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第五章(8)
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シェリルが飲めないと断ることを期待していたのだろうか。それとも、飲んですぐに倒れるとでも思ったのだろうか。どちらにしろ、イチゴでなんらかの反応を示すことを期待している。
「シェリル様。こちらのクッキーもどうぞ」
そう言ってキャサリンがすすめてきたのは、見るからにイチゴの果実が使われているクッキーだ。
「これほどのイチゴを取りそろえるのは、たいへんだったのではありませんか?」
クローディアとマクシムの縁談がまとまりそうだからといっても、まださほどイチゴは入ってきていない。
イライアスだって、これから身近なものになるだろうと言って、シェリルの訓練に付き合ってくれたのだ。
「ええ。せっかくシェリル様とお会いするのですから。大好きなものをお取り寄せしておかなくてはと思いましたの」
ニコニコと笑うキャサリンを横目に、ほかの参加者の様子をぐるりと観察する。
呼ばれたのはキャサリンの取り巻きのような女性ばかり。彼女主催の茶会ならば、こうなることもわかっていたというのに。
そして頼みの綱のクローディアはいない。
いや、今後のことを考えても、シェリル一人でこういった場で堂々と振る舞えるようにならなければいけない。いつまでもクローディアに頼ってはならないのだ。
心を引き締めて、シェリルは口を開く。
「そうですわね。間違えた情報を鵜呑みにして、相手を不快にしてしまっては失礼ですもの。好みを把握しておくのは重要ですわね」
キャサリンの口の端がひくっと動いた。
「せっかくですから、お一ついただきます」
このクッキーもイライアスと食べたものだ。クローディアとの付き合いのためにと思い始めたイチゴに慣れる訓練が、ここで役に立つとは思わなかった。
イライアスには感謝せねばならないだろう。
と、このような場にいても、彼を思い出してしまう事実に戸惑いを覚える。
(……んっ。少し、身体が熱くなってきたかも……)
身体に反応が出ているのを敏感に感じ取った。
「ほかのお茶をいただけるかしら? 口の中が甘くなってしまって」
堂々としたシェリルの振るまいに、やはりキャサリンはふるふると震えている。だが、すぐに側に控えている侍女に、シェリルにほかのお茶を淹れるように命じる。
「ありがとうございます。ところでキャサリン様。こちらの茶葉はどちらのものですか?」
香りからしても、フレーバーティでもフルーツティーでもなく普通の紅茶だ。
「クレマタ領のものですわ」
「今年のクレマタ領の紅茶の出来栄えはいいと伺っております。新茶ですね。香りが鮮明で、色も透き通っていて……まぁ、本当に美味しいですわ」
シェリルの言葉でほかの令嬢たちも紅茶に興味を示したようだ。
遠慮がちに「私にも……」と言った声が聞こえ始める。
(なんとか、乗り切った……のかしら?)
ほかのお茶を飲んだことで、身体の火照りも引いたような気がした。
(そろそろ、イチゴの料理は控えたほうがいいのかもしれない……)
ただ、これだけイチゴづくしの食べ物が並んでいる中で、それを避けるというのはいささか不自然ではないだろうか。
「シェリル様。こちら、イチゴのジャムを薄いパンケーキで包んだものです。最近の、私のお気に入りなんですの」
そう言ったキャサリンは、シェリルの皿の上にイチゴのパンケーキを取り分けた。
キャサリンは何がなんでもシェリルにイチゴを食べてもらいたいようだ。
「ありがとうございます」
これは目にしたことのないイチゴ料理だ。ましてこうやってイチゴを隠す料理だと、どれくらいの量が使われているかだなんてわからない。
だけど、取り分けてもらったものに手をつけないのは不自然だろう。この場は、おしゃべりと料理を楽しむ場でもあるのだから。それにキャサリンには絶対に弱みを見せたくない。
パンケーキにナイフを入れると、中からイチゴのジャムがたっぷりと出てきた。
(思っているより量が多い……)
いざとなったらこの場を離れ、迎えを呼んでもらうように手配しよう。キャサリンから逃げるような形になるが、自分の身を守るのも大事。
「たっぷりとイチゴが使われていて、贅沢ですね……生地の甘みと、イチゴの酸味が混じり合って。とても上品なお味ですね」
まるでシェリルの言葉を待っていたかのように、ほかの令嬢たちもその料理に手をつけ始める。
(毒見をさせられている気分だわ……)
隣からは、はしたなく舌打ちが聞こえた。チラリと横目で確認すれば、キャサリンがこめかみを引きつらせている。
(いったい、わたしのどこまでを知っているのかしら? わたしが食べられないと言って、断るのが目的なのかしら?)
