ポンコツ能力は使いよう!?~戦術で最強を凌駕する~

シロクロ

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 魔法が存在するこの世界。
 モンスターが存在するこの世界。
 国同士で、またモンスターと人が。人と人が。モンスターとモンスターが戦い合う。
 そんな混沌のこの世界の、とあるひとつの国の物語。

 

 季節的には春頃。時間的には昼前辺り。森を颯爽と駆け抜ける影がひとつ。
 葉と葉のおかげか、この季節の風は少し冷たさが残っていた。
 それでも構わず、気にする暇もなく飛ぶ彼女は箒に乗り、トンガリ帽子にローブ、ブーツを身につけた、見たまんまの魔女。
 彼女は現在逃走中であった。
 木と木の間を通り抜け、葉と葉を掻き分け道などお構い無しに飛んでいた。
 白銀の髪を揺らし、独特な紫の目を持つ彼女の表情は焦っている。何せ追われている相手が相手だった。その相手とは「盗賊」。別に彼女が盗賊に何かしたわけではない、と言ったら嘘になる。と、言ってもただばったり会ってしまったということだけ。
 「奴はではないが逃がすな」
 一人の盗賊の団員が並列して並ぶ仲間に確認する。
 盗賊たちも箒に乗っていて彼女と同じぐらいのスピードで追っている。が、彼女とは違い盗賊たちには焦りや不安などはない。
 その証拠に今まで追い付かなかった彼女がすぐそこで箒に乗ったまま止まっていた。
 「チェックメイトだな」
 囲まれていた。もう逃げ場など無い。数十人いやそれ以上の数の盗賊たちが彼女一人を囲っていた。
 これは盗賊の言う通り、詰み。この人数相手では勝てる確率など皆無。
 盗賊たちは始めてからこれが狙いだった。わざと追いかけ回し、森の視界の悪さを逆手に彼女の方向感覚を狂わせ追い詰める。シンプルだが一番効率的だ。
 「さて、女に餓えている奴は多少いるが金に餓えているやつは全員一致だ。お前なら売れば高くなりそうだ。何せその目が証拠だ」
 盗賊のボスだろうか。一歩一歩近付く。
 「………っ!」
 勝ち目など無いが抵抗しない訳にはいかないとその思いが行動に移す。
 片手、手のひらを近付く盗賊を向ける。
 「くっ、ハハハハハハ。何の魔法も使えないお前が何をするっていうんだよ。なぁ?」
 更に大きく一歩前へ出る。それと同時に彼女の手がビクリと震えた。
 「何だよ。何もしないのかよ。なら手本を見してやるよっ!」
 勢い良く構える手。彼女と同じように向けられた手には力が籠っていた。
 恐らく奴は容赦なく放つであろう。
 それを証明するかのように手の平に集まりだす魔力。
 周りを囲まれて、逃げ場などなく、容赦なく振るわれる一方的な魔法に成すすべはない。
 魔力が集まりだした手の平にはすっかり複数の岩の塊たちがその周りを浮遊していた。
 「どうだ?これが魔法だ」
 ひとつひとつの大きさは拳骨程度だが、それが飛んでくるとなると致命傷になるだろう。
 「なぜ、なぜ目標を達せず、私に構うんですか?」
 必死に抵抗、その結果がこれだ。まるで命乞いするかのように会話に持ち込む。
 その様子を半笑いで見る。少しぐらい別に構わんとそれに応じる。
 「ああ?それなら簡単だ。俺たちが目標にしている奴は逃げることは出来ん。何故ならがあるからな」
 盗賊が手にしていたものはアクセサリーだった。いや、ネックレスに見えなくもない。
 そのネックレスに付いている宝石のようなものがどうやらその原因らしく目標である何かは恐らく人であろうが逃がさないようにしているらしい。
 「んで、お前を狙う理由だが単なる金だよ。お前は知らん振りしてるらしいがその目を隠さない限りお前は正真正銘かの悪名高きなんだよ」
 その言葉に過剰に反応してしまった彼女。もはや言い逃れすらできなくなってしまった。
 顔をしかめるももうどうしようもない。完全に現在の標的は変わってしまった。
 「てな訳で。痛いだろうが少し気絶してもらうぜっ!」
 勢い良く放たれたいくつかの岩。標的となった彼女に防ぐ術はない。
 が、しかしその時だった。誰もが予測しなかった事態。無数に放たれた岩は何かによって阻まれた。
 そこに現れたのは一人の少年。

