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第26話 どこか、誰もいない場所
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何とかしてエフティアにばれないように、ベッドから抜け出さなければならない。焦っていると、レディナが小声で「ごめん、からかっちゃって。早く出な」と手を振ってベッドから出るように促してきた。
それに従い、急ぎベッドから抜けようとすると、それ以上に早くエフティアの逆さ顔が上段から覗いてきた。
「や……やあ、エフティア。おはよう」
「どうしたの……アル君だいじょうぶ? なんか、いつもと違う。やっぱり体調悪い?」
「う、ううん。大丈夫だよ。ありがとう」
「やっぱり変だ。ちょっとこっち来て」
「う、うん」
エフティアは逆さのまま僕と額を合わせると、「んー」と怪訝そうな声を出した。
「熱はないみたい」
「そっか――」
――後ろが気になって、少し顔を傾けてしまったのがいけなかった。
「どうしたの? 後ろ? 背中とか痛い?」
「そんなことないよ……」
「見して!」
「エフティア、心配しすぎだって!」
「じゃあ、手だけでいいからっ!」
「手だけって――」
――どういう結論なんだ。エフティアが譲歩した以上、従う他ないけれど。了承の意を示すと、彼女は上段のベッドから飛び降りた。
「んっ!」
手を差し出せと言うのだろう。
「……はい」
渋々手を差し出すと、野獣が食いつく勢いで引っ張り出そうとしてきた――ので、即座に引っ込める。
「うぅ……がぁッ!」飛び込んでくるエフティア。
「なっ――」
――こんな狭い場所に全力で飛び掛かる人がいるか……?
エフティアに押し倒されそうになり、レディナを振り返る。彼女は手を広げて僕達を受け止めようとしている。仕方がない、ここは彼女の胸を借りよう。
レディナと視線を合わせつつ、怪我をさせないようにエフティアの頭を抱き込む。
結果的に、レディナは見事に二人分の重さを受け止めた。
ベッドが三回軋む。だが、ベッドのさらりとした感触などはなく、代わりに熱を帯びた弾力と花のような香りに包まれた。
「エフティア、大丈夫かい」
「うん。アル君は?」
「大丈夫。レディナさんは?」
「大丈夫よ。で、あんたは本当にだいじょうぶ?」
そんなこと言わないでくれ。
女の子二人に挟まれて大丈夫な男がいるなら教えて欲しい。
「アル君……なんか――」
「エフティア! 早くどいてくれないか!?」
エフティアが何を言い出すのかは知らないが、決して言わせたくなかった。
「う、うん……あれ、なんでディナがいるの」
「あたしも、正直言うと実はわかんないの。多分だけど、寝るベッド間違えたみたい」
「……なんで間違えたの! ずるい!」
「いや、だってあんたがこの上に寝てたから、『あぁ、じゃあこの下は空いてるのかな』って思ったのよ。だって、あんたのアル君は真面目でしょ?」
その考え方は正しい。結果的には間違いだったけど。
「それでここに寝てたわけ。で、静まり返った夜にすっごい息を荒げた男の子があたしのベッドを覗き込んできたの。暗くて見えなかったから、怖かったー」
「ちょっ……」
「で、あたしベッドの端の方に身を寄せて警戒したの。でも、その子は死んだように倒れてそのまま寝ちゃったわけ。あたしを襲おうとしたんじゃなくて、ただただ疲れてたのよ。起こすのもかわいそうだから、そのままにしてあげた。で、あたしも安心してそのまま寝たの」
正しい。でも、君はそのまま寝て欲しくなかった。
さあ、エフティアそういうことなんだ。そろそろ解放してくれないと、でないと――
「うーんと……」
エフティアは首を傾げて、何かを考えていた。
「息を荒げた男の子って、だれ?」
「あんたとあたしの間に挟まってるのが息を荒げた男の子」
「アル君かあ!」
「そう、あんたのアル君が息を荒げた男の子だったの」
「レディナさんわざと言ってません!?」
いや、今はそんなことはどうでもいいんだ!