彼女の企みがよくわからない。
「シェリル様。こちらのクッキーもどうぞ」
そう言ってキャサリンがすすめてきたのは、見るからにイチゴの果実が使われているクッキーだ。
「これほどのイチゴを取りそろえるのは、たいへんだったのではありませんか?」
クローディアとマクシムの縁談がまとまりそうだからといっても、まださほどイチゴは入ってきていない。
イライアスだって、これから身近なものになるだろうと言って、シェリルの訓練に付き合ってくれたのだ。
「ええ。せっかくシェリル様とお会いするのですから。大好きなものをお取り寄せしておかなくてはと思いましたの」
ニコニコと笑うキャサリンを横目に、ほかの参加者の様子をぐるりと観察する。
呼ばれたのはキャサリンの取り巻きのような女性ばかり。彼女主催の茶会ならば、こうなることもわかっていたというのに。
そして頼みの綱のクローディアはいない。
いや、今後のことを考えても、シェリル一人でこういった場で堂々と振る舞えるようにならなければいけない。いつまでもクローディアに頼ってはならないのだ。
心を引き締めて、シェリルは口を開く。
「そうですわね。間違えた情報を鵜呑みにして、相手を不快にしてしまっては失礼ですもの。好みを把握しておくのは重要ですわね」
キャサリンの口の端がひくっと動いた。
「せっかくですから、お一ついただきます」
このクッキーもイライアスと食べたものだ。クローディアとの付き合いのためにと思い始めたイチゴに慣れる訓練が、ここで役に立つとは思わなかった。
イライアスには感謝せねばならないだろう。
と、このような場にいても、彼を思い出してしまう事実に戸惑いを覚える。
(……んっ。少し、身体が熱くなってきたかも……)
身体に反応が出ているのを敏感に感じ取った。
「ほかのお茶をいただけるかしら? 口の中が甘くなってしまって」
堂々としたシェリルの振るまいに、やはりキャサリンはふるふると震えている。だが、すぐに側に控えている侍女に、シェリルにほかのお茶を淹れるように命じる。
「ありがとうございます。ところでキャサリン様。こちらの茶葉はどちらのものですか?」
香りからしても、フレーバーティでもフルーツティーでもなく普通の紅茶だ。
「クレマタ領のものですわ」
「今年のクレマタ領の紅茶の出来栄えはいいと伺っております。新茶ですね。香りが鮮明で、色も透き通っていて……まぁ、本当に美味しいですわ」
シェリルの言葉でほかの令嬢たちも紅茶に興味を示したようだ。
遠慮がちに「私にも……」と言った声が聞こえ始める。
(なんとか、乗り切った……のかしら?)
ほかのお茶を飲んだことで、身体の火照りも引いたような気がした。
(そろそろ、イチゴの料理は控えたほうがいいのかもしれない……)
ただ、これだけイチゴづくしの食べ物が並んでいる中で、それを避けるというのはいささか不自然ではないだろうか。
「シェリル様。こちら、イチゴのジャムを薄いパンケーキで包んだものです。最近の、私のお気に入りなんですの」
そう言ったキャサリンは、シェリルの皿の上にイチゴのパンケーキを取り分けた。
キャサリンは何がなんでもシェリルにイチゴを食べてもらいたいようだ。
「ありがとうございます」
これは目にしたことのないイチゴ料理だ。ましてこうやってイチゴを隠す料理だと、どれくらいの量が使われているかだなんてわからない。
だけど、取り分けてもらったものに手をつけないのは不自然だろう。この場は、おしゃべりと料理を楽しむ場でもあるのだから。それにキャサリンには絶対に弱みを見せたくない。
パンケーキにナイフを入れると、中からイチゴのジャムがたっぷりと出てきた。
(思っているより量が多い……)
いざとなったらこの場を離れ、迎えを呼んでもらうように手配しよう。キャサリンから逃げるような形になるが、自分の身を守るのも大事。
「たっぷりとイチゴが使われていて、贅沢ですね……生地の甘みと、イチゴの酸味が混じり合って。とても上品なお味ですね」
まるでシェリルの言葉を待っていたかのように、ほかの令嬢たちもその料理に手をつけ始める。
(毒見をさせられている気分だわ……)
隣からは、はしたなく舌打ちが聞こえた。チラリと横目で確認すれば、キャサリンがこめかみを引きつらせている。
(いったい、わたしのどこまでを知っているのかしら? わたしが食べられないと言って、断るのが目的なのかしら?)
彼女の企みがよくわからない。
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