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第五章(9)
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シェリルは白磁のティーカップに手をのばし、紅茶を口に含む。
イチゴは少しずつ。そして、できるだけほかのものと一緒に食べる。
そうすることで、食べてから発情するまでの時間が長くなる。なんとかしてお茶会が終わるまでは、この状態を保ちたい。
そんなお茶会は、なごやかにすすんでいった。
しばらくして、シェリルは身体に異変を感じた。
(……やっぱり)
普段よりイチゴを食べる量が多かった。
「少し、風に当たってきてもよろしいでしょうか? せっかくですから、お庭を拝見したいのですが」
シェリルの言葉に、キャサリンが反応を示す。
「まあ、シェリル様。こちらは初めてですよね? 庭を案内させてくださいな」
シェリルと二人きりになりたいのだろうなということはわかっているし、この流れであればキャサリンの誘いを断るのは不自然だろう。
それに、庭を見たいと言ったのはシェリルである。
「ありがとうございます」
にこりと微笑んで、立ち上がった。
幾人かのとりまき令嬢も「私も」と言いかけたようだが、それをキャサリンが笑顔で制しているのが怖い。
「みなさまは、ごゆっくりとお楽しみくださいな」
侍女に目配せし、お茶やお菓子のおかわりを用意させていた。
なぜキャサリンはシェリルに執着するのか。
その理由など一つしかない。
シェリルのみっともない姿を見たいのだ。そのみっともない姿が、具体的にどんな姿であるのか、想像つかない。だから、恐ろしい。
さわりと風が吹き、庭園の色とりどりの花を揺らしているものの、それを愛でる心の余裕などない。
「……どうして? どうして平気な顔をしてイチゴを食べているの……?」
会場から離れ、彼女たちの姿が見えなったところで、キャサリンがそう言葉を漏らす。
「シェリル。あなた、イチゴが食べられないのではなくて?」
やはりキャサリンはシェリルとイチゴの関係を知っていたのだ。
だが、こうやって平気な顔をして食べている様子を見て、堪忍袋の緒が切れたのだろう。シェリルが席を立ったところで、これ幸いとついてきたようだ。
「このイチゴにどれだけ費やしたと思っているのよ。さっさと、イチゴを食べて倒れなさいよ。身体に合わない食べ物を食べれば、立っていられなくなるのでしょう? それを介抱するのは、我が家の騎士。あなたと騎士は、ただならぬ関係なの。ふふっ」
やっとキャサリンの狙いがわかった。まるで安っぽい芝居のようなシナリオだ。
だが、先ほどから感じる気配は、その騎士のものなのだろう。むしろ、騎士道に外れた行いではないのだろうか。
「キャサリン様。何か、誤解なさっているようですけれども? そのような情報をいったいどこから?」
誰がキャサリンの体質を漏らしたのか。そもそもこの特異体質を知っている人間など限られている。
「イライアス様がおっしゃっていたのよ。料理人に……」
イライアスが料理の指示を出していたのを、キャサリンが聞いていたのか。
もしくは、彼女の子飼いの者たちからの情報か。
シェリルはイチゴが食べられない。
逆に隠すよりは、公にしてしまったほうがよかったのではないだろうかと今になって思うのだが、過ぎてしまったことは仕方ない。
「……なるほど。マンサナ公爵家では、招待客の好みなどは無視して料理を用意するのだな? そのような者が王太子妃にふさわしいとは思えないな。もてなす側は、各国の文化、好みなどを把握する必要があるからな」
低い声が聞こえ、キャサリンが大きく振り返った。
「殿下……」
キャサリンの声が震えている。
「おまえ、自分で言ったよな? 合わない食べ物を食べれば、苦しむこともあると。それを、ここを訪れた他国の者にやってみろ。シェリルにやったことと同じようなことをやってみろ。できるか?」
「それは……」
キャサリンは答えられない。
ナーレスト王国で食べた料理が原因で、訪れた客人の命が失われたり、体調を損なわれたりしたら、外交に影響が出ることなど目に見ている。
相手が悪ければ戦火が起こってもおかしくはない。
「シェリルはそんなことしない。なによりも一番に相手のことを考えるからな。それに彼女は未来の王太子妃だ。これ以上、彼女を侮辱するようなら、俺が許さない」
身体に熱がたまりつつあるシェリルは、イライアスの言葉に胸が熱くなった。
「おまえたちとの付き合いは、今後、考え直したほうがよさそうだな。悪いが、シェリルは連れて帰る。これ以上、俺の大事な女性に危害をくわえられたらたまったものではないからな」
イライアスは倒れそうになっているシェリルを抱き上げた。
「マンサナ公爵令嬢。おまえの側にいる者の声を聞いてみろ。おまえは、視野が狭い」
キャサリンは悔しそうに顔を歪めてはいるものの、反論などできるわけがない。
