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前編

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「鏡よ鏡、世界で1番美しいのは、だあれ?」

あれ、何で俺、こんなこと言ってんだ?
てか鏡に向かって、喋ってるとか俺やっば。
しかも、真っ黒だし、何も写ってないんだけど。多分あれだ、えーっと、えーっそう!!マジックミラーだろ、これ!

「それは、お妃様、貴方でございます」

うっわ鏡喋った…怖い通り越して…もはやキモ……ま、まあ、いいわ。
って、ん?待てよ。このフレーズどっかで聞いたことがあるような…

今、ローリング(脳内検索)………

あっ!!!思い出した!
かの有名な白雪姫の話じゃないですか!
確かこれ言ってるのって、新しいお妃さんじゃなかったか?
じゃあ、俺って、まさか、まさかそのお妃さんってこと?!それじゃあ、俺…
俺は恐る恐る自分の膨らんだ胸を触る。
ぽよんと張りがあり、もちもちしてるが、胸に感触が伝わらない。中を見ると、つけ胸。
それよりも、下半身に普段と同じような感触を覚える。それは触らなくても分かる。
そこで新たな疑問が浮かぶ。
はぁ?俺、何で女装してるんだよ??
ん~、意味分かんね~
そういえば、さっき鏡、俺ことお妃さんのことが1番美しいって言ってなかった?
じゃあ、白雪ちゃん(もう、面倒なんでフランクに呼びまーす)、まだ大人じゃないってことだよな。白雪ちゃんって、今何歳なんだろ。

「おい、鏡、白雪は今いくつだ」

鏡への口調が急に変わったことに、俺は気付いていない。おい、白雪ちゃん呼びどこ行った!

「えっ…えーっと今年で18ですが」

鏡は、妃のいつもと違う質問に困惑中。
だが、それよりも白雪の歳だ。
18なら、鏡は白雪姫が1番だと答えるはずだ。俺は、咄嗟に鏡を掴んでいた。

「はぁっ~~?!!んなわけねえだろ」

「そ、そう言われましても…今年、白雪姫の成人祝福のパーティーにお妃様もご出席なされたではありませんか」

そういえば、そんなこともあったな…
俺の奥底が疼く。
俺は白雪が成人するのを待って、白雪と…
いや、待てよ。そもそも白雪は成人してねーだろ。
諸説あるが、14じゃなかったか?
あれ、話と違わね?何でだ?

「白雪姫って確か、新しい妃に森に追い出されて、森で7人の小人に出会って、妃の変装婆さんに毒リンゴで殺されかけて、最後は隣国の王子にキスされて目覚めて、幸せになるんだったよな…」

一体、どうなっている?
すると、

「はぁ~もういいわよね」

鏡が盛大な溜息をついた。いや、正確には鏡の後ろの壁から聞こえる。この透き通るようなソプラノボイス、何度も何度も耳にした。
ドォン!!バリンッ!
凄い乱暴な音を立てながら、その人物は壁と鏡を突き破って、俺の部屋に入ってきた。
同時に俺の身体は、咄嗟にそいつに向かっていた。そして、その身体をぎゅっと抱きすくめる。

「ゆうき…やっと会えた…」

「白雪…」

同時に、俺は全てを思い出した。
どうして、俺が新しいお妃さんになってるのか、白雪が隣国の王子と一緒じゃないのか。
それは、俺が…

俺が転生者で白雪を愛してしまったからだ…



────────────────



俺が白雪と出会ったのは、童話通りだ。白雪は国のお姫様で、その母親つまり元の妃が死んだから、新しい妃が迎えられたってわけだ。そこで、素朴な疑問が浮かぶ。
いやいやいや、そもそもお前、男だろ?!
ってな。
いや~俺もさ、妃って女だよな、だって、漢字におんなへん、ついてんだぜ?
でもさ、なんか、俺、みんなには女に見えてるらしいの。あ、もしかして魔法か?これ。
まぁ、いい。
それで、白雪を一目見た時に思ったんだ。
雪のように白い肌と美しく艶のある長い黒髪、薔薇のように赤くぷっくりとした唇…
これはもしかして『白雪姫』じゃね?
同時に、俺は前世、日本の大学生として暮らしていたことを思い出す。
名前はゆうき。
名前はそれしか思い出せないが、趣味でよく、転生ものばっか読んでたな。よくあるのは、悪役令嬢とかヒロインとか、モブ、たまに王子とか、だが、ヒロインの継母しかも中身男は想定外だ。こういうのって普通、性別を合わせるんじゃないのかよ…

