グランディオスの剣姫たち 月華の章 ――復讐のために入学したのに女子と同居とは聞いてないッ!――

杉戸 雪人

文字の大きさ
34 / 45

第34話 こんなものですよ、メイドは

しおりを挟む
持ち前の元気さを失っているエフティアとリゼ。
不安を抱えたままでは学業に支障が出てしまうが、どう励ましたものか。
比較的元気な、やけに思考は大人びた獣人《ファウナ》ともう一人の特待生を見て、これしかないと思い至る。

「ソーニャ、レディナさん、僕と一緒に二人の特待枠入りを手伝ってくれないかな」

ソーニャはとぼけたふりして頭が良いのを隠せていないし、レディナさんは特待生だ。

「にゃー、そういう言い方はよくにゃいと思うにゃー」
「ニャっちゃんに同意ー。そもそも、この子たちだってほら、こんなに怯えてるのに成績が急に上がるとは思えないなー」

確かに、「僕のためにあなたの時間をください」なんて、いくら友達でも身勝手なお願いだ。

ってなんにゃ〉
〈ソーニャンの方がいい?〉

僕から二人にしてあげられることって、何があるだろう。

「二人にとっても、君たちが一緒の方が心強いかと思ったんだ。それに――」

僕はテーブルを囲む一人一人と目を合わせていった。

「――もし、このお願いを聞いてくれるなら、僕の時間と能力の許す限り、ここにいる全員のお願いをなんでも……ひとつだけ聞く、というのはどうかな」

どれだけ思考を巡らせても、僕が渡せるものが思いつかなかった。思いつかない以上、みんなに決めてもらうしかないだろう。

「にゃ? 今にゃんでもって……?」ふてくされた耳がピンと立った猫人。
「言ったねぇ?」不敵に笑うもう一人の特待生。
「なんでも……ですの?」月が顔を出し。
「千個以上思いついちゃった……」不穏なことを言うエフティア。

目的を果たすためなら、なんだってする。
そう、なんでもだ。

「今のうちに考えておくかにゃ」
「あたしはもう決まったー」
「どうしましょう……もう胸いっぱいですのに」

「いやだ!」

皆の視線が一点に集まる。その先に腕組みをして顔を背けるエフティアがいた。

「エフティアさん、理由を聞いても?」

ひとまず聞いておく。
ひとつじゃ足りないとか言いそう。

「ひとつじゃ足りないっ!」

やはり。

「だって、特待枠って毎年入らないといけないんだよね? だったら――」
「三つ、だよね」

正直に言うと、別に数なんてどうでもいいんだ。
全員の視線が集まるのを感じた。

「僕は本気だ」

エフティアには強くなってもらわないといけないのだから。

「だからリゼさん、大丈夫です」
「……本当ですの?」
「時間はたくさんあります」
「……アヴァルさんがそうおっしゃるなら!」

すっかり明るさを取り戻したリゼは、エフティアと手を繋いではしゃいでいる。

「そうですわ! みなさん今日はこちらにお泊りくださいな!
少々狭いかもしれませんが……!」
「でっかいにゃ」「広いわね」「おっきいよ!」

確かに、この別荘は特待生寮よりも広かった。庭に至っては、特待生寮の訓練場よりも遥かに広く、駆けまわれそうなほどだった。

「あっ、いいですわよね……? メイドさん」
「問題ありません、お嬢様。早速お夕食の準備をします」
「お邪魔でなければ、あたしも手伝いますよ」
「おいらも手伝うにゃ」
「助かります。人数としては十分ですので、お嬢様とお二方はごゆっくりお過ごしください」


三人は調理場へと向かい、僕とエフティア、リゼさんだけ残された。
一気に静かになると、何を話したらよいのか分からなくなる。

「そうですわ! わたくし、もうひとつ目のお願いが決まってますの!」
「えぇーッ!」

エフティアが大声で驚く。
君は既に千個決まっているだろうに。

「なんでしょう?」
「ミルラさんとイルマさん、二人ともおともだちになってくださいまし。それが、わたくしの願いですわ」
「それは……」

不意打ちだった。
あの二人に対して抱いたどす黒いものが、脈打つごとに膨れ上がる。
僕の友達を馬鹿にし、リゼさんを騙していた人間。その友達になる?
それこそ馬鹿げている。

目を開くと、テーブルが消えていた。
制服を着た少女の足が小刻みに震えている。
目線を上げると、ミルラとイルマの顔があった。
どっちがどっちだったかな。
何を怯えているのだろう。
左手に冷たい感触がある。
波打つ刃の剣の柄だ。
そうか、僕は殺すためにここにいるのか。

――不意に感じた右手を包む硬さと温もりに、視界が明るくなった。
ミルラとイルマは消え、テーブルが在る。
その下で絡んだ手と手――その重なりから熱いものが押し上がってきた。

