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5 師団への道は
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うるさい
耳に直接入る音は非常に不快だった。
ここはどこだ?
今俺はどこにいる?
辺りを見渡しても真っ暗で何も見えない。音だけが聞こえる。
なんだこれ?
何がどうなってんだ?
うっすらと徐々に開く目。暗い理由は目を閉じていたからだ。
開く目。そこに映し出すのは地獄の風景。
なんだ、これ?
見たことのある風景。燃え盛る森と村。聞こえるのは村人たちの絶叫、悲鳴。
ああ
と、ふと思い出す。
ここは地獄でありそれと共に故郷であること。そしてこの見たことある惨状。
これは俺の夢か。
そしてこれは自分の過去。過ぎ去った過去の物語だ。
過去のことは過ぎたことで断ち切ったつもりだったがこうして夢にまで見るということはまだ未練があるのかもしれないと感じる。
そんなことはどうでもいいと進む過去の夢。
そして唐突に現れるのは緊張。うるさいほどに脈拍が上がる。
確かこのあとは…………
夢だと気づいても覚めることは許されない。自由などありはしない。
勝手に動く体。
嫌だ、これ以上は行ってはならないと本能が告げる。しかし言うことは聞かない。
目の前に現れる最悪の再現。
目の前で人の手により殺される友人。一ミリも動きもせず事切れている。
怒り、恐怖、悲しみ、憎しみ。
交互に現れる感情は黒く、ぐちゃぐちゃに混ざり合い、ひとつへと変わる。
燃える炎。状況は更に悪化する。
いきなり場所が変わる。夢だからか。
この夢はいまいちよくわからない。
憎しみを忘れるな、怒りを忘れるなと心の底が言っているのか。
映し出された場所。それは………
最も最悪な状況のところだった。
「…………………………………」
あの頃はそう、何の言葉も発する事は出来なかった。この最悪としか表せない状況に。
小さい頃はよくわからなかったが体の弱かった母。自分の中では最強で尊敬、かっこ良かった父。その二人は目の前で
死んでいる。
ドス黒い何かが沸々と沸き上がる。
これに身を任せてはいけない。夢を見る俺は知っているが幼かったあの頃の俺は我慢ならなかった。
「………………っ……………っっっっ…」
声にならない。悲鳴か怒号か。
ああ、ダメだ。これ以上は………
いってはならない
「………………っ。………」
「………………サギ」
「アサギ!」
耳もとで大きな声を出され、目がはっと覚める。
ここは?
と、首をふり位置を確認する。
「大丈夫ですか?魘されていましたが?」
いつの間にか寝ていたようだ。突っ伏した自分、アサギに声をかけるのは兼拍だった。
椅子に座って寝ていたアサギを兼拍は座らずしゃがみこみ下から覗きこむようにうかがっていた。
「ん?大丈夫だよ。ちょっと昔の夢見ててさ、」
ふぁぁ~~~~、と大きなあくびをしてから答えた。そんないつも通りのアサギを見てか安心した様子の兼拍。ほっと息をつき対面の席へと腰を掛ける。
「昔の夢、ですか。トラウマか何かでも?」
やたら興味深相に聞いてくる。
こいつに躊躇というのはないのかね
と、思いながら受け流す。
「まぁそんなとこ。そっちは片付いた?」
「…………はい。二人はまだのようですね」
話題を剃らせれ少し頬を膨らませ機嫌を損ねるが自分にも似た思いがあるのでこれ以上は問い詰めるのを止める。
あの後すぐに解散。そして引っ越しの準備へと移ってもらった。集合は現在アサギと兼拍がおるフロア二階。午後一時に集合するよう言った。
現在時刻午後十二時半辺りを過ぎたころ。
今の今までする事がなかったアサギはどうやら眠ってしまったらしい。
「荷物は五時頃に届くそうなので」
手軽な宅急便に大きめの荷物はお願いし、兼拍が今持っているのはバックのみ。何が入っているのかわからないが軽装で済ませてくれたのはアサギにとっては好都合。
何せ支部までは少し距離があるので。
「アサギは第七師団の伝説のメンバーと面識はありますか?」
唐突に投げ掛けられた質問。