「エフティア、早く――」
言いかけた瞬間、エフティアが馬乗りの形になって見下ろして来た。
「でも、じゃあどうしてアル君とディナがくっついてたの!」
「いや、それはあんたがいきなり飛び込んできたから、危ないと思って二人を受け止めようとしたんだって」
「そんなのわかんない!」
「分かってよ!」
「ディナは頭がいいから、わたしを丸め込もうとしてるんだ」
「はあ!? そういうことはもうしないって!」
「今までしてたんだから、したっておかしくないもん!」
「あんたさ……そりゃその通りだけどさ! それは意地が悪すぎるんじゃない!」
僕を挟んだまま耳元で喧嘩をされて、頭がどうにかなってしまいそうだった。これ、先生が見たらどう思うんだろうな。違う意味で首が飛ぶのかな。
「じゃあ言うよ! 夜にベッドに入り込んできた息を荒げた男の子がアル君って分かったのなら、その時にベッドを移動すればよかったんだ!」
それは……そう。
「それは……その……」
それはその?
「ほら! やっぱり何か隠してるんだ!」
「じゃあちゃんと言う! 別にあたしはずるしようとしたんじゃない! これはほんと! で、移動しなかったのには理由があるの! でも、それはあたしもどう説明するべきか分からないの!」
「ほんとう……?」
「本当よ……分かってくれる?」
「うん……ディナが嘘ついてないってことはわかった。ごめんなさい」
「いいよ。あたしも悪かった。ごめんね」
エフティア、僕ごとレディナさんを抱きしめるんじゃない。
何はともあれ、話がまとまったらしい。
「もう話は済んだのかな……エフティア、どいてもらえる……?」
「あっ! うん……ごめんね」
汗で濡れた服と服が、名残惜しそうに離れていく。
「レディナさん、重かったでしょう。ごめんね」
「あ……うん、平気だよ。あたしこそ、なんか……ごめん」
音と暑さと湿気で頭がぼーっとする。
おぼつかない足取りで寝室を出ようとすると、エフティアに呼び止められた。
「アル君、どこ行くの……」
「ちょっと……」
「だ、だいじょうぶ? なんかつらそうだよ……」
「エフティア――」
「……なに?」
「――今は、一人にしてほしい」
そう、今は一人になりたかった。どこか、誰もいない場所に――
それに従い、急ぎベッドから抜けようとすると、それ以上に早くエフティアの逆さ顔が上段から覗いてきた。
「や……やあ、エフティア。おはよう」
「どうしたの……アル君だいじょうぶ? なんか、いつもと違う。やっぱり体調悪い?」
「う、ううん。大丈夫だよ。ありがとう」
「やっぱり変だ。ちょっとこっち来て」
「う、うん」
エフティアは逆さのまま僕と額を合わせると、「んー」と怪訝そうな声を出した。
「熱はないみたい」
「そっか――」
――後ろが気になって、少し顔を傾けてしまったのがいけなかった。
「どうしたの? 後ろ? 背中とか痛い?」
「そんなことないよ……」
「見して!」
「エフティア、心配しすぎだって!」
「じゃあ、手だけでいいからっ!」
「手だけって――」
――どういう結論なんだ。エフティアが譲歩した以上、従う他ないけれど。了承の意を示すと、彼女は上段のベッドから飛び降りた。
「んっ!」
手を差し出せと言うのだろう。
「……はい」
渋々手を差し出すと、野獣が食いつく勢いで引っ張り出そうとしてきた――ので、即座に引っ込める。
「うぅ……がぁッ!」飛び込んでくるエフティア。
「なっ――」
――こんな狭い場所に全力で飛び掛かる人がいるか……?