 「ねぇ、あんたら。俺のやつ返してよ」

 無傷で少女の前にたち、片手を差し出し目線はネックレスへいっていた。
 どうやら彼が………
 「……くっ、ハハハハハハ。まさかお前が出てくるとはな。これはこれは。一石二鳥ってやつじゃないか?」
 自分たちの標的が目の前に現れこれ以上に無い好機に高ぶる感情。
 他の盗賊たちもゲスな笑いを浮かべては武器を構え始める。
 「無事?かな、大丈夫だったか?」
 この数に対し全く怯まず突っ立つ少年は優しく少女を見た。驚いた表情で少年を見上げていた。
 「は、はい」
 「悪いね巻き込んで。これは俺とあいつらのの問題だからなぁ」
と、苦笑い。
 「何俺たちを無視してんだよ」
 怒号と同時に放つ先ほどの魔法。しかし無視されたのが堪えたのか球数が多いのは気のせいではない。
 放たれた魔法は一直線に向かってくる。
 「やれやれ、やっぱこうなるか」
 はぁ、とため息をしたのちパチンっと鳴らす指。その瞬間現れる魔法。それは盗賊が放った物と全く一緒の物だった。
 「な、何だと!?」
 初めて見せる動揺の顔。しかしそれだけでは終わらない。何と全て同じ軌道を描き全てを相殺してしまった。
 ここまでの魔力操作が行えるものはあまり多くはないであろう。そんなことを何の予備動作無しにやってのけたのだ。盗賊が驚くのは無理もない。
 「なぁ、あんた名前は?」
 これくらい当たり前だろと鼻を鳴らすだけで盗賊には見もしない。
 「え、!?わ、私は兼拍かねはくひいらぎです」
 「そうか。俺は御影みかげアサギ。魔法は何を使える?」
 相殺し終え静まり返る現場。アサギだけが悠長に話ていた。
 同じ魔法、同じ軌道で無事を保って見せたアサギにもう一度、今度は別の魔法が襲いかかる。
 「…っ!ったく。面倒だ。離脱するぞ」
と、アサギが言うも何の事やらとキョトンとした顔をする兼拍。その意味をわかっていないようだった。
 迫る魔法。これには余裕がなかった。
 ガシッと勢い良く捕まれる腕。引っ張られる方向へ体が傾いた。
 「うわっ!?」
 いきなりだったが何とか踏ん張る事に成功。しかし引っ張った本人は何がしたかったのか。それを問い詰めるべくアサギの方を向く。
 「あの、…………あれ?ここは?」
 文句を言ってやろうと思ったがそんな感情は一切飛んでしまった。
 その理由は明白。場所が変わった。というよりかは移動したと言うのが正解だろう。
 盗賊の姿は一人もない。いるのは移動させた本人であるアサギ、そしてさせられた側の兼拍だけ。
 「…………」
 「悪いが呆けている暇はないぞ」
 ぼー、としている兼拍に声がかかる。どうやら初のテレポートを体験したらしい。
 呆けている暇はない、それを証明するかのように聞こえる声。盗賊たちだ。
 ビクリと震える体。一瞬忘れていたが今は逃走の最中である。
 近付き始める盗賊たちの怒号。一石二鳥という美味しい標的をどちらも見逃したことにより腹を立ててるらしく、そこら中を破壊して探す。もはや探すというより炙り出すに近い。
 「もう近くに」
 無意識に出た言葉。怖くて、というよりアサギに報告したかった。自分では何もできず、今の頼りは隣の少年のみ。
 「まぁ、だろうな。簡易てきなテレポートだし、何より相手は盗賊。探知ロケーションの一つや二つぐらい使えんだろ」
 見つかるのは時間の問題だという。近づく音と声。アサギの言う通りになるのは確実。
 ならば逃げる一択。ただ兼拍には逃げ切る自信がなかった。一人で箒に乗ってすら逃げられなかった。戦うなどもっての他。
 どうするかアサギに任せた。
 「よし、逃げるか」
 「…………」
 任せるのが不安になるほど捻りの無い答え。
 「箒には乗れるな?」
 その答えはyesだが、正直逃げ切れると言われるとnoになる。先ほどもそれで捕まってしまったのだ。
 「よし、なら急げ」
 いつの間に取り返したのか、兼拍の箒を持っていたアサギ。兼拍の箒は捕まると同時に奪われどこに行ったかわからなくなっていたのでありがたい、そんな事を思いながら受けとる。
 段々と大きくなる音と声。もうすぐそこ。
 考えても仕方ないのでアサギの指示に従う。
 