エフティアは何食わぬ顔でおかわりのケーキを片手で口にしている。しかし、僕の手を握る手はしっかりと固かった。

「――リゼさん、僕は……二人のことが嫌いなんだ」

言うつもりがなかった心の内――それを言葉にすると、胸の奥のどろどろしたものが押し流されていく。

「だから、友達にはなれないよ」

期待した言葉ではなかったはずなのに、リゼは翻《ひるがえ》ってきらめいた。

「でしたら、きっとなれますわ――」

「どうして」と尋ねるよりも先に、リゼが言葉を続ける。

「――お二人に会えたら、お話をしてくださいな。それさえ約束してさえいただければ、わたくし、お勉強も頑張れますわ!」

こんなに眩しい笑顔の人が、あんな二人を想う――そのことが奇妙に思えて仕方がない。

「文句しか出てこないかもしれません……それでもよければ、約束します」

こんな投げやりな返答に、「嬉しいですわ」とリゼは微笑む。二つの月の髪飾りが、彼女の輝きを際立たせていた。




「あの坊ちゃん、いい暗殺者《アサシン》になりますよ」

調理場で、包丁を持ったメイドが物騒なことを言う。

「メイドってこんにゃん?」ソーニャははぐらかすように言った。
「聞かないで。多分違うわ」
「こんなものですよ、メイドは」

すまし顔のメイドの横顔をうかがうも、何を考えているのか二人には見当がつかない様子だった。

「こんなもんにゃって」
「あたしに振らないでよ」
「ふふ、冗談ですよ」

ゆっくりと包丁を下ろす手つきが、違う何かに見えてきた二人。怪訝な目でメイドを見つめ、レディナは慎重に尋ねる。

「リゼとは長いんですか?」
「初めてお会いしてからは、十年になります」
「長いにゃー」
「経ってみれば、意外と短いものですよ」
「どうして、あの子はあなたの名前を知らないんですか」
「当主様のご意向で、側仕えとなる者の名を知ることを禁じられていました」
「他の兄弟もですか?」
「いいえ、私の知る限りではお嬢様にのみ課せられたものです」
「そんにゃもんこっそり教えればいいにゃ」
「名を教えたメイドはみな別の奉公先に移されましたし、親しくする行為もまた同様です」
「うへぇ、気持ち悪いにゃ」
「あんた、失礼よ。ごめんなさい、うちの口減らず猫が」
「いいんですよ。ようやくお嬢様にもご友人ができたのですから」

友人という言葉に反応して、レディナは尋ねる。

「ミルラとイルマのことは、知っているんですよね。何か、二人について知っていることはありませんか」
「いいえ、特には。ほんの少しお遊びが過ぎる方々とお見受けしましたが、お嬢様はとても大切になさっているようです」
「二人の行方について、何か知っているんじゃないですか」

レディナの問いに、目を細めながらメイドは言った。

「知っていることだけ、お教えしましょう――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

氷結の夜明けの果て (R16)

ウルフィー-UG6
ファンタジー
Edge of the Frozen Dawn(エッジ・オブ・ザ・フローズン・ドーン) よくある異世界転生? 使い古されたテンプレート? ――そうかもしれない。 だが、これはダークファンタジーだ。 恐怖とは、姿を見せた瞬間よりも―― まだ見えぬまま、静かに忍び寄るもの。 穏やかな始まり。ほのかな優しさ。 だが、石の下には、眠る獣がいるかもしれない。 その時が来れば、闇は牙を剥く。 あらすじ 失われた魂――影に見つめられながら。 だが、英雄とは……本当に常に“光”のために戦う者なのか? 異国の大地で、記憶のないまま、見知らぬ身体で目を覚ます。 生き延びようとする本能だけが、彼を前へと突き動かす。 ――英雄か、災厄か。それを分けるのは、ただ一つの選択。 冷たく、謎めいた女戦士アリニアと共に、 彼は武器を鍛え、輝く都市を訪れ、古の森を抜け、忘れられた遺跡へと踏み込んでいく。 だが、栄光へと近づく一歩ごとに、 痛みが、迷いが、そして見えない傷が刻まれていく。 光の道を歩んでいるかのように見えて―― その背後で、影は静かに育ち続けていた。 ――これは、力と希望、そして自ら築き上げる運命の物語。 🔹 広大で容赦のない世界が、挑む者を待ち受ける。 🔹 試練と沈黙の中で絆を深めていく、二人の仲間。 🔹 「居場所」を探す旅路の果てに待つものとは――。 ヴェイルは進む。 その選択はやがて、一つの伝説を生み出すだろう。 それが光か、闇か。――決めるのは、あなた自身だ。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...