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第17話 本気の一撃
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「ほんき……なの」
「エフティア、あたしは本気さ。ついでに言うと、もう手加減なんてしないから」
「えへへ……わたし、強くなったんだよ」
エフティアは黙って剣《エイドス》を握った。
座学の授業で人気のない訓練場で、静かなる決闘が行われようとしている。が、そこに駆け付ける者がいた。
◆
「エフティアっ!」
やっぱり……!
「立会人もつけずに試合なんて……物騒じゃないかな」
そう言ってから、安堵のため息が出る。
状況はよく飲み込めないけれど、何かが起こってしまう前に来れてよかった。
「邪魔しないで、特待生君。これはこの子とあたしの問題なんだ」
「見てて、アル君……わたし、負けないから――」
負けないって……エフティア、君はまだまともに……。
「――負けないから」
エフティアには自信があふれていた。
予想外にも、良い意味で型にはまった姿勢を取っている。
「へえ、様になってるじゃん」
レディナの方もそれは感じ取っているようで、負けじと斜《しゃ》に構える。
(いざとなったら、無理やり止めればいい)
アヴァルはそう決意し、息を吐いた。
小さな風が通りすがり、どこかで乾いた音を鳴らす。
砂粒が転がるかすかな音でさえ、人を駆り立てるには十分な気がした。
「うぉぉぉッ!!」
エフティアが敵を見据えて吠え、大太刀に合わせてその身をひねる。
リゼの剣を彷彿とさせる薙ぎ払い――しかも、それよりも遥かに範囲が広いっ!
レディナはその剣をまともに受けようとしたが、あまりの剣圧に勢いよく吹き飛ばされた。制服が地面の砂で削られる音が痛々しい。
「や、やった……!」
おそらくこうした経験は初めてだったのだろう。エフティアは小さく跳ねる。が、レディナはすぐに態勢を立て直し、エフティアに切りかかる。
「勝った気になってんの……?」
「わっ……」
レディナは執拗にエフティアの剣を叩いた。
エフティアも必死に振り払おうとするが、力を溜める余裕がないため、その大きな剣も情けなく揺れるばかりだった。
「あんたっ! やっぱり中途半端だ! 大して強くもなってないくせに! 気持ちばっかり! 大きくして!」
「うっ! あぁッ!!」
レディナは剣の攻防の中で身体をひねり、回し蹴りをもろに食らわせた。エフティアの身体が少し宙に浮く。
「っ、ごほっ……」
エフティアは膝をつき、地面の上で身体を丸めた。
一瞬焦ったけれど、レディナの蹴りは致命的なものではなかった。あるいは、彼女なら致命的なものにできたかもしれないが、それをしなかったのだ。
「さあ、立ちなよ。強くなったんでしょ」
「うっ……くっ!!」
エフティアは何とか立ち上がる。その目は熱を帯びていた。
それにしても――
「――にゃあ、強いにゃー」
「わっ、ソーニャッ!」
「そうにゃ。ヴァルっち、夢中になりすぎにゃ。剣使の端くれが隙だらけだにゃ」
「ごめん……でも、どうしてここに」
「おいら、こういうことには敏感にゃ。それに、一応様子を見に来たのにゃ」
「……心強いよ。僕も、いざという時には二人を止めようと思ってる」
「おいらも、いざという時は止めるつもりにゃ」
ソーニャはのんきそうに頭の後ろに手を組んだ。
エフティアはというと、わずかな時間で僕が伝えたことや、自分自身で掴んだ動きを実践しようとしているが、まだまだ付け焼刃でしかない。はっきり言って、まだ弱い。
「負けないんでしょッ!」
「ぐっ……あ……」
それに、レディナは――彼女は僕と戦った時は……いや、これまでもずっと力を隠していたんだ。とても、エフティアに勝ち目はない。
エフティアに勝ち目があるとすれば――でも、それは危険すぎる。
「あうぅッ!」
倒れたエフティアがこちらを見る。目には涙が浮かんでいたが、彼女はすぐに拭い、立ち上がった。
これは彼女の成長の機会となりうるだろうか。それとも……彼女がただ自信を喪失するだけの結果に終わってしまったら……?
止めるべきか――
「……中途半端に身に付けた力じゃなくて……最近仲良くなったばかりの特待生が教えてくれた力でもなくて……あんた自身の力を見せてみなよ」
ふらつく足で立ち上がると、エフティアは右手に持った剣を天高く振り上げた。左手を添え、鬼の形相でレディナに迫る。
「ソーニャ、止めようっ!」
「ほいにゃ」
「なっ――」
――なんで!?
ソーニャが背後から僕をがっちりと抑え込んだ。
「やめろッ!! レディナッ!! 受けちゃだめだッ!!」
必死の声もむなしく、誰も止まらなかった。
駄目だ、エフティアの剣を初見で受けるなんてことは絶対にできない!
