グランディオスの剣姫たち 月華の章 ――復讐のために入学したのに女子と同居とは聞いてないッ!――

杉戸 雪人

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第27話 ふて寝

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授業をまともに受ける気分ではなかったけれど、特待生寮にこもるよりはまだましだった。
ソーニャとも話せるし。

「匂うにゃ……フテっちとディナっちの間にヴァルっちを挟んで小一時間煮込んだみたいな濃厚な匂いにゃ」
「はは、シチューじゃあるまいし」
「胃もたれしそうにゃ……」

獣人《ファウナ》って鼻がいいんだな。
湯浴みまでしたのに。

「あ、先生にゃ」

ベッシュ先生が教卓に立つ。
先生はどうもおっとりとしていて、もじゃもじゃ髪のせいか少々間抜けな雰囲気があったが、誰も先生を侮らない。単に授業が面白いのもあるが、剣使《バアリ―シュ》であることが大きい。

「皆さんおはようございます。授業を始める前に大変恐縮ですが、皆さんに注意喚起をしなければなりません」

先生はいつにもまして真剣な顔をしていた。

「実は、このところ不審者の目撃情報が頻出しているようでして、くれぐれも夜間の外出は控えるようにお願いします」

〈せんせー! 不審者ってどんなやつなんですかー!〉

「目撃者の情報だと、黒いマントとフードをかぶっていたそうです。夜間だと暗闇に紛れてしまうことでしょう。みなさん、重ねて夜間の外出はしないようにお願いします」

いかにも、といった感じの見た目だ。

……

「――では、これにて終わります。次もよろしくお願いします」

先生はそう言うと、急いで教室を出て行く。

「いっつも忙しそうにゃ」
「実際、剣術に魔術、各種座学まで受け持っている人だから、忙しいんだと思うよ」  

「うへぇ、教師なんて絶対いやにゃ」  
「悪くないと思うけどなー」  

雑談しながら席を立ち、離れた席に座る三人組を見る。
そこには、かつてない笑顔を見せるリゼと知らない女子が二人いた。

「にゃあ、リゼっちは結局誘わないにゃ?」
「うーん――」

――キルナ先生に打ちのめされて以降、持ち前の明るさすら失っていた彼女に笑顔が戻っている。

「今は、このままがいいのかな」
「これ以上女子が増えても手に負えにゃいし?」
「そのことなんだけど、ソーニャもこっちの寮に住まない?」
「にゃーに言ってんにゃ?」

やっぱりだめらしい。
けど、顔を出してくれるだけでも感謝しないと。
授業を終えた後は、今度こそ剣の訓練をする約束をしていた。
はずだった――



「――今日も訓練はしないというのかい……? 昨日も突然しないことになってしまったし、何のための集まりなのか分からないじゃないか」

特待生寮の訓練場で、僕は不満を隠さなかった。

最初の同居人はあたふた。
教室の隣人は獣人《ファウナ》特有の笑み――感情が読めない。
そして――

「ごめんってアルちゃん。ちょっと用事が出来ちゃって」

――口の動きだけで言っていることが分かる人。

「あっはは……『用事の詳細は……聞いてもいいのかな。一応約束だったのだから、可能であれば聞きたいよ』……で、あってる?」
「一字一句あってる。どうやらレディナさんの言ったことは本当らしい」

〈ねぇねぇ、アル君とディナはなんの話してるの……?〉
〈にゃ、ディナっちは、口の動きで言葉が分かるらしいにゃ〉
〈……すごい!〉
〈……エッチにゃ〉

「ごめんって……ちゃんと話すからさ。あとエッチじゃない」

彼女の言う用事とは、リゼ=ライナザル嬢に関することらしい。

「あの子、最近よく笑ってるでしょ。すっごい楽しそうに。あぁ、よかったなって思ってたんだけど、どうもきな臭いんだ」

〈きなこ臭い?〉
〈なんか怪しいってことにゃ〉

「だから、ちょっと観察してたんだよね、あの子たちのこと。そしたらさ、なんか嫌な言葉が聞こえる気がしてさ」
「嫌な言葉?」
「誰にも言わないでね。『お金』とか『うちら、でしょ?』みたいなね――そういうやつ」

〈うげぇ、おいらの好みじゃないやつにゃー〉
〈えっ、だめなの?〉
〈ほぼだめにゃ。ま、自由なんにゃけど〉
〈だめなんだ……〉

つまり、リゼさんは本当のおともだちではなく、偽りのおともだちを得たというのか。あんなに嬉しそうだったのに。

「まあ、そういうわけだからさ……しばらくはごめん!」

この人は助けようと言うのだ、彼女を。

「僕に、手伝えることはあるのかな」
「うーん……じゃあさ、まずは相談に乗ってくれる?」
「リゼさんを助けるための相談ってことだよね。そういうことなら、力になりたい」
「作戦会議ってことにゃ?」
「そういうことでいいんだよね、レディナさん」
「そんなところ」
「エフティアは、どうしたい?」

何か考え込んでいる様子のエフティアに聞いてみる。

「うーん、よくわからない……助けて欲しいって言われたの?」
「ううん。あたしが、助けたくってさ」
「どうして? 今まであの人に声かけたことなかったのに……?」
「それは……さ。全部言わないとだめ? 助けたい……だけじゃだめかな?」
「いいよ……別に」

エフティアはなぜか拗ねて部屋の中に入っていった。おそらくソファーに飛び込んだであろう音がして、残された三人は気まずい顔を見合わせた。

特待生寮の部屋以外に都合のいい場所もなかったため、ソファーでふて寝するエフティアをよそにテーブルを囲むのだった。

「フテっちがふて寝してるにゃ。にゃ」
「なんかごめんね。あたしが説明を渋ったからさ……」
「助けたいで十分じゃないかな」
「そうにゃ、行動の基本は『にゃににゃにしたい』にゃ」
「それに、エフティアだって理由を教えてくれない時があるんだしさ」

少し意地悪だったかなとは思ったが、エフティアが反応する気配はなかった。

「ちょっとさー、昨日の話してる? 手を握ってもらって理由を求めるのは違うよー」レディナはテーブルを人差し指で叩いた。
「ないにゃー」机に突っ伏してこちらを見上げる。

「あれ……?」

困った。誰かを庇うと味方がいなくなるらしい。
いたたまれない気持ちに抗えず、「すみません」と言うしかなかった。
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