表情はアサギからでは帽子のつばで陰りができうかがうことは出来なかった。ただ声のトーンは冗談半分で聞いている気はしない。
「………………まぁな。そりゃ今管理人やってるし」
やや遅れて返ってきた質問への返答。動揺からか、はたまた答えたくないことか。顔が曇るアサギ。
「元メンバーであったあの人たちが死んでしまったとは思えません」
第七師団は謎の失踪を遂げ、その後全員死亡したことは多くの諸説にて解き明かされた。もうあの団は死んだ、と。それは本やネットでも同じような事で生きていることは全く記されなかった。
失踪を遂げた理由も不明。死亡理由も不明。全てが謎として扱われてきた。どの理由も謎のためいろいろな人たちが仮説を立て明白にしようと試みたがどれも筋が通らない。
ガーディアンからも「非常残念だ。」とのコメントのみ。
これでは当事者以外知るものはいない。
「あなたは管理人と言っていました。少なくとも何かご存知では?」
確かにそう考えるのは普通でむしろ知らなければ誰かによって口止めされているか、となる。
「…………さー、知らないなぁ」
ぶっきらぼうに答える。どうでも良さそうな。興味がないような素振りで。
しかし兼拍は引く気はないようで食い下がる。
「少なくとも理由くらいは…………」
「知らないなぁようわかんねぇや」
次第にめんどくさくなってきたのかどんどん雑になる口調。船漕ぎをする始末。
「はぐらかさないで下さい。真面目に聞いてるんです」
兼拍としては知りたくて知りたくて仕方ないほどに。しかし適当に返す言葉は何の心遣いもなく無神経。
「そんなこといわれてもなぁ」
「そんなことではないんです。私は知らなきゃ……………」
勢いよく席から立ちあがり柄にもなく大声で言っていた自分にはっ、とする。
徐々に小さくなる声は最終的には聞こえなくなる声まで小さくなった。
「教えて、くれませんか」
すごく困ったような顔。どちらかというと悲しいような表情、かもしれない。
「あのなぁ、お前にもあるようにこっちにも譲れないものがある」
まるであの返答が嘘のような真面目な表情のアサギに気圧されこれ以上聞くのが苦しくなる。
「これだけは言っとくぞ?第七師団の団員及びその団の検索、模索は禁止する。これが俺に言い渡された団員の言葉だ。誰にも言うなよ?」
兼拍の目をじっと見つめこれでもかと言うほどに伝える。
「……………はい」
諦めた、観念したかのようにショボくれる。どんな理由であろうとアサギはそれを言うつもりはないと。そう伝えた。
嫌でも伝わった兼拍はこれ以上聞くとせっかく得た、仲間となってくれた人に恩を仇で返すとはまさにこの事。
「あの、ではひとつだけいいですか」
「………………」
兼拍これが最後だと言うがアサギはうんともダメとも言わない。そのことすら答えられないのかもしれない。
しかし兼拍は聞きたいのは師団のことではなかった。
「アサギが管理人にたなったのはなぜですか?」
師団ではなくアサギ。こなことなら恐らく大丈夫だろうと、そう考えた。
「………ただの暇潰し。あとは面識があったからだよ。それ以外の理由はない」
これだけははっきりとさせておきたかった。これ以上兼拍に迫られるのは面倒なので。
「そうですか。わかりました」
本当は理由など特になかった。兼拍言ったことは間違いではなく事実だがアサギがやる理由には直結しない。
いろいろと兼拍に対し悪い気持ちになるがどうしようもない。
「さて、あの二人も来たぞ」
アサギの言う通り後ろから二人が来ていた。二人もやはり軽装で、手荷物のみ。
「お待たせしました!」
「お待たせ。何かあった?」
兼拍とアサギの雰囲気から何かを悟る。茅世弥はいろいろと勘がいい。
アサギはちょっと警戒するが、まぁいいやといつものアサギ。
「別に。ただの雑談さ。……よし、揃ったなら行くぞ。時間がなくなるからな」
アサギの言う通りについていく。
ガーディアンから出て都会の道並みを歩く。車が頻繁に出入りしまたビルやマンション、大型ショッピングモールもあり非常に賑わうここの都市。
「他の支部や師団は各地域、都市に散っていてどこの支部も街中にあるのが普通だ。それに比べて第七師団の支部は少し異端な場所にあるから道覚えてね」
