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夫41歳、妻22歳、娘6歳(12)

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「エルシーお嬢様も、オネルヴァ様がこられることを楽しみにされておりますよ」

 その一言で、少しだけ心が軽くなった。

 イグナーツとエルシーは、ゼセール王国の王都アラマにある別邸で暮らしているとのことだった。

 馬車もそこへと向かっている。
 カタカタカタと揺れる動きが心地よい。

「オネルヴァ様……」

 気が付けば、オネルヴァは馬車の中で眠っていた。ヘニーの声で、はっとする。

「着きましたよ」

 外側から馬車が開かれる。ミラーンがすでに外に立っており、手を差し出してきたのでそこに手を添えた。
 初めてみる景色に圧倒される。目の前には白い外壁の建物。他にも庭を挟んで、似たような建物が立ち並んでいる。

 太陽はだいぶ西に傾きかけていたが、外はまだ明るい。

「こちらになります」

 ミラーンが扉の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。
 扉がゆっくりと開かれる。

「お待ちしておりました」

 初老の男が深々と頭を下げた。イグナーツ本人の出迎えを期待していたオネルヴァにとって、少し肩透かしを受けた気分でもある。

「ご案内いたします」

 吹き抜けのエントランスを抜け、屋敷の奥へと進む。白い扉の前に立つと、初老の男がノックした。

 男性の低い声で返事があった。
 扉を開ける。

 床から天井まで続く大きな窓が、西側から差し込む外光を取り入れている。若草色の壁紙と白い天井が、部屋を明るい雰囲気にしている。

 部屋の中心には、魔石によって明かりを灯す魔石灯が、天井から吊り下げられていた。
 その下に立つ大柄な男性と、小さな女の子。二人の顔立ちはどことなく似ているように見える。特に同じ色の目は、彼らに血の繋がりがある証なのだろう。

「はじめまして、俺がイグナーツ・ブレンバリだ。そしてこちらが、娘のエルシー」
「エルシー・ブレンバリです」

 金色の髪をふわっと二つに結わえている少女は、スカートの裾をつまんで挨拶をした。

「お初にお目にかかります。オネルヴァ・イドリアーナ・クレルー・キシュアスです。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 オネルヴァも裾を持ち上げて、優雅に挨拶をした。これは、あの離れで過ごしていたときに身に着けた振舞の一つだ。こういった教養だけは、びっちりと叩きこまれていた。

「あの……」

 エルシーが、オネルヴァをじっと見つめている。
 小さな女の子相手であっても、何を言われるのかと、オネルヴァはつい身構えてしまった。

「お母さまとお呼びしてもいいですか?」
「エルシー」

 イグナーツは声を荒げる。エルシーはぴくっと肩を震わせ、罰の悪そうに父親を見上げている。

「あ、はい。仲良くしてください、エルシーさん」

 オネルヴァが声をかけると、少女は嬉しそうにとろけるような笑みを浮かべた。



*~*~花の月三十日~*~*

『きょうは あたらしいおかあさまがきました

 しろいかみのけが きらきらとひかっていました
 みどりいろのめで エルシーとはちがいます

 おかあさまは ぴんくいろのドレスをきていました
 おかあさまのおなまえは オネルヴァです

 あたらしいおかあさまを おかあさまとよんだら おとうさまにはおこられました
 だけどおかあさまは よろこんでくれました

 はやくおかあさまといっしょに あそびたいです』
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