レディナの身体が壊されるイメージが瞬間的に浮かぶ――
「――剣……鬼……?」
エフティアが長大な剣を振り下ろす瞬間、まるで世界が切れるかのように、空気が震えた。彼女が一人で大岩に打ち込んでいた時とは比べ物にならない力が地面を揺らす。
エフティアの剣は地面にめり込んでいた。レディナの剣は、それに寄り添うように重なっている。
息を切らした二人が、見つめあっていた。
「その剣はやっぱり、ぜんぜん中途半端じゃないね」
「うっ、うぅっ……うわああぁぁ――」
「あんた、強くなれるよ。それに、あたしの方しか本当のこと、知らなかったんだ。あんたは……負けてないよ」
レディナは最後にそう言い残すと、泣き崩れるエフティアを置いて歩き去った。その落ち着きようとは裏腹に、彼女の両手は先ほど受け止めた衝撃で震えが止まっていなかった。
「わたっ、わたしっ……かてっ……勝てなかった……全力……だったのにっ……いぃっ……」
エフティアは本気で勝つ気だったんだ。
全部出し切って、勝とうとしたんだ。
それでも勝ちきれなかったのはきっと――
「アル君っ……わたし……勝てなかった……今まで誰にも見せたことのなかった……全力の剣でも……!!」
エフティアは拳で地面を殴った。何度も繰り返したせいで、涙と土が混ざってぐちゃぐちゃになっていた。
ソーニャが僕の拘束を解いた。若干の抗議の視線を送ると、「にゃはは……」とだけ小声で笑った。笑い事ではない。
でも、今はそれよりも――
「――エフティア、すごかったよ」
「勝てなかったんだよッ!!? わたしっ、わたし……あれだけが……あれだけがわたしの――」
エフティアにとって、ただ真っすぐの全力の一刀が心の支えだったのだろう。その一本の支えが、今日この日、折られてしまったのだ。
エフティアと全力で向き合ったあの日、僕は彼女に「全部見せればいい」と言った。彼女は、それを本当の意味で実行したのだ。
「エフティア、君が負けた理由が一つだけ、分かる気がする」
「うぅ……」
「レディナだけが、君を見ていた。君は、彼女のことが見えていなかったんだ。僕は、本当の意味で君と関わり始めたのはついこの数日だけだった。けれど、ひょっとしたら、君のことをちゃんと見ていた人は、ずっと側にいたのかもしれないね」
「そばに……」
レディナがエフティアのことを嫌っていると思っていたけれど、それは勘違いだったのかもしれない。
そして、エフティアが強くなるためには、もっと彼女と向き合わないといけない――そんな気がした。
「エフティア、あたしは本気さ。ついでに言うと、もう手加減なんてしないから」
「えへへ……わたし、強くなったんだよ」
エフティアは黙って剣《エイドス》を握った。
座学の授業で人気のない訓練場で、静かなる決闘が行われようとしている。が、そこに駆け付ける者がいた。
◆
「エフティアっ!」
やっぱり……!
「立会人もつけずに試合なんて……物騒じゃないかな」
そう言ってから、安堵のため息が出る。
状況はよく飲み込めないけれど、何かが起こってしまう前に来れてよかった。
「邪魔しないで、特待生君。これはこの子とあたしの問題なんだ」
「見てて、アル君……わたし、負けないから――」
負けないって……エフティア、君はまだまともに……。
「――負けないから」
エフティアには自信があふれていた。
予想外にも、良い意味で型にはまった姿勢を取っている。
「へえ、様になってるじゃん」
レディナの方もそれは感じ取っているようで、負けじと斜《しゃ》に構える。
(いざとなったら、無理やり止めればいい)
アヴァルはそう決意し、息を吐いた。
小さな風が通りすがり、どこかで乾いた音を鳴らす。
砂粒が転がるかすかな音でさえ、人を駆り立てるには十分な気がした。
「うぉぉぉッ!!」
エフティアが敵を見据えて吠え、大太刀に合わせてその身をひねる。
リゼの剣を彷彿とさせる薙ぎ払い――しかも、それよりも遥かに範囲が広いっ!