 風を切り突き進むこと数分。盗賊たちはいまだに追ってきている。が、兼拍を追っていた時と同じように一定の距離を保っていた。
 「えっと…御影さん?これでほんとに逃げ切れるとは思えませんが……」
 「アサギでいいよ。言いたいことは分かるけど大丈夫だよ」
 何を根拠に言ってるかはわからないがどこか安心感のある言葉使いだった。
 しかし現状は変わらない。人数では圧倒的不利だし、地形戦では敵う相手ではない。
 (………………)
 兼拍は箒、アサギは上手い具合に木の枝、幹を利用し箒のスピードについてきていた。
 「そう言えばさっきの質問の答え聞いてなかったな」
 「えっと……それは魔法は何を使えるか、でしたっけ?」
 「おう。それだけで色々変わってくる」
 アサギは時折後ろを確認し、距離を調整していた。どうやらまだ盗賊たちは追い回し続けるようだ。
 兼拍その事に少し安堵しつつも気分を落とした。
 「私も戦うべきですが……その……魔法を上手く使えなくて…………」
 申し訳なさそうにうつむく。
 「使えねー?どうゆうこった?」
 基本的に魔法は誰でも使え、特殊な環境や状況によって使えなくなるがそれを除き普通はあり得ない。
 つまりは、
 「私が使うと、魔力が大きすぎてコントロール出来ないんです」
 「なるほどな、まぁいいや」
 対して気なしてないようで。
 「………」
 しかしここでアサギの表情が変わる。後ろから追いかける盗賊たちがスピードを上げた。
 「来るぞ」
 「少しスピードあげますか?」
 箒は上手く使えるらしく本当によくわからないやつだな、と思いながら動き出す。
 「いや、逆だ。追っかけて来る奴らを蹴散らすぞ」
 「!?」
 思ってもいなかった言葉が帰ってきたことに戸惑いを隠せない。
 しかしアサギは言葉の通り今まで来た方向に向き直した。
 兼拍も指示を聞いてから止まってはいるもののあまりそうする気にはなれず、アサギを怪訝な顔で見つめる。さすがにこの発想は無茶苦茶過ぎると。
 「あいつらがスピードを上げたって事はもう奴らは先回りさせている。どんなに俺らがスピードを上げたところでさっきの状況を繰り返す事になる」
 先回り、つまり兼拍が捕まった時と同じ手ということ。
 アサギによる盗賊たちの作戦を次々に当てる。
 「二手に別れるってのもあるがほぼ完璧にお前の方に盗賊たちは行くだろうな」
 ちらっと兼拍を確認し、走り出すアサギ。置いてかれ、自分だけが捕まる未来が何もしなくても見ることが出来る。
 そう悟った瞬間にはもう箒に命令を下していた。方向転換し、アサギについていけ、と。
 「っつてもまぁ俺は物盗られてるし逃げられないんだけどな。だからお前の方に行くしお前が捕まれば人質にされ俺も捕まり物は取り返す事は不可ってなると。ま、泥沼だな」
 つまり、最悪。
 まさかここまでの事まで考え、かつその実行力は並みではないと兼拍は理解した。
 恐らく、この人がいなければ今の段階では逃げることは不可能と。そう本能が告げる。
 「んで、こっちに向かう理由だが………」
 そんなのは今の状況を見ればわかった。
 追ってきていた盗賊たちの人数は最初よりかなり減っていた。何故か、それは、
 「先回りに人員を裂いたから、だろうな」
 その通りになっていた。
 極わずかな人数しかおらずこの人数なら強引に突破しても捕まる恐れは無いだろう。そう確信できるほど少ない。
 「な、何でこいつらこっちに来てんだよ」
 予想外のことに躊躇っている盗賊たち。
 「………これも計算内ですか?」
 これもその内だったとするとかなり怖いと感じた兼拍。
 アサギはヘラッと笑うだけで答えない。
 「く、くそっ。こうなったら………」
 各々武器を取り出し戦闘体制になるも動揺からか動きが単調かつ、バラバラ。そんな動きでは箒に乗った兼拍は捕らえられず、またアサギには完全に反撃をくらい延びている。
 「馬鹿だな。人数がいてその連携こそがお前らの強味だろ。この人数なら無駄だろ」
 所詮金目当てのみが一致した烏合の衆だろ、と鼻で笑って見せるアサギ。
 勿論その通り、二人を止めるまして足止め出来る者などいなかった。
 「突破、ですね」
 「……………ああ」
 反応が遅れるアサギ。今まで自信満々というより確信していたのに対し、この反応。気にならずにはいられなかった。
 「どうしたんです?何か心配ごとですか?」
 余裕ができたことにより口数が増える兼拍。心配そうに覗くがアサギはちげーよ、と続ける。
 「いやな。この作戦お前がいなきゃ出来ないからさ。ちと逃げてくれなくて助かったなーと思いまして」
 「…………………え、どゆことです?」
 静まり返る森。盗賊たちに追いかけられているとは思えないほど静か。
 「あんたがいないとあいつら逃げちゃうでしょ?」
 目的は兼拍、それとアサギの持っていたネックレス。つまりその二つがてに入ればとどまる必要はない。
 しかし最初は目標はアサギだった。人を売れば金になるから。しかし一般人、何の特徴もない人を売ったところであまりいい金にはならず行方がわからない人が出ては盗賊たちに被害が及ぶ。が、それを差し引いても兼拍は欲しかったらしいが。
 「あんたってさ。厄魔族なんでしょ?」
 「………!?」
 いきなりの切り返しに言葉が詰まる。何て言えばいいかわからなくなる。
 嫌われているから、いらないから、邪魔だから。そんな昔言われてきた言葉を思い出す。
 「しっかしあの紫帥族しすいぞくに生き残りがいるなんてのは驚きだな」
 厄魔族、その種族に入る一つの種族。紫帥族は紫の目が特徴。それでアサギはすぐにわかっていた。あとは盗賊たちの話を盗み聞きしたのが大きかった。
 「何故、何故そっちの名前を?」
 足が止まる。
 不安で、俯く。涙が出そうなのを堪えながら言う。
 「普通は私の目を見たら馬鹿にするか、忌み嫌うか、殺意を向けるか。それしかなかったですよ?あなたは何です?何故私を助けてくれたのですか?」
 助けてくれた、それはあの時、堂々と来なければ何か違ったかも知れない。自分の物を盗み返し逃げてしまえば一番楽だっただろう。その考えが浮かばないとは思えなかった。ここまでの作戦、実行力。それらを見ればすぐに誰でもわかる。
 助けてくれたことに対しての理由が知りたかった。
 「…うーん、言われても……」
 「ではないんです」
 らしくもなく大きな声を出した。相手アサギはどうでもよくても兼拍にとってはとても大事なことだった。
 「まあ、嘘かホントかは自分で判断してくれて構わないけどさ、昔お世話になった人がいてね。その人は紫帥族だっから。俺がクソガキだった頃に散々迷惑かけたしそのせめてもの恩返しかな。自己満足だけどねお前に返したところでさ、あとはまぁなんか持ったいねーなと直感的に思ったからかな」
 「それって…………」
 「まあいいや、取り敢えず止まったぶん距離稼がねーとあいつら来るぞ」
 はっ、と我に変える。先に行くアサギ。置いてかれてはならない。まずは逃げようと気になったことがあったが箒に乗り今は忘れることにした。

