氷の艶やかな青年

はなおくら

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 セジャと共に会場に戻ると、おかしな雰囲気をハンナは感じていた。

 セジャに手を握られて騒ぎの中心へと近づくと、顔を真っ赤にさせて机の上の料理を投げ捨てる赤いドレスをきた令嬢がいた。

 ハンナは誰かもわからずにその光景を眺めていた。

 横にいたセジャがハンナの手を強く握ったことによって暴れている令嬢が誰なのか察しがついた。

 その令嬢は、とても可愛らしい容姿をしており、男性が守ってあげたいと思うような人だった。

 泣き喚きながら、周りの目を気にせず自分の感情を表に出している姿に、みていられない気持ちになっていた。

 ハンナが呆れているのだから、横にいたセジャはもっとだった。

「彼女が公爵家のご令嬢だよ…。」

 ため息を漏らしながらセジャはそう呟いた。

「そう…。」

「まさかあんなに醜態を晒して恥もないとは…。ハンナ、ここにいてくれ。」

 そう言ってセジャは、ハンナの言葉も聞かずに前に進み出た。

 セジャの姿を確認した令嬢は、うるうると涙を滲ませて口を開いた。

「セジャ様…これはどういう事なのです?私との婚約がありながらなぜ急に…。」

 ハンナの目には、あの令嬢は本当にセジャに恋をしていたのだとわかった。

 しかし同情はそこまでで、その行動は賞賛できるものではない。

「こちらからも説明させていただいたはずです。それに、まだ婚約とは話が上がっただけではありませんか。」

 冷ややかな視線を送るセジャに対して、令嬢はカッとなって叫び出した。

「私がどれほどあなたを慕って!…夢に見てきたか!」

「申し訳ありません。」

 令嬢の怒りにセジャは真摯に謝罪をした。

 その姿に令嬢はまたもやヒステリックを起こし、端にいるハンナを見つけるとセジャの横を通り過ぎて、ハンナに近づいた。

 そして近くにあったグラスを取り、ハンナに目掛けて顔へとぶちまけた。

 ハンナは一瞬の事で、固まってしまい言葉も出なかった。

 令嬢は大笑いを浮かべて意地悪く吐きかけた。

「お古が人の物を欲しがる物ではありませんよ。あなたは終わった人間なのですからっ!」

 その瞬間、ハンナは我に返り令嬢を睨みつけた。

「お言葉ですが……っ!」

 言い返そうとしたその瞬間、令嬢の後ろに立っていたセジャの表情に言葉が出なくなった。

 今まで見たこともないほど、恐ろしい顔で令嬢を睨みつけていた。

 自分ではないのに思わず震え上がってしまうほどだった。

 令嬢は後ろにいるセジャの様子に気づきもせずに、自分が言い負かしたと勝ち誇った表情をしている。
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