「私がハイゼル王国、国王ミケル・ハイゼル、こちらが娘のエリラです」

へぇ~白雪って本名じゃないんだ。
初めて知ったわ~
今日初めて会う国王がニッコリ俺に笑いかける。まだ、エリラと言われた10くらいの女の子がペコリと頭を下げる。だが、将来は俺を超える絶美少女になる片鱗はある。これは、相当な美人だったろうな、母さん。
それに、俺の名前はマーラって言うのか。今気付いたわ。童話では、そこの細かい描写まで出てこないからな。
というか、このおっさん、さっきから俺の身体を随分と舐め回して見てくれるじゃないか。国王ミケルは茶髪で、ガタイもガッチリして、かなりのイケメンであった。声も低くてしゃがれてないし、いわゆるイケボだな。これで、口説かれたら、大抵は落ちるだろうな。
また、俺の容姿は贔屓目ひいきめに言っても、超絶美少女だ。それに加え、胸は美乳、腰は細く、手脚も長く細い。
これはすぐにでも抱きたいと思うよな…
俺だって、この身体抱きたいわ(泣泣泣)
ミケルは言う。

「じゃあ今から、母上と2人で話してきてもいいかい?エリラ」

その目は笑っているが、情欲にまみれきっていた。きっと、今から俺を押し倒すつもりなんだ。俺は継母ままははと言っても、まだピッチピチの20だ。まだ、誰にも触られたことないのだ…中身男でも、初めては大事にしたいんだよ!ミケルは30代くらいで、まだまだ性欲は尽きていないのだろう。国で1番偉い人に拒否する勇気が俺にはない。だが…

「ええと…」

困惑状態の俺に微笑みながら、ミケルは王の椅子から降りて、俺の手を手に取る。そして、部屋から連れ出そうと歩き出した。

今から俺、この男に抱かれるの…?
えっえっ、嫌だ!って、そんなに嫌でもないかも…なんか好奇心が湧くというか…
いやいやダメだ!落ち着け、俺。
世界的有名で健全な童話がBLになっちゃうだろ。いや、決してBLが健全ではないわけではない。俺は基本、どんなカップリングだって、いける(見るだけならな、俺自体は女の子が好きだけど)。最近のマイブームはBLだからな~って、そんな弁明してる場合ではない!!俺は今、超絶ピンチなのだ。そう!貞操の危機!!!

脳内混乱中の俺がミケルに引きづられていると、凛とした透き通る声色が響く。

「まぁ、お父様。私も新しいお母様とたくさんお喋りしたいですわ」

「んん…だが…」

「お願いですわ。お父様」

エリラは走り寄ってきて、ミケルの袖をキュッと掴み、縋り付く。ミケルは愛娘のウルウル顔に根負けした。

「うっ、分かった…じゃ、また今度ゆっくり話そう、マーラ」

そして、エリラは俺の腕を掴み、物凄い勢いで王の間から駆け抜けた。

「えっ、ちょっと!」

「んふふ、お母様、お庭に行ってお話しましょ?」

エリラは、先ほどまでなかった魅惑的な笑みを浮かべながら、俺に囁いた。



────────────────



庭に出ると、そこには多彩な薔薇園が広がっていた。いや不気味な程に…赤はもちろん、白、黄、オレンジ、青まで?!青って確か、自然には生み出せないよな…意外と科学進んでる?!って、じゃないじゃない!

俺は、エリラの方に向き直ると丁寧にお辞儀をした。

「先ほどはありがとうございました、エリラ様」

すると、エリラがコテッと首を傾げる。

「えっ?別に大したことしてないわよ?あの父親、何でもかんでも抱いちゃうのよね。ちょっとでも気に入ったら、男も女も歳も身分も関係ないのよね。お陰で、異母?異父?なんだかよく分からない兄弟姉妹があちこちいるからさ、ていうか、うちの国、みんな身体か血の繋がった国になっちゃった。だから、私と血繋がってないあんた見て、興味湧いたのよね~。あいつの目、見たでしょ?あのままだと、あんた間違いなく、抱かれてたよね。あんた、あいつの好み、どストライクだもん」

