グランディオスの剣姫たち 月華の章 ――復讐のために入学したのに女子と同居とは聞いてないッ!――

杉戸 雪人

文字の大きさ
27 / 45

第27話 ふて寝

しおりを挟む
授業をまともに受ける気分ではなかったけれど、特待生寮にこもるよりはまだましだった。
ソーニャとも話せるし。

「匂うにゃ……フテっちとディナっちの間にヴァルっちを挟んで小一時間煮込んだみたいな濃厚な匂いにゃ」
「はは、シチューじゃあるまいし」
「胃もたれしそうにゃ……」

獣人《ファウナ》って鼻がいいんだな。
湯浴みまでしたのに。

「あ、先生にゃ」

ベッシュ先生が教卓に立つ。
先生はどうもおっとりとしていて、もじゃもじゃ髪のせいか少々間抜けな雰囲気があったが、誰も先生を侮らない。単に授業が面白いのもあるが、剣使《バアリ―シュ》であることが大きい。

「皆さんおはようございます。授業を始める前に大変恐縮ですが、皆さんに注意喚起をしなければなりません」

先生はいつにもまして真剣な顔をしていた。

「実は、このところ不審者の目撃情報が頻出しているようでして、くれぐれも夜間の外出は控えるようにお願いします」

〈せんせー! 不審者ってどんなやつなんですかー!〉

「目撃者の情報だと、黒いマントとフードをかぶっていたそうです。夜間だと暗闇に紛れてしまうことでしょう。みなさん、重ねて夜間の外出はしないようにお願いします」

いかにも、といった感じの見た目だ。

……

「――では、これにて終わります。次もよろしくお願いします」

先生はそう言うと、急いで教室を出て行く。

「いっつも忙しそうにゃ」
「実際、剣術に魔術、各種座学まで受け持っている人だから、忙しいんだと思うよ」  

「うへぇ、教師なんて絶対いやにゃ」  
「悪くないと思うけどなー」  

雑談しながら席を立ち、離れた席に座る三人組を見る。
そこには、かつてない笑顔を見せるリゼと知らない女子が二人いた。

「にゃあ、リゼっちは結局誘わないにゃ?」
「うーん――」

――キルナ先生に打ちのめされて以降、持ち前の明るさすら失っていた彼女に笑顔が戻っている。

「今は、このままがいいのかな」
「これ以上女子が増えても手に負えにゃいし?」
「そのことなんだけど、ソーニャもこっちの寮に住まない?」
「にゃーに言ってんにゃ?」

やっぱりだめらしい。
けど、顔を出してくれるだけでも感謝しないと。
授業を終えた後は、今度こそ剣の訓練をする約束をしていた。
はずだった――



「――今日も訓練はしないというのかい……? 昨日も突然しないことになってしまったし、何のための集まりなのか分からないじゃないか」

特待生寮の訓練場で、僕は不満を隠さなかった。

最初の同居人はあたふた。
教室の隣人は獣人《ファウナ》特有の笑み――感情が読めない。
そして――

「ごめんってアルちゃん。ちょっと用事が出来ちゃって」

――口の動きだけで言っていることが分かる人。

「あっはは……『用事の詳細は……聞いてもいいのかな。一応約束だったのだから、可能であれば聞きたいよ』……で、あってる?」
「一字一句あってる。どうやらレディナさんの言ったことは本当らしい」

〈ねぇねぇ、アル君とディナはなんの話してるの……?〉
〈にゃ、ディナっちは、口の動きで言葉が分かるらしいにゃ〉
〈……すごい!〉
〈……エッチにゃ〉

「ごめんって……ちゃんと話すからさ。あとエッチじゃない」

彼女の言う用事とは、リゼ=ライナザル嬢に関することらしい。

「あの子、最近よく笑ってるでしょ。すっごい楽しそうに。あぁ、よかったなって思ってたんだけど、どうもきな臭いんだ」

〈きなこ臭い?〉
〈なんか怪しいってことにゃ〉

「だから、ちょっと観察してたんだよね、あの子たちのこと。そしたらさ、なんか嫌な言葉が聞こえる気がしてさ」
「嫌な言葉?」
「誰にも言わないでね。『お金』とか『うちら、でしょ?』みたいなね――そういうやつ」

〈うげぇ、おいらの好みじゃないやつにゃー〉
〈えっ、だめなの?〉
〈ほぼだめにゃ。ま、自由なんにゃけど〉
〈だめなんだ……〉

つまり、リゼさんは本当のおともだちではなく、偽りのおともだちを得たというのか。あんなに嬉しそうだったのに。

「まあ、そういうわけだからさ……しばらくはごめん!」

この人は助けようと言うのだ、彼女を。

「僕に、手伝えることはあるのかな」
「うーん……じゃあさ、まずは相談に乗ってくれる?」
「リゼさんを助けるための相談ってことだよね。そういうことなら、力になりたい」
「作戦会議ってことにゃ?」
「そういうことでいいんだよね、レディナさん」
「そんなところ」
「エフティアは、どうしたい?」

何か考え込んでいる様子のエフティアに聞いてみる。

「うーん、よくわからない……助けて欲しいって言われたの?」
「ううん。あたしが、助けたくってさ」
「どうして? 今まであの人に声かけたことなかったのに……?」
「それは……さ。全部言わないとだめ? 助けたい……だけじゃだめかな?」
「いいよ……別に」

エフティアはなぜか拗ねて部屋の中に入っていった。おそらくソファーに飛び込んだであろう音がして、残された三人は気まずい顔を見合わせた。

特待生寮の部屋以外に都合のいい場所もなかったため、ソファーでふて寝するエフティアをよそにテーブルを囲むのだった。

「フテっちがふて寝してるにゃ。にゃ」
「なんかごめんね。あたしが説明を渋ったからさ……」
「助けたいで十分じゃないかな」
「そうにゃ、行動の基本は『にゃににゃにしたい』にゃ」
「それに、エフティアだって理由を教えてくれない時があるんだしさ」

少し意地悪だったかなとは思ったが、エフティアが反応する気配はなかった。

「ちょっとさー、昨日の話してる? 手を握ってもらって理由を求めるのは違うよー」レディナはテーブルを人差し指で叩いた。
「ないにゃー」机に突っ伏してこちらを見上げる。

「あれ……?」

困った。誰かを庇うと味方がいなくなるらしい。
いたたまれない気持ちに抗えず、「すみません」と言うしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

処理中です...