レディナはその剣をまともに受けようとしたが、あまりの剣圧に勢いよく吹き飛ばされた。制服が地面の砂で削られる音が痛々しい。
「や、やった……!」
おそらくこうした経験は初めてだったのだろう。エフティアは小さく跳ねる。が、レディナはすぐに態勢を立て直し、エフティアに切りかかる。
「勝った気になってんの……?」
「わっ……」
レディナは執拗にエフティアの剣を叩いた。
エフティアも必死に振り払おうとするが、力を溜める余裕がないため、その大きな剣も情けなく揺れるばかりだった。
「あんたっ! やっぱり中途半端だ! 大して強くもなってないくせに! 気持ちばっかり! 大きくして!」
「うっ! あぁッ!!」
レディナは剣の攻防の中で身体をひねり、回し蹴りをもろに食らわせた。エフティアの身体が少し宙に浮く。
「っ、ごほっ……」
エフティアは膝をつき、地面の上で身体を丸めた。
一瞬焦ったけれど、レディナの蹴りは致命的なものではなかった。あるいは、彼女なら致命的なものにできたかもしれないが、それをしなかったのだ。
「さあ、立ちなよ。強くなったんでしょ」
「うっ……くっ!!」
エフティアは何とか立ち上がる。その目は熱を帯びていた。
それにしても――
「――にゃあ、強いにゃー」
「わっ、ソーニャッ!」
「そうにゃ。ヴァルっち、夢中になりすぎにゃ。剣使の端くれが隙だらけだにゃ」
「ごめん……でも、どうしてここに」
「おいら、こういうことには敏感にゃ。それに、一応様子を見に来たのにゃ」
「……心強いよ。僕も、いざという時には二人を止めようと思ってる」
「おいらも、いざという時は止めるつもりにゃ」
ソーニャはのんきそうに頭の後ろに手を組んだ。
エフティアはというと、わずかな時間で僕が伝えたことや、自分自身で掴んだ動きを実践しようとしているが、まだまだ付け焼刃でしかない。はっきり言って、まだ弱い。
「負けないんでしょッ!」
「ぐっ……あ……」
それに、レディナは――彼女は僕と戦った時は……いや、これまでもずっと力を隠していたんだ。とても、エフティアに勝ち目はない。
エフティアに勝ち目があるとすれば――でも、それは危険すぎる。
「あうぅッ!」
倒れたエフティアがこちらを見る。目には涙が浮かんでいたが、彼女はすぐに拭い、立ち上がった。
これは彼女の成長の機会となりうるだろうか。それとも……彼女がただ自信を喪失するだけの結果に終わってしまったら……?
止めるべきか――
「……中途半端に身に付けた力じゃなくて……最近仲良くなったばかりの特待生が教えてくれた力でもなくて……あんた自身の力を見せてみなよ」
ふらつく足で立ち上がると、エフティアは右手に持った剣を天高く振り上げた。左手を添え、鬼の形相でレディナに迫る。
「ソーニャ、止めようっ!」
「ほいにゃ」
「なっ――」
――なんで!?
ソーニャが背後から僕をがっちりと抑え込んだ。
「やめろッ!! レディナッ!! 受けちゃだめだッ!!」
必死の声もむなしく、誰も止まらなかった。
駄目だ、エフティアの剣を初見で受けるなんてことは絶対にできない!
レディナの身体が壊されるイメージが瞬間的に浮かぶ――
「――剣……鬼……?」
エフティアが長大な剣を振り下ろす瞬間、まるで世界が切れるかのように、空気が震えた。彼女が一人で大岩に打ち込んでいた時とは比べ物にならない力が地面を揺らす。
エフティアの剣は地面にめり込んでいた。レディナの剣は、それに寄り添うように重なっている。
息を切らした二人が、見つめあっていた。
「その剣はやっぱり、ぜんぜん中途半端じゃないね」
「うっ、うぅっ……うわああぁぁ――」
「あんた、強くなれるよ。それに、あたしの方しか本当のこと、知らなかったんだ。あんたは……負けてないよ」
レディナは最後にそう言い残すと、泣き崩れるエフティアを置いて歩き去った。その落ち着きようとは裏腹に、彼女の両手は先ほど受け止めた衝撃で震えが止まっていなかった。
「わたっ、わたしっ……かてっ……勝てなかった……全力……だったのにっ……いぃっ……」
エフティアは本気で勝つ気だったんだ。
全部出し切って、勝とうとしたんだ。
それでも勝ちきれなかったのはきっと――
「アル君っ……わたし……勝てなかった……今まで誰にも見せたことのなかった……全力の剣でも……!!」
エフティアは拳で地面を殴った。何度も繰り返したせいで、涙と土が混ざってぐちゃぐちゃになっていた。
ソーニャが僕の拘束を解いた。若干の抗議の視線を送ると、「にゃはは……」とだけ小声で笑った。笑い事ではない。
でも、今はそれよりも――
「――エフティア、すごかったよ」
「勝てなかったんだよッ!!? わたしっ、わたし……あれだけが……あれだけがわたしの――」
エフティアにとって、ただ真っすぐの全力の一刀が心の支えだったのだろう。その一本の支えが、今日この日、折られてしまったのだ。
エフティアと全力で向き合ったあの日、僕は彼女に「全部見せればいい」と言った。彼女は、それを本当の意味で実行したのだ。
「エフティア、君が負けた理由が一つだけ、分かる気がする」
「うぅ……」
「レディナだけが、君を見ていた。君は、彼女のことが見えていなかったんだ。僕は、本当の意味で君と関わり始めたのはついこの数日だけだった。けれど、ひょっとしたら、君のことをちゃんと見ていた人は、ずっと側にいたのかもしれないね」
「そばに……」
レディナがエフティアのことを嫌っていると思っていたけれど、それは勘違いだったのかもしれない。
そして、エフティアが強くなるためには、もっと彼女と向き合わないといけない――そんな気がした。
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