 
 あれからアサギの指示通りに動いた。
 盗賊たちは姿を見せない。アサギは逃げる事が上手いのか、それともまた先回りしているのか。どちらとも判別がつかない。
 しかしこれまででわかったことがあった。
 この人アサギは他の人とは違うと、そうわかった。だから信じる事にした。

 
 いつの間にか静かな森から一転。盗賊たちの足音が近づく。もう作戦、先回りなどは止めたらしく堂々とそして恐怖を煽るかのように木々を破壊しながら追ってくる。なかなかのスピード。追い付かれるのは時間の問題。
 盗賊たちは色々な箒に乗っていた。恐らく改造したものと見れる。箒の改造または改良は自転車の改造、改良と一緒と考えれば想像がつくだろう。つまり通常のものよりも速く、そして軽くすることが出来る。そのためスピードが速い。
 その中でアサギはパルクール状態。追い付かれない訳がない。もうスピードは誤魔化しきれない。
 「やれやれ、もう何もかもお構い無しかよ」
 アサギには未だ余裕がみられる。それを見てホッと少し安堵、余裕が兼拍にも出来るが実際兼拍にはいつ見捨てられてもおかしくはないという緊張感で押し潰されそうだった。
 「────ッ、──ッ」
 盗賊たちが何かを叫ぶ。兼拍には聞き取れなかったがアサギは何を叫んでいるか理解したらしい。
 「まずいな。魔法が飛んでくるぞ」
 アサギは軽々しく言ってのけるが兼拍にとっては充分過ぎるほどに恐怖だった。
 「………ッ」
 あの時言った言葉を思い出した。「私は何も出来ない」と。それがアサギにどれ程負担になっているかと想像すると申し訳なくて言葉にならない。一方アサギの脳内ではそんなことは微塵にも感たがえてはいなく、むしろ自分一人で片付ける事は決定事項だった。更に言うと作戦は決まり、無事に帰った事を想像し、「パフェ食いてーな」とか考えてたりする。それは勝ってから美味しく食べようと想像から現実に帰還し、兼拍に次の指示を出す。
 「俺を箒に乗せられるか?」
 「え、それは二人乗りってことですか?」
 「まぁ、そうだよ」
 したことも頼まれた事もない兼拍にとって迷うと言うより出来るかが謎だった。箒の長さはそこまで短くはないため出来なくは無いだろうが上手く操作出来るかといったところ。
 正直賭けになる。
 「多分、出来ます」
 これ以上の足手まといにはなりたくなかった。元々箒は得意な方なので出来ないとは言えない。
 「それは助かる」
 そう言うや否や。スタッと身軽に箒に乗って見せた。足だけで。普通は跨ぐようにして乗るか両足をどちらかに揃えて乗るか。しかししゃがみもせずに足だけでバランスを取るアサギには驚いた。
 「もう少しスピード出せる?」
 アサギは後ろを向いたまま言う。目線の先は盗賊にあった。いつ魔法が飛んで来てもいいように。
 盗賊たちは恐らくタイミングを見計らいまだ放っていないと考えられる。
 「わかりました」
 少しスピードが上がる。風が強くなり木と木の間を抜けるときにはものすごい緊張感がある。当たったら………痛いじゃ済まされない。盗賊たちにも捕まる。それだけは避けたい。
 そんな必死な思い。
 アサギは後ろだけに集中してくれている。ならそれに答えるべきだ、と。
 後ろは完全にアサギに託した。
 集中していて気付かなかったが風の音だけになっていた。盗賊はまだ後ろにいるだろう。アサギは先ほどまでは「おっと!?」「危なっ」ちょくちょくふらふらとバランスを崩していたがもうその様子は無い。
 