エフティアに押し倒されそうになり、レディナを振り返る。彼女は手を広げて僕達を受け止めようとしている。仕方がない、ここは彼女の胸を借りよう。
レディナと視線を合わせつつ、怪我をさせないようにエフティアの頭を抱き込む。
結果的に、レディナは見事に二人分の重さを受け止めた。
ベッドが三回軋む。だが、ベッドのさらりとした感触などはなく、代わりに熱を帯びた弾力と花のような香りに包まれた。
「エフティア、大丈夫かい」
「うん。アル君は?」
「大丈夫。レディナさんは?」
「大丈夫よ。で、あんたは本当にだいじょうぶ?」
そんなこと言わないでくれ。
女の子二人に挟まれて大丈夫な男がいるなら教えて欲しい。
「アル君……なんか――」
「エフティア! 早くどいてくれないか!?」
エフティアが何を言い出すのかは知らないが、決して言わせたくなかった。
「う、うん……あれ、なんでディナがいるの」
「あたしも、正直言うと実はわかんないの。多分だけど、寝るベッド間違えたみたい」
「……なんで間違えたの! ずるい!」
「いや、だってあんたがこの上に寝てたから、『あぁ、じゃあこの下は空いてるのかな』って思ったのよ。だって、あんたのアル君は真面目でしょ?」
その考え方は正しい。結果的には間違いだったけど。
「それでここに寝てたわけ。で、静まり返った夜にすっごい息を荒げた男の子があたしのベッドを覗き込んできたの。暗くて見えなかったから、怖かったー」
「ちょっ……」
「で、あたしベッドの端の方に身を寄せて警戒したの。でも、その子は死んだように倒れてそのまま寝ちゃったわけ。あたしを襲おうとしたんじゃなくて、ただただ疲れてたのよ。起こすのもかわいそうだから、そのままにしてあげた。で、あたしも安心してそのまま寝たの」
正しい。でも、君はそのまま寝て欲しくなかった。
さあ、エフティアそういうことなんだ。そろそろ解放してくれないと、でないと――
「うーんと……」
エフティアは首を傾げて、何かを考えていた。
「息を荒げた男の子って、だれ?」
「あんたとあたしの間に挟まってるのが息を荒げた男の子」
「アル君かあ!」
「そう、あんたのアル君が息を荒げた男の子だったの」
「レディナさんわざと言ってません!?」
いや、今はそんなことはどうでもいいんだ!
「エフティア、早く――」
言いかけた瞬間、エフティアが馬乗りの形になって見下ろして来た。
「でも、じゃあどうしてアル君とディナがくっついてたの!」
「いや、それはあんたがいきなり飛び込んできたから、危ないと思って二人を受け止めようとしたんだって」
「そんなのわかんない!」
「分かってよ!」
「ディナは頭がいいから、わたしを丸め込もうとしてるんだ」
「はあ!? そういうことはもうしないって!」
「今までしてたんだから、したっておかしくないもん!」
「あんたさ……そりゃその通りだけどさ! それは意地が悪すぎるんじゃない!」
僕を挟んだまま耳元で喧嘩をされて、頭がどうにかなってしまいそうだった。これ、先生が見たらどう思うんだろうな。違う意味で首が飛ぶのかな。
「じゃあ言うよ! 夜にベッドに入り込んできた息を荒げた男の子がアル君って分かったのなら、その時にベッドを移動すればよかったんだ!」
それは……そう。
「それは……その……」
それはその?
「ほら! やっぱり何か隠してるんだ!」
「じゃあちゃんと言う! 別にあたしはずるしようとしたんじゃない! これはほんと! で、移動しなかったのには理由があるの! でも、それはあたしもどう説明するべきか分からないの!」
「ほんとう……?」
「本当よ……分かってくれる?」
「うん……ディナが嘘ついてないってことはわかった。ごめんなさい」
「いいよ。あたしも悪かった。ごめんね」
エフティア、僕ごとレディナさんを抱きしめるんじゃない。
何はともあれ、話がまとまったらしい。
「もう話は済んだのかな……エフティア、どいてもらえる……?」
「あっ! うん……ごめんね」
汗で濡れた服と服が、名残惜しそうに離れていく。
「レディナさん、重かったでしょう。ごめんね」
「あ……うん、平気だよ。あたしこそ、なんか……ごめん」
音と暑さと湿気で頭がぼーっとする。
おぼつかない足取りで寝室を出ようとすると、エフティアに呼び止められた。
「アル君、どこ行くの……」
「ちょっと……」
「だ、だいじょうぶ? なんかつらそうだよ……」
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「――今は、一人にしてほしい」
そう、今は一人になりたかった。どこか、誰もいない場所に――
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