黙って聞いていれば、なんだか、この子、さっきからとんでもないこと口走ってるんですけど?!!
10歳よね、ほんとに10歳よね?!
それに、えっ?!どういうことだよ?
みんなって、みんな、国民も?!
さっき会った村の人たちも、商店街のおばちゃんたちも王宮のメイドも…
みんな、身体か血が繋がっている…
ってヤバすぎだろ、この国。
生まれて初めて聞いたわ、血が繋がってないから興味湧いたとか。
俺、白雪姫を死に追いやる継母役だけど、正直逃げたい…逃げてもいいですか、俺…

「あっ、そうそう。逃げるなんて言い出さない方がいいわよ?あいつ、執着心だけは半端ないから、複数で凌辱して、最終的には殺しちゃうのよ。今まで、そういう女、男たくさん見てきたし」

普通に軽ーく話してるけど、
めっっっちゃ、内容えっぐ!!
ほんとにこの子10歳の女の子?!
それより、俺の考えなんで分かったんだ?

「んはははは、あんた、面白い!顔がコロコロ変わって。あと、独り言ダダ漏れだよ?」

エリラは腹を抱えて笑い出す。

「へっ?!それは申し訳ありません、エリラ様。お見苦しいところをお見せして」

俺は慌てて謝った。この子、この国の姫だ。継母とはいえ、俺より偉い…と思う。10歳にして、肝も据わってるしな。

「んん、いいのよ。私、あんた気に入った。あんた、私のこと、白雪と呼んでいいわよ」

なんか、よく分からんけど、気に入られた。
でも、何で白雪?そこは、本名エリラでよくね?と考える前に、口が勝手に動く。

「そう…なんですか、でも…」

「でも何?なんかあるの?」

エリラは、上目遣いで俺を見つめる。
はぁ~、天使かよ。俺が男(生物学的に)だったらな…
エリラを抱け…
いやいやいや、違う違う。
いい加減目覚めろ、俺!
俺はこの可愛いエリラの継母なんだぞ??
良い?俺はエリラの母さんなんだ!
俺はフーッと気持ちを落ち着かせた。

「あの、白雪って本名じゃないし、そこは普通エリラじゃないかと思いまして…」

「ふ~ん、そういうこと。みんなには、内緒なんだけど、本名が白雪。エリラは私の母さんの名前」

「はっ?!どういうことだよ?!じゃなくて、どういうことなのですか?」

意味が…分からない…

「えっと、あいつに言われたからそうしてるっていうか。多分、母さんと私を重ねてるんじゃない?私がもう少し成長したら、抱くつもりとか」

はっ?父親が娘を抱く?それって…

「近親相姦じゃん」

「何言ってるの?この国では普通のことよ?子孫を残せれば、OKなんだから。というか、あんた、さっきから口調がおかしいけど、大丈夫?」

「あぁ、これが俺の素なんだよ。あ~もんめんどくせぇ。俺は男なんだよ!」

すると、全身が一瞬光った。俺は驚いていたが、エリラは特に何の反応も示さなかった。
なんだ、何が起こった。
身体に変化は、特にないが…

「あんた、ほんとに男なのね…通りで独り言も荒っぽい感じしたのよね。私には、あんたが男に見えるけど、容姿は特に変わってないから他の奴には女に見えるのかしらね。不思議なこともあるのね…だからって、あいつに抱かれない保証は全然消えてないけど。だってあいつには、あんた女にしか見えないし。いや、男でも抱くわ、その身体」

「おいおいおいおい、怖いこと言うな。それ言うならお前もだろ」

「ふん!私はまだピチピチの10歳よ?」

ピチピチって魚か、お前。

「あいつ、何でもかんでも抱くんだろ?ロリショタも例外じゃない。身内とかも関係ねぇだろうな」

「そうね、実際、あいつ、あいつの母親とも、叔母にも、姉、妹、兄、弟にも全員手を出してるし。母さんの家族にも手を出しちゃったしね。お陰でみんな、子沢山だよ」

うーわ、こんなに嬉しくない子沢山、初めて聞いたよ、俺…

「だが、男同士は生まれねぇだろ。生物学的に」

「それがね、この国では生まれちゃうのよね…何故かあいつとだけ。何でか分かんないんだけど」

はぁ~詰んだ、ほんとに詰んだ。
俺、あいつの妻だから、1番被害を受けるじゃん!でも、待てよ、あいつ、性に奔放なら、別の奴に目を向けて…

「無理ね」

はい!出ました、即答!!