 誰もいないような。

 ふと、そんなことが過った。そんなことはない。自分で自分を諭す。
 迷いもなく箒に乗り、操縦を任せ後ろに集中していた。そんな信じてくれた人を疑うような人にはなりたくない。
 そう考えた。が、嫌な予感がする。後ろに存在を感じない。盗賊たちのは嫌ってほどに感じるなかでアサギのは皆無。
 「………………」
 後ろを見た。良くないとは思ったけど本能には逆らえなかった。しかし、
 「……ッ!」
 悔しい、と言うより悲しい。虚しいという感情が沸き上がった。それは沸々と煮えたぎる怒りに変わってゆく。
 アサギの姿はなかった。何処にも。上にも下にも横で走っている訳ではない。いないのだ。

 何処にも

 既に放たれていた魔法。それらはすぐそこまで迫ったていた。
 叫んでいる盗賊たち。また新たな魔法を放っているのか。アサギがいない事に気が付かないのか、後ろから鮮明に聞こえるが相変わらず内容は入ってこない。
 また裏切られたのだ。囮に使われ捨てられた。
 そんなことは嫌ってほどされてきた。「君は優しいね」と言ってくれた人に「僕のことを信じてくれ」といつも約束を守ってくれた人に、友人だと思っていた人に、裏切られてきた。
 ああ、また、
 しかし今回は仕方ないのかも知れない。相手は盗賊。やるならば命を奪う事も躊躇わないだろう。そんな相手だ。今にも逃げ出し安全を得たいだろう。
 「……………、んで、……何で。いつも」
 ポツリと呟いた。虚しく消えていく声。私ばっかりと言おうとした。しかしすぐに止めた。私だからだっ、と思い直す。
 いつまでも消えない呪い。人に裏切られ、信じてはもらえない。
 「何で………」
 いつしか涙が頬をつたっていた。それに合わさるかのように箒の推進力が無くなっていく。
 徐々に無くなっていくスピード。迫り来る魔法にはもう気にもとめなかった。
 どうでもよかった。
 もう疲れた。ここで死ぬのもいいのかも知れない。
 そんな力の抜けた感情が体にまで伝わる。
 バランスを崩し傾く体。
 自然と目を閉じた。浮遊感だけが残る。