覚えなくとも入る方法ならいくつかあるが通常から入るのが一番楽で速い。
そこまで難しくはないので大丈夫だろうとアサギは案内を続ける。
あるところで木が生い茂る所まできた。ものの歩いて数分と所だ。
「この辺りですか?」
「一応な」
あるところに階段がある。それは古く苔むしていてひび割れやツタが蔓延りもはや使われているのか怪しいくらいのものだった。
「神社?」
上へあがる階段の造りとその模様から宮越が思い付いたかのようにポツリと呟いた。
「そうだよ。けど正確には神社の跡地って感じだけどね」
その階段を登って行くアサギ。それに続く三人はこんなところにあるとは到底思えなかった。
第七師団は誰も見つける事が出来なかった支部にいたと言われているがあっさり見つかってしまいそうなところで期待外れ、という表情になるのは仕方ないのかもしれない。
途中階段の踊場に出た。
まだまだ上が続いていることに三人は深くため息をついた。
「何してんだ?先行くぞ?」
踊場から階段へ、は行かずその踊場から横に。獣道へと入っていった。
これには驚きの三人。疲れも吹き飛びそうな勢いで驚く。
「ここから後少しだ。頑張れ」
獣道は細く草木が某々のところを掻き分けて進む。
しかし数秒。ものの数秒歩いたときだ。とある変化が現れる。
小さな祠、が現れた。
こちらも階段と同じような酷い状態だった。何か封印でもされていそうな扉。全て石性の祠の雰囲気は危なさを伝える。
「これ、大丈夫なの?」
嫌な予感しかしなかった茅世弥。
「大丈夫だよ。お前らのことはもう登録したから。手、翳してみ」
登録?なんのことやらとアサギに言われた通り手を祠へと向ける。
それと同時に突如現れる魔法陣。そして光だす。
「!?」
これが入り口と気がついたのは着いてからだった。
光に包まれそれがおさまり目を開くとそこは草原だった。草原の周りには何かを守るかのようにして樹海が広がっていた。
草原に丘があり土の道が続いていた。そしてその先にある建物。それこそが、
「ようこそ、第七師団支部へ」
後ろからアサギが追い付いてきた。
「本当に来たんですね」
「うわぁ、すごい」
「そうね、何か綺麗」
三人にはそれぞれ何か引かれるものを感じたようだ。
建物の形はいびつで少し古い気もしたがまたそれが味となり三人に移る幻想的なものを産み出していた。
「さぁ入るぞ。やることがあるんだ」
見蕩れる三人を残しさっさと丘を登って行く。
ついていく三人の足取りは速い。
「ただいま」
鍵のかかっていないドアを開く。アサギに続いて三人も入る。
複雑な形をしていた外見。そのため中も迷路のような構造を想像していたが玄関に廊下と普通と変わらない内装になっていた。
「お邪魔します」
そのうち我が家のような感覚になるだろうが初めて入る瞬間だ。
「取り敢えずこっち」
案内されたのは手前の扉、の次の部屋。
外見とは裏腹に内装はとても古いとは思えない綺麗さだった。
アサギに案内されたのはとある一室。テーブルにホワイトボード、三面モニターなど会議室のようなところ。
「ここは作戦室。そこのルームはガーディアンにあるやつと一緒だから自由に使っていいから。」
ガーディアンにあるものと似たもの。仮想戦闘するところというわけだ。
「さて、座ってくれ」
ボードの前におかれたテーブル。それぞれ席についた。
「えーと、どうせ荷物くるまで暇だろうから聞きたいんだけどいい?」
個人にではなく三人に対してだった。無言で首肯く三人。
「そーだなー。まずガーディアンでの目的は?後はなんでチームに?」
質問は単純だった。
静かな時間が流れる。
町外れだからか気温だ多少低く、肌寒い。そう感じさせる間だった。
そんな中、初めに話したのは茅世弥だ。
「まず、私がガーディアンに入った理由だけど親に負担をかけたくなくてお金を稼ぐつもりで入ったわ。魔力量は優秀な方だったから入れたけど上手く魔法を使うこともできないわたしはかえって親に負担を掛けさせてしまって、だからメンバーを探したの」
「なるほど、で次は?」
