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本編

9 監禁

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 部屋に閉じ込められて1月が経とうとしていた。

 僕は今頃、騎士になる為に学院に通っているはずだった。受かっていなくても、王城警備隊の見習いとして働いていたのだと思う。なぜこんなことになったのか、ぜんぜんわからない。

 父さまとずっと一緒に暮らしていたかった。父さまに会いたい。

 リフィが来た。
 今日は来るなりベッドから掴み上げられて、窓辺へ捨てられた。背中が痛い。

「早く竜になりなさい! 私が竜騎士になれないだろう? まったく、出来損ないの竜にあんな貴重な薬を飲ませるんじゃなかった! いくらすると思っているんです? 報奨金を全て注ぎ込んでも倍額借金ですよ? 今はウィルが働いていますから、利子は払えていますが」

 父さまを働かせている? どこで? 役所? それともどこかの店の経理仕事?

 リフィが笑う。暗い笑み。
 それを見て血の気が引く。何か悪い仕事をさせられている? でも声が出ない。

 グリッて靴で胸を押さえ付けられた。息が止まる。

「3日あげます。それまでに変化できなければ、山中の魔物の前に捨ててあげます。ああ、売るのも良いかもしれませんね。そうすれば借金も返せて、新たに薬を手に入れる資金にできる」

 腕を掴まれて引き上げられた。視線が間近にある。息のかかる距離に怯える。

「3日です。良いですね?」

 コクコクと頷いた。
 それを見てリフィはまた僕をベッドに投げ捨てた。最近、ご飯を持って来てくれないのもそのせいかと思う。もういらないから育てる必要がない。

 涙ばかり流している。
 他に出来ることがないから。

 リフィが出て行った扉を見ていると、鍵がガチャガチャ鳴って、開いた。

 またリフィが来たのかと思って身を縮めた。

「おまえ、なんだ? 監禁されてんのか?」

 リフィじゃない声を聞いて顔を上げる。涙が溢れて流れる。両手を差し出す事ができた。でも声は出ない。

「おまえ、竜だったのか」

 現れたのは、初めて騎士の練習を見に行った時に会ったアルブだった。

 僕が手を差し伸べたから、駆け寄って抱き締めてくれた。抱きついていっぱい泣いた。声は出ないけど嗚咽は漏れる。

「大丈夫か? 大丈夫じゃねえな。おまえ、学院にいねえから、逃げたんだと思ってた。まさかこんな、ひでえ」

 ひとしきり泣いて落ち着いた所で、アルブが体にシーツを巻いてくれた。

「おまえの意思でここにいるんじゃねえよな?」

 コクコクと頷く。

「連れ出しても良いのか?」

 首を振る。
 逃げ出して父さまに何かあったら困る。
 アルブは僕の様子で察してくれたらしい。

「弱みを握られているか、人質を取られているってことか?」

 コクコクと頷く。

「竜はさ、ある程度乱暴にしても死なねえんだよ。食事も数日抜いた所で死なねえ。おまえは竜に変化したことがあるのか?」

 首を振る。

「ならまだ感覚がないから怖いとは思うが、竜は生命力が強い。俺がなんとかしてやるから、もう少し頑張れ。できるな?」

 頷く。
 アルブの手を取って、手のひらに文字を書く。

「父さま、か。わかった。様子を探ってやる」

 ガシガシと髪を撫でられた。

「そうか、おまえ竜か。だったら今度、俺の竜に会わせてやるよ」

 僕は首を傾げた。
 アルブは銀獅子部隊の隊長じゃないの?

「何首を傾げてるんだ? 俺は赤竜部隊隊長だ。あの日は合同練習だっただけだ」

 納得した。でもアルブみたいな大きな人を乗せる竜って大変そう。

「そうか、あいつは竜騎士を目指していたのか」

 アルブはひとりで納得している。

「でもな、普通は竜の谷に行って、お願いして騎竜になってもらうんだ。こんな薬で従わせようとする奴は、別の竜に嫌われるし、やりようによっては竜に殺される」

 僕はびっくりしてアルブを見た。

「この状態を竜が知ったら暴れる。竜は敵対する相手もいるが、子どもには甘いよ。おまえは竜に救いを求めると良い」

 僕はアルブを見て、手のひらを指す。

「ああ、父さまか。おまえは優しいな」

 また髪を撫でられた。強くてちょっと痛い。

「竜騎士と竜は運命で結ばれている。伴侶になる例も多い。おまえにも必ず運命の相手がいる。そいつに出会ったら、薬の効果なんて吹き飛ぶ。大抵がそうだった。だから頑張れ。ここを出て運命の相手を探すんだ」

 僕はじっとアルブを見る。すごく嫌な人だと思っていたのに優しい。痛い撫で方も不器用な態度も、好ましく思えて来るから不思議だ。

「そろそろ行くけど、2、3日のうちにまた来るよ。頑張るんだ」

 頬を撫でられた。ガシガシ髪を撫でられた。それから名残惜しそうにして、鍵が掛かる状態で扉を閉めた。
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