 ………………………。
 「…………い、……おーい?」
 遠くから聞こえるように響く声。それによりうっすらと覚醒していく意識。
 「もしかして、魔法被弾したかな?いやでも外傷はないし………」
 一人ぶつぶつと呟く声。この声の主など明らかだった。
 覚醒しゆく中、とあることに気がついた。
 今は寝そべっているのか、背中から頭、足と抗力を感じる。
 そして目が覚めた。魔法に直撃し、死または重症で動けない体を想像したがそんなことはなかった。
 「お?やっとお目覚め?」
 倒れて寝ている兼拍の顔を覗きこむようにして見ていたアサギ。
 頬には未だに涙が流れていた。そんなに時間はたっていないらしい。
 「え?アサギ?なぜ………」
 戸惑いに隠せない。てっきり裏切られたのだとばかり思っていたのでアサギがいるとは思いもしなかったようだ。
 「なぜ?と言われても。お前がいきなり倒れるからさビックリした」
 ふとアサギの腕を見た。切ったのか少し血が出ている。そして自分の爪にもう既に固まった血がほんの数滴。
 どうやら受け止めるのに引っ掻いてしまったらしい。
 「あの、すみません。それと私を見捨てたはずでは?」
 「え?見捨てる?何が?」
 目を丸くするアサギ。何のことやら?と首をかしげる。魔法に当たった訳ではないことを確認すると安堵のため息をついた。
 「後ろにいなかったのでてっきり逃げたのかと。私は騙されたのかと」
 起こす体。上半身だけ起こしたアサギと目が合い、すぐに剃らした。
 「ああ、そりゃ悪いことしたな。申し訳無い」
 心当たりはあるようだが謝る気のある謝りかたではない。その事にも少しイラッとするが今はそれどころではなかった。
 「じゃあ、何故なにも言わずに……」
 行ってしまったのか。あの状況なら裏切られたのだと思っても仕方ないだろう。
 何せ、人が人だから。
 常日頃こういうことがあったに違いないと推測するアサギ。勿論その推測は正しかった。
 「あー、うんまぁ別に理由は無いけど」
 「そう、ですか………」
 どこか悲しげな表情をする兼拍。
 盗賊たちはどうしたのかという兼拍の問に対しアサギはあそこと指差す。
 指差した数十メートルあたり、盗賊たちが倒れ起き上がる気配もなく全員が還付なきまでに打ちのめされていた。
 武器は全て折られ、どれも使物にならないような状態だった。
 「さて、こんなところにいても何もないし俺はもう行くよ。じぁね。あ、出口はあっちね」
 この森を出たいと言っていたことを思いだし森の出口である方を指した。
 特に要はないともう行ってしまうアサギ。兼拍は行ってしまうのをどうしても止めたかった。
 「待ってください、傷だけでも……」
 見させてほしい、と言おうとしたがすでに遅かった。
 「ん?傷?何のこと?」
 わざとらしくもとあった傷口を見せるがその傷口は綺麗さっぱり消えていて血も跡も残ってはいなかった。
 恐らく魔法だといことと推測出来るが全くわからなかった兼拍。
 「じゃ、お気をつけて」
と、行こうとしたが阻まれた。兼拍によって。
 「待ってください」
 「何だよ」
 二度、止められた事に腹を立て始めるアサギに対しその止めた本人である兼拍は必死だった。
 「アサギもですよね?」
 「………さぁ?」
 少し動揺を見せたが真顔で知らんなぁと明後日の方を向いた。そんなのは誰でも見逃さないほど動揺の現れ。
 「何で誤魔化すんです?まぁそれはそれとして…その………」
 「嫌です」
 兼拍の頼みより先に却下する。
 アサギにとってはどんな頼みが来るかなど予想済みだ。もう逃げるかのように木と木をかき分け森へと進む。出口とは反対方向へと。
 「まだ何も言ってねーよ」
 口調が変わってしまうほどジト目。こめかみ辺りには青筋を浮かべていた。
 「取り敢えず聞いてください」
 はっと我にかえりアサギの腕にしがみつく。絶対放すもんかと表情から見てとれる。
 「おい、こら放せ。は知らんがもう頼み事は散々なんだよ。ヤダヤダ」
 放せ、放すもんかと何回か繰り返し、嫌気がさしたアサギは実力行使に出る。
 「このっ、いい加減にしろ」
 捕まれていない方の手のひらを兼拍に向けた。
 そこから現れる膨大な空気の塊。球体のような形をしているそれは透けていて歪んで見える程度のもの。ゼロ距離で放たれれば回避など追い付く訳はなく兼拍は容赦なくそれに吹っ飛ばされたとアサギから見えた。
 「あっ、やっちまった」
 しまったと思ったがそんな考えはすぐに払拭。「コイツまじか」ということが脳内に響いた。
 「………放しま、せん」
 魔法は完璧。威力は辺りどころにより致命傷にはならないが、意識を飛ばす程度の威力はある。その魔法は兼拍のみぞおち辺りに直撃。気を失うことはなくとも息がつまり少しの時間は呼吸が難しくなるはずだ。しかし、しかしだ。
 げほっげほ、と息をつまらせてはいるが目の色は死んでなく、魔法を放つ前から体制を崩していなかった。
 「お、おい。何でそこまで……」
 全くダメージが無い訳ではないがほぼ無傷の兼拍に追い討ちをかけるのは簡単だなこと。しかし追い討ちではなく出た言葉は………
 「俺に頼まなくても……良いんじゃないの?」
 必死な目からはやめる、アサギに頼むのを止めるとは思えないがアサギにはこれしか言うことが無かった。特に理由は無いが聞いてやる理由もこれもまた無い。
 「いえ、良くないんです。あなたにしかお願いする人がいないんです。私は知っての通り厄魔族。誰もまず話してはくれません」
 だから避けられ頼むことすら出来ないと、兼拍は言う。
 「ふーん、で、だから俺に?けど俺はそこまで優しくないよ?お前のこと知ってるけど聞いてやるとも思わないし、本気で断ったらどうするの?」
 スッと目を細める。それでもまだ俺に固執するのかと言われてるような気がした。
 兼拍にとって数少ないしゃべり相手となったアサギに頼めなくなればこれはもう当てのない頼み事になるだろう。
 理由がないならアサギがやるべきだと言う、思う人もいるだろう。しかしアサギはそれとは別に知りたかった。固執する理由とは別の。
 「それなら、それならば…………」
 微かに震える手。例えかたは悪いが捨てられた、と。これ以上は望めないのだとそっと掴んでいたアサギの腕を解放する。
 「…………」
 「いや、まぁ頼みくらい聞いてやるけどさ」
 「!?!?!?!?」
 とんだどんでん返しに言葉が出ない。表情も先ほどまで絶望だった顔から表現しずらい何とも言えない顔になっていた。
 「で、頼みってのは?お金の相談は無理だぜ無いから」
 「は、はぁ。違いますが、お金無いんですか?」
 「無い」
 即答。実を言うと明日どうするってレベルで無かったりする。もはや金欠だどうのこうのなど言ってる場合ではない。
 「それは可哀想ですね。頼みを聞いてくれたら貸しますよ?」
 「その頼みとは?」
 初めからこうしておけばよかったと思わせる程素直に聞いてくれるアサギ。
 あまり貧乏そうには見えないが。
 「アサギはガーディアンなのですよね?」
 「まぁ、一応な」
 