「だって言ったじゃん。あんた、あいつの好み、どストライクって。これは、毎晩、抱き潰されるわね」

エリラは、顎に指を当てながら言う。
おい、お前、何で、そんな得意げなんだよ。
お前の父親だろ?それに、俺、お前の継母なんだよ。何とかしてくれよ。
それに、その、どストライクって響き…
めっちゃ嫌!!嫌いよ!もう!!
俺は一体、どうすれば、この悲劇(あいつに抱かれる)から逃れられるんだよ…

ん、でも待てよ?ここは白雪姫の話だ。
こいつ、白雪姫でヒロインだよな。随分、思っていた世界とは違い過ぎているが、それは無視しよう。俺は寛大だから、受け入れる。話通りなら、俺が、こいつを死に追いやれば、こいつは隣国の王子と仲良く暮らせるだろう。ここだと、貞操がとてつもなく危ない気がするしな…

「お前、もし隣の国の王子さんがやってきたら、結婚したいか?」

「嫌よ!あいつ、隣国の王妃に手出したから、王子もあいつの子どもなのよ?!それに、性格もあいつといっしょ。まだ、12なのにもう、何人も妊娠させてんだから。私、血が繋がっていない男と結婚したいの!」

何と?!隣の国の王妃さんにも手を出していたのですね…もう、どうなってんのよ、この国の貞操…正確には国王ミケルの貞操なんだが…誰か…誰でも良いから、あの絶倫孕ませマシーンを止めてくれ~!!
てか王子さん、12で童貞卒業なんですね…俺なんて21にしてまだですよ…
俺は、だんだん白雪の話に慣れてきて、「何人も妊娠させて」の部分は、スルーさせて頂いた。
それに、白雪の願望、日本では社会的に血の繋がっていない男と女が結婚するのが、一般的なんだよなぁ。この国では、それが普通じゃないんだな。なんか、哀れんでしまう。
もう、為す術がありません…神様…どうかお助けを…
俺は手を組んで、空を仰いだ。

「あ、そうだ。ねぇ、あんた、私を抱いてよ。血繋がってないし。私、初めてはやっぱ血が繋がってない奴が良いのよね~」

「はぁっ?!!お前、何言ってんの。血繋がってなけりゃ、お前誰でも良いのかよ。てか、俺、ロリには興味ねぇんだ」

「ふーん。でもいいの?あいつに抱かれるよ」

「うっ、何というパワーワード」

「あいつ、自分より先に誰かに抱かれたってなったら、しばらくは手を出さないのよ」

「なんでだ?」

「あいつ、無理矢理処女とか童貞奪って孕ませるのが、好きなのよ。実際、何回も見てるし」

お前一体、どこで見てんだよ、親父のセックス。親父さんも、まだ10の子どもを、しかも女の子、健全に育てようね?もうちょっと、親父さんも娘に見つからない場所でね…
なんか、あいつを擁護してしまった。俺もだんだんおかしくなってきている。やばいな…

「多分、あいつはわざと私に見せていたのよ。ムラムラさせてさ」

「実際、どうなんだよ」

「別に、最初見た時はビックリしてガン見してたけど、なんか日除茶飯事で、もう興味なくなった」

「あ~あ、興味なくなっちゃったのか…」

このレベルになると、興味なくなるのか。
うむ、初めて知った。

「じゃあ、お前、隣の王子さんとは結婚したくないんだな」

「しないから、絶対!!!」

「分かった、それは俺が何とかしてやる」

「えっ?!何であんたが」

「それは…」

俺がこの話を知っているからだ。まさか、隣の国の王子があいつの子どもで性に奔放だとは思わなかったが…
俺が白雪を森に追いやらなければ良いだけだろ?それに、今、白雪を抱けば、俺はあいつに抱かれないで済むかもしれない。敵は同じなんだ。白雪と組めば、何とかなるだろう。
この世界の貞操観念も、身体は女なのになぜか白雪には男に見える俺の生物学的概念がどうなってるかも分からんが、そこはおいおい分かれば良い。
俺は決めた。

「それは、俺もお前を気に入ったからだ」

「えっ…」

俺は戸惑う白雪を横目に、その華奢な身体を抱き締めた。

「これから、仲良くしような」

俺はニヤリとしながら白雪の耳元で囁いた。
内容は不健全だが、周囲には、継母と娘の健全な交流にしか見えないだろう。そもそも周囲が健全じゃないが…それはそれで一旦隅に置いておこう。

こうして、俺は白雪と手を組んで、互いの貞操を守ることにしたのだった。


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