風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実

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野良猫が懐くまで.3

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「大丈夫だ。大丈夫だから……」


ゆっくりと手を伸ばせば、今度は拒絶されなかった。
背中に触れると、少しだけビクリと震えたが、大人しくそのまま撫でられている。


「……おれ、ちゃんと、わかってなくて」


消えそうなくらい小さな声で、泣きそうに震えている声で、佐倉は話し出した。もしかしたら、本当に泣いているのかもしれなかった。


「おそわれても、自分でどうにかできる、って……」


佐倉が俺の肩口に顔を埋める。
制服のシャツ越しに、温かいものが触れていた。


「…………なにも、できなくて……こわか、た……」


震えながら涙を流す佐倉を、俺は強く抱きしめた。


「……すまない。もっと早く、助けに来られなくて」

「ちが……!神宮寺さんは、悪くないです!
……いつも、助けてくれて、ありがとうございます。迷惑かけて、ごめんなさい……」

「迷惑なんかじゃない。むしろ、もっと……頼ってほしい。
何かあったら、一番に俺に相談してほしい。危ない目にあったら、すぐに俺を呼んでほしい。俺の知らないところで、傷つかないでほしい……」


初めは、ただ気になっていただけだった。
何もかもを拒絶して、一人で苦しんでいるような……そんな危うい姿が、いつも気にかかっていた。

すれ違うたびに、どこか思い詰めたような顔をしているのが心配だった。
佐倉が襲われたと聞いた時は、いても立ってもいられなくなった。
そういう報告を聞くたびに、佐倉じゃないかと思って誰よりも早く現場に駆けつけた。

気づけばいつのまにか、とても大切な存在になっていた。


「俺は、お前を傷つけたりしない。お前を自分のモノにしたいわけじゃない。お前の嫌がることは絶対にしないから。
だから、俺と……と、友達になってくれ」


最後の方は声が震えて、とてもみっともないと思った。
こんなことを人に懇願こんがんするのは初めてで、自分でもどうしてこんなに佐倉を気にしているのか分からない。

ただ、佐倉が泣いていると……ひどく胸が苦しかった。
だから、笑っていてほしいと思った。できれば、自分のそばで。


「……し゛ん゛く゛う゛し゛さ゛ああああん゛!!!!!」

「さ、佐倉!?大丈夫か!?」


俺が恥をしのんで懇願こんがんしたというのに、佐倉はなぜか大号泣してしまい、なんの返事もしてくれなかった。
いつもの近寄りがたいオーラはどこへやら、子供のように声を上げて泣いている佐倉が少し可愛く見えて苦笑する。


「……じんぐうじさんんん、ぐすん、わら、わらえるんですかぁ……」

「俺だって人間なんだから、笑えるに決まってるだろう」

「うわあああんんん」

「……なぜ泣く」

「じんぐうじさんがぁ、やさしすぎてぇ……えぐっ」

「……よくわからんが、褒められているのか?……ありがとう」

「うええええん!!」

「だから、なぜ泣く!?」


佐倉が落ち着くまでになんと30分もかかり、その間俺はずっと佐倉の背中をで続けていた。

その後、佐倉から『俺の方こそ友達になって欲しいです。神宮寺さんのことをめちゃくちゃ尊敬してるので!』とこころよい返事をもらい、俺にかわいい後輩ができた。




ーーーーー




「────佐倉、お前に副委員長をやってもらいたいと思う」


佐倉との出会いから早一年、俺達はそれぞれ学年をひとつ上げた。
俺の方は特に変わりなかったが、佐倉には少なくない変化があったように思う。

まず、佐倉は身長が伸びた。
今まで小柄で華奢きゃしゃで女子のようだったが、細身の男らしい体格になった。
それこそ『ネコ』側の生徒が寄ってくるようになるほどには、かっこよくなったと思う。
……本人は、あまり嬉しくないようだが。

それから、愛想が良くなった。
あの頃のような刺々とげとげしい態度は取らなくなり、今や誰にでも優しい優等生だ。
たまに無理をしていないか心配になるけれど、みんなが知らない佐倉の素の顔を知っていると思うと、優越感があった。


「副委員長、ですか」


そして、佐倉は風紀委員会に入った。
理由が俺に憧れたからだと聞いた時は、嬉しいような気恥ずかしいような、不思議な気持ちだった。

まあ、佐倉と一緒に仕事が出来るのは……純粋に楽しい。
それに、佐倉は真面目で仕事も早い。副委員長にぴったりの人材だし、周りもそれを認めている。


「ああ。……大丈夫だよな、佐倉」


佐倉が副委員長になってくれたら、きっとこの一年は退屈しないだろう。


「ええ、もちろんです」


不敵に微笑む佐倉伊織は、俺のかわいい後輩で、大切な友人で────そして、新しく俺の相棒になった。
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