─ガーディアン─
 それはモンスターや他国の侵略など平和脅かす者たちから護る組織でこの国の至るところに支部や師団支部が配置されており日々活動している。近年では就職の的となり、職業のひとつとして話題に上がるほど。
 
 その組織に所属しているらしき二人。どうやら頼みとはその関係らしいことをアサギは悟った。何しろこれを聞かれるのは二回目。
 「その私をチームに入れてほしいんです」
 「……………」
 大まか予想通りの頼みに無言になる。あてがいないのはもう知っている。
 兼拍はそう言ったままそれっきりうつむいている。自信が無いのか、それとも答えなどわかりきっているからか。
 しばし無言が続いた。森のはが揺れる。その音だけが残った。
 それからものの数秒。兼拍にとってはかなり長く、アサギにとっては短く感じた時間。その時間経過の違いから兼拍は緊張していた。
 「誰もいねーのかよ」
 さっきの聞いたお金が無話とは別にかなり真剣な表情で話したアサギ。
 恐らくこれが最後だろう。
 「はい。誰も」
 いない。つまりやはり当てはアサギのみ。
 ガーディアンではチームが組めないと相当きつい思いをする。一人でも数十人と相手を出来る程の実力がなければついてはいけない。まさしく盗賊たちと戦ったように。兼拍では当然無理なこと。
 「…………まぁ、いいか」
 先ほどとはうってかわりすんなりと受け入れるアサギ。その言葉に少々反応に困る。
 「え、……いいんですか?」
 なんか拍子抜けだなぁ、と感じてしまうが簡単に通るならそれが一番。
 「あーまぁ、いいよ」
 「ええぇぇ、なんでそんな微妙な反応何ですか。何かあるんですか?」
 「……………………ない」
 「………………」
 ホントに微妙な反応しか見せず、また反応が遅い。そんなアサギをジト目どころか死んだ魚の目を向けていた。
 「何だよ?」
 「いえ、別に何も……………」
 静まり返る森。ジッと睨みあって何か互いの譲れない戦いを繰り広げているがそんなくだらない勝負は勝者無くして終えた。
 「うおおおおぉぉ」
 声と共に斬りかかってくるのは盗賊団の残党の一人。その後ろにはゾロゾロと仲間たちか、それぞれの武器を手に二人を睨み付ける。
 斬りかかってきた奴は難なくアサギに返り討ちにあったが、残りの盗賊たちはそれで冷静さを欠くこともなくじわりじわりと一歩一歩確実に近づいてくる。
 「まだいたんですね」
 はぁ、とため息が出る兼拍は最初の時ほど怯えは無い。アサギという存在があり、一緒に行ってくれる、チームとして仲間にしてくれたのだ。見捨てるなどないだろうと安心していた。
 「………」
 アサギにはこの残党たちはだいたい予測がついていた。
 倒したとは言え、殺してはいない奴らだ。つまりいつ起き上がってきてもおかしくはないということだ。その結果がこれなのだ。
 しかし個人差があるようでまだ寝ている奴が少々いる。
 「ちんたら話してたら、まぁこうなるわな」
 納得のご様子のアサギ。
 「兼拍、二人乗りするぞ」
 「……はい」
 最初はまた?と思っていたがすぐになるほどと納得がいく。
 「なに勘違いしてるか知らんがさっきと同じことはしないからな?」
 「!?」
 兼拍の箒に乗りながら言った。
 「流石に二度も同じ手は通じないだろ」
 その正論にばつの悪そうな顔をするが確かに自分が追っ手だと想像したら同じ手は警戒するし、引っ掛からないよう闇雲には手を出さなくなるだろうということがわかる。
 「では、どうするんです?」
 箒を操作する兼拍としてはアサギの力なしには逃げ切れることは難しい。そのことは変わらずなのでどうするか心配なところがある。
 「簡単だな、こういった大人数を相手にするときは一度に相手しないことだ」
 当たり前だけどな、と。基本であり当然だとアサギは言うが兼拍はそこまで頭が回らなかった。回転速度や柔らかさなどではなく根本的な発想の違い。そう痛感する。
 「しかし、一度に相手にしないとは言ってもあの人数ですよ?一対一の状況なんて作れるんですか?具体的にどうするんです?」
 後ろにピッタリとくっついて来る盗賊たち。同じ手を使おうというのか人数が少ない。しかし数倍の人数ではやはり相手するには相当な実力が必要になる。
 「ま、ちっと面倒だけど今から指示する方向に箒傾けて。そーすれば何とかするよ」
 今までとは違う。何とかするよ、の一言から変わる目。色とか形とか劇的な変化ではなく雰囲気と魔力。
 魔力は人の身体的、心情的に多少変化する事がある。それを察知した兼拍はアサギが本気を出す合図なのだと考える。
 「それじゃ、やってみようか」
 やってみよう。その言葉通りアサギの策略が始まった。
 