ちゃんと聞いているのか聞いていないのかわからないような返答をするアサギ。
続いて宮越。
「私はその、理由は特に無くて。あ、でも回復の魔法だけは使えるから役にたちたいなぁと思ってたけど、ただ魔力が多いだけで入った私では何も出来なかったけどね」
「ふーん、最後兼拍は?」
その似たような境遇からか友達になった二人はその後もチームとして置いてくれる人を探して回ったらしい。
最後は兼拍。
「私は小さい頃にある人にここに置いていかれました。その人は私の恩人でその人みたくなりたくて強くなりたいって思いました。二人と同じように魔力が異常に高くそれだけでここにいます。その恩人が第七師団の団長で、置いていった人です。私はその人を探しています」
「へー………、皆いろいろあるんだな」
いつも間にか頬杖をつきながら聞いていたアサギ。
「でも、皆強くなりたいのは一緒だろ?」
唐突に変わるアサギの雰囲気。
肌寒いと感じていた感覚が急にブルッと悪寒が走るほど寒く感じる。
その感覚は三人一緒に感じた。この緊張感に三人とも黙って首肯くことしか出来なかった。
「よし、そんじゃあまず手始めに魔法の超土基礎を教えてやるよ」
そう言いながら立ち上がる。
持ってきたのはすぐ近くにあったホワイトボード。移動式のタイプだ。
「えっと待って下さい」
イキイキと用意するアサギに待ったをしたのは兼拍。
「土基礎というのは魔法のあれやこれやですよね?それぐらいなら熟知しています」
この言葉がいけなかった。そのことはすぐに三人とも理解する。
「ほう?熟知ねぇ。なら魔法の発動条件、理由当は知っていると?それを仮定して質問だ兼拍。
・魔法において一番重要なのは?ただし使用する上において
・魔法には三つ種類がある。その種類は?
ちなみにこの二つは知ってて当然だよな、回答時間は十秒、はいスタート」
ホワイトボードのペンをくるくると回しながら二つの問を出した。
「えっと……………」
不意を突かれ、急いで考え始めた兼拍。その様子を見た二人も同じく考え始める。
一番先に答えが出たのは兼拍だった。
「重要なのは魔力です。二つ目は………」
二つ目で止まってしまった。属性なら兎も角種類とは何なのか想像もつかなかった。
二人も兼拍以上の答えは見つからずそのままタイムアウトとなった。
「やれやれ。簡単にしてやったのに。まぁそりゃそうだよな。自分の魔法すらロクに操れないもんな」
挑発気味に三人を見下ろす。しかしこれは事実だった。
「重要なのは魔力、ではなく想像力だ。つまりイメージだよ」
「「「イメージ?」」」
三人ともブレのないハモり。そして三人の顔には?マークが浮かんでいた。
魔法において必要なのは勿論魔力。魔法は使用するとき魔力を消費して発動する。が、その前に大切なのはイメージ。これがままならないと魔法の発動に苦労したり違ったりと定まらず結果上手くいかなくなる。
その事を説明すると三人はうっ、とどこか刺されたような表情になりアサギに返す言葉も失った。
「んで、次は答えられもしなかった訳だが種類ってのは大きく分けて三つ、文字、詠唱、図の三つだ」
これには三人ピンとこないようで疑問どころか意味すら理解していなかった。
「いいか、文字ってのは〈魔法式〉、詠唱がその魔法を唱える〈言葉〉、図が〈魔法陣〉を表しているんだよ。どれも特徴が違う」
魔法式
魔法を文字や数字など特定の魔法を表すものでそれ事態がひとつの魔法を表す。
言葉
詠唱を唱えることでその魔法を表す。魔法式を読むことでこれが成立する。短縮や独自に変化させたものもいる。
魔法陣
魔法式や詠唱を陣で表したもの。追加で発動条件により発動する。ひとつひとつに違いがありこれも独自に変化したものがある。
これらのことをホワイトボードへ書き出したアサギ。それを見た三人は言われてみれば、と思い出す。
「どんどん行くぞ?荷物が届くまではどうせ暇だろうしな。お前らが学ぶことは多いぞ」
ここからアサギの授業というのが始まる。そのきっかけとなった。
いつの間にか三人も興味を持ち出すことにならだろうがそれはまだ少し先の話。
耳に直接入る音は非常に不快だった。
ここはどこだ?
