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本編

10 救出

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 指定された3日後の夜になってもリフィは来ない。

 深夜になってもリフィは現れない。期限なのに不思議だった。突然の用が出来たのかも。それならそれで殴られないですむし、どこかへ連れて行かれることもないから良かった。

 ベッドで横になっていると、窓の方からコツコツと音がした。
 鳥かな? でも真夜中に鳥が飛ぶだろうか。
 不思議に思いながら窓に近づくと、小さな竜がいた。
 羽を広げた大きさがだいたい1メートルくらい。こんな小さな竜もいるんだと驚いていると、僕の前でぱたぱた羽を羽ばたかせて僕を見ている。でも僕は窓も開けられないし、言葉も出せない。

 ガラスをとんとんって叩いたら、キーキーと鳴いた。
 もしかしてアルブが竜に何かを伝えてくれて、竜が心配して見に来てくれたのかもしれない。でも僕って本当に竜なのかな。竜が見に来たのは確認で、実は違うって判断されているのかもしれない。

 竜はすぐに飛んで行ってしまった。
 夜の月明かりを浴びて、竜の鱗が綺麗に光っていた。緑色なのかな。飛竜は上空を飛んでいるところを腹側からしか見たことがない。だから色なんて良くわからなかった。竜って緑色をしているものなの? それから目が赤かった。くるくるしたかわいらしい目で、僕を一生懸命みている感じがした。

 本当に僕が竜だったのだとしたら、いったいどんな色でどんな形の竜になるのだろう。
 そう考えてみて、やっぱり本当だとは思えなかった。
 胸にはまだ薄い色の紋がある。触っても凹凸はなく、肌と変らない。もう痛みもないし、熱くもない。いつも裸でいるから、見慣れて来てもいる。

 鍵の音がした。
 ビクッと体が震えた。
 扉が開く。

「おまえ、ウィルをどこへ連れて行った?」

 リフィが現れて、僕の首を掴む。
 息が出来なくて、リフィの腕を掴んだけど、僕の力ではほどくことができなかった。

「う、ううう……」

 声が出せないのだから、聞かれても困るし、ここから出られないに、父さまのことを聞かれてもわかる訳がない。

 ベッドに倒され、馬乗りになって首を絞められる。
 息が止まる。苦しくて涙が出る。

「おまえのせいで私の計画が台無しだ! おまえのせいだ、おまえが私の前に現れたせいで、こんな!」

 体がベッドに沈む。手をほどいてもらいたいけど無理だ。
 アルブが竜は生命力が強いって言っていたけど、息ができなければ死んでしまうんじゃないかな。それよりも僕って本当に竜なの? 竜だったらもっと力が強くても良いと思う。やっぱり僕は竜なんかじゃないよ。ただの弱い人だよ。

「いい加減にしろ!」

 リフィの後ろから声が聞こえ、リフィが蹴り飛ばされた。
 喉から手が外れ、ごほぼほと咳が出て、息が通ると喉が痛くてぜいぜい喘いだ。

「大丈夫か?」

 シーツを掛けられ、背中を撫でられる。
 見上げたらアルブがいた。思わずアルブに抱き着く。涙が溢れて嗚咽が漏れた。

「もう大丈夫だ、間に合って良かった」

 視界の端に壁に背をぶつけて、悲愴な表情のリフィが見えた。アルブの姿を見て怯えている。この状況から逃げようと扉から出たところで、廊下から兵士の声が聞こえて来た。

「銀獅子隊所属、リフィエル=アーリン、竜監禁の罪で拘束する」

 僕はアルブにぎゅっと抱き着いた。
 アルブが背中を撫でてくれて、そのまま抱き上げて運んでくれる。やっと部屋から出ることが出来た。
 えっえっと子どものように泣いている。アルブの肩に顔をうずめて。もう疲れ切っていたし、開放された安心とで訳がわからなくなっている。

「いいよ、俺が守っていてやるから」

 よしよしって背中を撫でられて、安心する。またぎゅっとアルブに抱き着いたら、ふふっと小さく笑われた。

「リフィエル、おまえは馬鹿なことをした。こいつは貴重な竜種だそうだ。こんなことをせず、国に申し出ていれば、竜の感謝を得て、竜の方から騎竜になると申し入れが来ただろう。功を急いたな。残念だ」

 アルブが声を掛けている方を見ると、兵に拘束され、項垂れながらもアルブを睨むリフィの姿があった。

「なにを馬鹿な! これが竜のはずがない! 私には何の罪もない! アルブレヒト! おまえが仕組んだ罠か!」

 アルブはリフィの言葉を笑って済ませた。でも目には力強さがある。

「もう良い、連れて行け」

 アルブの命令で兵はリフィを引きずるように連れて行く。放せ、やめろ、って叫ぶ声が廊下に響いていた。

「そういえば父さまな、俺の仲間が保護しているから安心しろ」

 腕を緩め、アルブを見る。どうしたって感じで首を傾げている。僕はまた涙が溢れて来て、喉を鳴らして泣いた。でもやっぱり声は出ない。ありがとうって言いたくて、一生懸命声を出そうとして、アルブに止められる。

「ありがとうって言いたいんだろ? わかってるから気にするな。声は仕方がない。そういう薬だ。早く運命の相手が見つかるように協力してやるから、今はゆっくり休め」

 アルブは優しい。頷いて、またアルブに縋りついた。
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