 とうとう最終決戦が始まった、何てことは無かった。
 アサギが出す指示は簡単よりかは本当に作戦の通りなのかが謎だった。というのもその指示が「ここ右に曲がって」といいそのあとすぐに「そこは左」という。
 あっちこっち曲がって来ては元の場所へ帰ってきたり二度も三度も同じ道を通ったりと兼拍には遊んでいるようにしか見えなかった。 「…………………」
 何も言わないのはアサギが真剣にこれを取り組んでいるからで、言いにくかっただけ。
 しかも当の本人は適当な木を切ったり枝を切ったり、また繰り返す。そんなことばかりしている。
 本当なら帰ってしまいたかった。逃げられないだろうけど。
 そんな考えが頭を過り、集中力が欠け始めたころ。
 「あとはこのまま真っ直ぐ進んで」
 アサギの指示が変わる。
 「え、はい」
 たるんだ感情からアサギの声により一気に緊迫した雰囲気に包まれる。
 何度も通ったところ。いや、もはや道だった。
 幾度となく通ったため獣道ならぬ人の道が出来上がっていた。しかしそれ以上に大きいのがアサギが次々に伐採、蹴散らした木々と葉っぱ。これらがあちらこちらにあり、森の原型は留めていなかった。
 そこを通過していく二人。
 ある一定の距離進んだ所で盗賊が飛び出してきた。
 「うわっ!?」
 驚き、箒を停止させそうになったがそれよりも速くアサギが動いた。
 箒から一瞬で離脱。目の前に現れた敵を瞬殺。殺してはいないがなす術なくやられる様は他に表しようがない。それほど一瞬だったのだ。
 「よし、次」
 淡々とそして鮮やかに。その様子はまるで暗殺者のようだった。
 しかしそれ以上に気になることがある兼拍。
 「よくわかりましたね?」
と、いうのはアサギが運転手の兼拍より速く、そして手前に出て当たる前に片すのは最初から知っていたから他ならない。
 「まぁ、そのためのあの木々と葉っぱだからな」
 「?」
 兼拍の頭には?しか浮かばない。何がどう繋がって、盗賊の飛び出す瞬間を把握したのか。
 アサギはその様子を見て説明を始める。
 「最初はあの倒した木々で潰れてくれるかなーって考えてたけど案の定無理だったから………あの倒した木々で行手を塞いで、視界を遮って仲間たちとはぐれさせてついでに方向感覚も失わせたって訳よ。あいつらは追うこと、自分たちがこっちを如何に嵌めるかしか考えてないから出来る作戦だな」
 はぐれるタイミング、位置そして人数、自分たちの位置も同時に計算し、それらを統合してだいたい盗賊がどこにいるかわかる。とのこと。
 盗賊たちも生き物なので動くであろうことを考えるとズレるかも知れないが誤差範囲内とアサギは続ける。
 「……………すごい」
 この言葉しか出なかった。一対一を本当に作りあげ、かつ自分たちを有利な展開に持っていってしまう。今は味方で頼もしいがいざ敵になったと考えるとゾッとする。
 「そう?けっこう仕組みは簡単だよ?」
 アサギにとってはだいぶ優しい方らしく自慢や慢心するわけでもなくただただ普通だと述べる。
 そしてまるで話の構成かのようにアサギの指示通りで盗賊が現れては瞬殺されていく。
 とうとう盗賊の姿はなくなった。全員意識を闇へと葬られそこから帰ってくる者など一人もいない。
 「やりましたか?」
 「やったね?」
 「「…………………」」
 案外沈黙の終わりを遂げた。最後は盗賊の断末魔で森の静寂さが帰ってきた。アサギも兼拍も喜ぶ事もない。互いに理由は違えども。
 「いやーー終わった終わった。さっ、帰ろうかな」
 一息、する事もなく方向転換し、帰宅するために進もうとした。
 「ちょっと待って下さい。一緒にガーディアンへ行く約束では?あとチームですよね?今日から」
 「……………………………………………」
 どうやら完全に無かったことにしようとしているアサギにガシッと兼拍の手が肩を捉える。
 「約束、破りませんよね?」
 向けられる刃物のようなジト目。
 アサギは盗賊よりも厄介な人物に目をつけられたのかもしれない。
 夢だといいなー、と心の中でさえ棒読みになるアサギ。
 それとは別に、私はこんな人を探してたのかもしれませんね。と兼拍。
 
 そして、ここからだった。アサギの人生そのものがいい方へか悪い方へか傾き始めたのは。
 また、ポンコツとのチーム結成が始まる。


 第一章 探しもの (終)
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