今俺はどこにいる?
辺りを見渡しても真っ暗で何も見えない。音だけが聞こえる。
なんだこれ?
何がどうなってんだ?
うっすらと徐々に開く目。暗い理由は目を閉じていたからだ。
開く目。そこに映し出すのは地獄の風景。
なんだ、これ?
見たことのある風景。燃え盛る森と村。聞こえるのは村人たちの絶叫、悲鳴。
ああ
と、ふと思い出す。
ここは地獄でありそれと共に故郷であること。そしてこの見たことある惨状。
これは俺の夢か。
そしてこれは自分の過去。過ぎ去った過去の物語だ。
過去のことは過ぎたことで断ち切ったつもりだったがこうして夢にまで見るということはまだ未練があるのかもしれないと感じる。
そんなことはどうでもいいと進む過去の夢。
そして唐突に現れるのは緊張。うるさいほどに脈拍が上がる。
確かこのあとは…………
夢だと気づいても覚めることは許されない。自由などありはしない。
勝手に動く体。
嫌だ、これ以上は行ってはならないと本能が告げる。しかし言うことは聞かない。
目の前に現れる最悪の再現。
目の前で人の手により殺される友人。一ミリも動きもせず事切れている。
怒り、恐怖、悲しみ、憎しみ。
交互に現れる感情は黒く、ぐちゃぐちゃに混ざり合い、ひとつへと変わる。
燃える炎。状況は更に悪化する。
いきなり場所が変わる。夢だからか。
この夢はいまいちよくわからない。
憎しみを忘れるな、怒りを忘れるなと心の底が言っているのか。
映し出された場所。それは………
最も最悪な状況のところだった。
「…………………………………」
あの頃はそう、何の言葉も発する事は出来なかった。この最悪としか表せない状況に。
小さい頃はよくわからなかったが体の弱かった母。自分の中では最強で尊敬、かっこ良かった父。その二人は目の前で
死んでいる。
ドス黒い何かが沸々と沸き上がる。
これに身を任せてはいけない。夢を見る俺は知っているが幼かったあの頃の俺は我慢ならなかった。
「………………っ……………っっっっ…」
声にならない。悲鳴か怒号か。
ああ、ダメだ。これ以上は………
いってはならない
「………………っ。………」
「………………サギ」
「アサギ!」
耳もとで大きな声を出され、目がはっと覚める。
ここは?
と、首をふり位置を確認する。
「大丈夫ですか?魘されていましたが?」
いつの間にか寝ていたようだ。突っ伏した自分、アサギに声をかけるのは兼拍だった。
椅子に座って寝ていたアサギを兼拍は座らずしゃがみこみ下から覗きこむようにうかがっていた。
「ん?大丈夫だよ。ちょっと昔の夢見ててさ、」
ふぁぁ~~~~、と大きなあくびをしてから答えた。そんないつも通りのアサギを見てか安心した様子の兼拍。ほっと息をつき対面の席へと腰を掛ける。
「昔の夢、ですか。トラウマか何かでも?」
やたら興味深相に聞いてくる。
こいつに躊躇というのはないのかね
と、思いながら受け流す。
「まぁそんなとこ。そっちは片付いた?」
「…………はい。二人はまだのようですね」
話題を剃らせれ少し頬を膨らませ機嫌を損ねるが自分にも似た思いがあるのでこれ以上は問い詰めるのを止める。
あの後すぐに解散。そして引っ越しの準備へと移ってもらった。集合は現在アサギと兼拍がおるフロア二階。午後一時に集合するよう言った。
現在時刻午後十二時半辺りを過ぎたころ。
今の今までする事がなかったアサギはどうやら眠ってしまったらしい。
「荷物は五時頃に届くそうなので」
手軽な宅急便に大きめの荷物はお願いし、兼拍が今持っているのはバックのみ。何が入っているのかわからないが軽装で済ませてくれたのはアサギにとっては好都合。
何せ支部までは少し距離があるので。
「アサギは第七師団の伝説のメンバーと面識はありますか?」
唐突に投げ掛けられた質問。
表情はアサギからでは帽子のつばで陰りができうかがうことは出来なかった。ただ声のトーンは冗談半分で聞いている気はしない。