その場に茫然と立ち尽くすキャサリンをおいて、イライアスはシェリルを抱き上げたまま、その場をあとにした。
イチゴは少しずつ。そして、できるだけほかのものと一緒に食べる。
そうすることで、食べてから発情するまでの時間が長くなる。なんとかしてお茶会が終わるまでは、この状態を保ちたい。
そんなお茶会は、なごやかにすすんでいった。
しばらくして、シェリルは身体に異変を感じた。
(……やっぱり)
普段よりイチゴを食べる量が多かった。
「少し、風に当たってきてもよろしいでしょうか? せっかくですから、お庭を拝見したいのですが」
シェリルの言葉に、キャサリンが反応を示す。
「まあ、シェリル様。こちらは初めてですよね? 庭を案内させてくださいな」
シェリルと二人きりになりたいのだろうなということはわかっているし、この流れであればキャサリンの誘いを断るのは不自然だろう。
それに、庭を見たいと言ったのはシェリルである。
「ありがとうございます」
にこりと微笑んで、立ち上がった。
幾人かのとりまき令嬢も「私も」と言いかけたようだが、それをキャサリンが笑顔で制しているのが怖い。
「みなさまは、ごゆっくりとお楽しみくださいな」
侍女に目配せし、お茶やお菓子のおかわりを用意させていた。
なぜキャサリンはシェリルに執着するのか。
その理由など一つしかない。
シェリルのみっともない姿を見たいのだ。そのみっともない姿が、具体的にどんな姿であるのか、想像つかない。だから、恐ろしい。
さわりと風が吹き、庭園の色とりどりの花を揺らしているものの、それを愛でる心の余裕などない。
「……どうして? どうして平気な顔をしてイチゴを食べているの……?」
会場から離れ、彼女たちの姿が見えなったところで、キャサリンがそう言葉を漏らす。
「シェリル。あなた、イチゴが食べられないのではなくて?」
やはりキャサリンはシェリルとイチゴの関係を知っていたのだ。
だが、こうやって平気な顔をして食べている様子を見て、堪忍袋の緒が切れたのだろう。シェリルが席を立ったところで、これ幸いとついてきたようだ。
「このイチゴにどれだけ費やしたと思っているのよ。さっさと、イチゴを食べて倒れなさいよ。身体に合わない食べ物を食べれば、立っていられなくなるのでしょう? それを介抱するのは、我が家の騎士。あなたと騎士は、ただならぬ関係なの。ふふっ」
やっとキャサリンの狙いがわかった。まるで安っぽい芝居のようなシナリオだ。
だが、先ほどから感じる気配は、その騎士のものなのだろう。むしろ、騎士道に外れた行いではないのだろうか。
「キャサリン様。何か、誤解なさっているようですけれども? そのような情報をいったいどこから?」
誰がキャサリンの体質を漏らしたのか。そもそもこの特異体質を知っている人間など限られている。
「イライアス様がおっしゃっていたのよ。料理人に……」
イライアスが料理の指示を出していたのを、キャサリンが聞いていたのか。
もしくは、彼女の子飼いの者たちからの情報か。
シェリルはイチゴが食べられない。
逆に隠すよりは、公にしてしまったほうがよかったのではないだろうかと今になって思うのだが、過ぎてしまったことは仕方ない。
「……なるほど。マンサナ公爵家では、招待客の好みなどは無視して料理を用意するのだな? そのような者が王太子妃にふさわしいとは思えないな。もてなす側は、各国の文化、好みなどを把握する必要があるからな」
低い声が聞こえ、キャサリンが大きく振り返った。
「殿下……」
キャサリンの声が震えている。
「おまえ、自分で言ったよな? 合わない食べ物を食べれば、苦しむこともあると。それを、ここを訪れた他国の者にやってみろ。シェリルにやったことと同じようなことをやってみろ。できるか?」
「それは……」
キャサリンは答えられない。
ナーレスト王国で食べた料理が原因で、訪れた客人の命が失われたり、体調を損なわれたりしたら、外交に影響が出ることなど目に見ている。
相手が悪ければ戦火が起こってもおかしくはない。
「シェリルはそんなことしない。なによりも一番に相手のことを考えるからな。それに彼女は未来の王太子妃だ。これ以上、彼女を侮辱するようなら、俺が許さない」
身体に熱がたまりつつあるシェリルは、イライアスの言葉に胸が熱くなった。
「おまえたちとの付き合いは、今後、考え直したほうがよさそうだな。悪いが、シェリルは連れて帰る。これ以上、俺の大事な女性に危害をくわえられたらたまったものではないからな」
イライアスは倒れそうになっているシェリルを抱き上げた。
「マンサナ公爵令嬢。おまえの側にいる者の声を聞いてみろ。おまえは、視野が狭い」
キャサリンは悔しそうに顔を歪めてはいるものの、反論などできるわけがない。
その場に茫然と立ち尽くすキャサリンをおいて、イライアスはシェリルを抱き上げたまま、その場をあとにした。
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