『────2年2組、佐倉君。2年2組、佐倉君。至急職員室へ来るように──』
ピタリ、と箸の動きを止める。
どこの大聖堂かと思うほど豪華絢爛な食堂で、どこの三つ星レストランかと思うほど美味しい昼食を食べている最中だった。
ちなみに代金は奨学金制度で無料。奨学生になってよかったこと第一位は食堂のフリーパスだ。毎日遠慮なく高級料理を食べさせてもらっている。少食なせいであんまり腹に入らないのが残念で仕方ない。
「え、伊織呼び出されてるじゃん」
「……風紀の仕事でしょう。遅くなると思うので、黒柳くんは先に教室へ戻っておいて下さい」
皿に残っていた料理を素早くたいらげて、席を立つ。
ここは食器を従業員が戻してくれるか
ら楽でいい。
「風紀も大変だなぁ。おう、頑張ってこいよ」
「そうでもありませんよ。……ではまた、放課後にお会いしましょう」
(そうなんだよ、大変なんだよ風紀委員!あー……もっと味わって食べたかったなぁ)
昼休憩を邪魔されてテンションだだ下がりだが、これでも一応優等生で通っているので、全く気にしていない風を装って職員室へ向かった。
ーーーーー
「あ、佐倉様だ!」
「『桜の君』、相変わらずお美しい……」
廊下を歩くと、あちこちから視線やヒソヒソとした話し声を感じる。
今でこそ気にせずに悠々と歩いて行けるが、前はこういう熱視線を浴びると怖すぎてダッシュで逃げていた。
自意識過剰?
まあ、そういう人の気持ちも分からなくはない。というか俺が一般人だったら、男が男に熱視線なんてありえないと鼻で笑っていただろう。
ただ、そんな『常識』が通用しないのが、ここ鳳凰学園なのだ。
鳳凰学園の生徒はほとんどが初等部からの内部進学で、全寮制かつ敷地が山奥にあるために、世間知らずが多い。
まあ、内部進学生はそれだけの学費が払える名家の子息、つまりお坊ちゃんばかりなので、世間知らずは別にいい。まだ許せる。
問題は────。
「いつも優しい微笑みを浮かべて……あんなの惚れちゃうって!」
「肌めっちゃ綺麗だし、指とか腰とか細すぎねえ? めっちゃエロい」
「「抱いてくれないかなぁ……」」
「「抱かせてくれねえかな?」」
(ひぃいいい!!やめろぉおお!!俺は!!ノンケだ!!!)
問題は、お坊ちゃん方の性的嗜好が大いに歪んでしまう、ということである。
(大体なんでこの学園ホモばっかなんだよ!おかしいだろ!?)
俺は高校からの外部生なので、極めて健全な性欲の持ち主だ。つまり普通に女の子が好きだし女の子を抱きたい。
男で童貞を卒業するのも、童貞より先に処女を喪失するのも、絶対嫌だ。
その鉄のように固い意志のもと、一年間この学園の男達の性的な目をかわし続けてきた。
そして今や俺は、自分の絶対の安全を保障する権力と、ホモ達の魔の手から逃れるスルースキルを得ている。
つまり完全防備、向かうところ敵無し状態。どこからでもかかってこいって感じだ。
「佐倉様!一生のお願いです……抱かせて下さい!!!」
「………………申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」
見上げるほどの巨体の男に迫られて、口元をひくつかせながらも、なんとか優しい微笑みを浮かべてみせる。
訂正。どうかお願いですから襲って来ないで下さい。
(もうガチガチの不良にでもなって孤立した方がいいんじゃないかこれ?)
俺が死んだ目をしているのにも気付かずに、周囲は『さすが、身の程知らずにもお優しくていらっしゃる!』と感動に震えていた。
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