「………………まぁな。そりゃ今管理人やってるし」
やや遅れて返ってきた質問への返答。動揺からか、はたまた答えたくないことか。顔が曇るアサギ。
「元メンバーであったあの人たちが死んでしまったとは思えません」
第七師団は謎の失踪を遂げ、その後全員死亡したことは多くの諸説にて解き明かされた。もうあの団は死んだ、と。それは本やネットでも同じような事で生きていることは全く記されなかった。
失踪を遂げた理由も不明。死亡理由も不明。全てが謎として扱われてきた。どの理由も謎のためいろいろな人たちが仮説を立て明白にしようと試みたがどれも筋が通らない。
ガーディアンからも「非常残念だ。」とのコメントのみ。
これでは当事者以外知るものはいない。
「あなたは管理人と言っていました。少なくとも何かご存知では?」
確かにそう考えるのは普通でむしろ知らなければ誰かによって口止めされているか、となる。
「…………さー、知らないなぁ」
ぶっきらぼうに答える。どうでも良さそうな。興味がないような素振りで。
しかし兼拍は引く気はないようで食い下がる。
「少なくとも理由くらいは…………」
「知らないなぁようわかんねぇや」
次第にめんどくさくなってきたのかどんどん雑になる口調。船漕ぎをする始末。
「はぐらかさないで下さい。真面目に聞いてるんです」
兼拍としては知りたくて知りたくて仕方ないほどに。しかし適当に返す言葉は何の心遣いもなく無神経。
「そんなこといわれてもなぁ」
「そんなことではないんです。私は知らなきゃ……………」
勢いよく席から立ちあがり柄にもなく大声で言っていた自分にはっ、とする。
徐々に小さくなる声は最終的には聞こえなくなる声まで小さくなった。
「教えて、くれませんか」
すごく困ったような顔。どちらかというと悲しいような表情、かもしれない。
「あのなぁ、お前にもあるようにこっちにも譲れないものがある」
まるであの返答が嘘のような真面目な表情のアサギに気圧されこれ以上聞くのが苦しくなる。
「これだけは言っとくぞ?第七師団の団員及びその団の検索、模索は禁止する。これが俺に言い渡された団員の言葉だ。誰にも言うなよ?」
兼拍の目をじっと見つめこれでもかと言うほどに伝える。
「……………はい」
諦めた、観念したかのようにショボくれる。どんな理由であろうとアサギはそれを言うつもりはないと。そう伝えた。
嫌でも伝わった兼拍はこれ以上聞くとせっかく得た、仲間となってくれた人に恩を仇で返すとはまさにこの事。
「あの、ではひとつだけいいですか」
「………………」
兼拍これが最後だと言うがアサギはうんともダメとも言わない。そのことすら答えられないのかもしれない。
しかし兼拍は聞きたいのは師団のことではなかった。
「アサギが管理人にたなったのはなぜですか?」
師団ではなくアサギ。こなことなら恐らく大丈夫だろうと、そう考えた。
「………ただの暇潰し。あとは面識があったからだよ。それ以外の理由はない」
これだけははっきりとさせておきたかった。これ以上兼拍に迫られるのは面倒なので。
「そうですか。わかりました」
本当は理由など特になかった。兼拍言ったことは間違いではなく事実だがアサギがやる理由には直結しない。
いろいろと兼拍に対し悪い気持ちになるがどうしようもない。
「さて、あの二人も来たぞ」
アサギの言う通り後ろから二人が来ていた。二人もやはり軽装で、手荷物のみ。
「お待たせしました!」
「お待たせ。何かあった?」
兼拍とアサギの雰囲気から何かを悟る。茅世弥はいろいろと勘がいい。
アサギはちょっと警戒するが、まぁいいやといつものアサギ。
「別に。ただの雑談さ。……よし、揃ったなら行くぞ。時間がなくなるからな」
アサギの言う通りについていく。
ガーディアンから出て都会の道並みを歩く。車が頻繁に出入りしまたビルやマンション、大型ショッピングモールもあり非常に賑わうここの都市。
「他の支部や師団は各地域、都市に散っていてどこの支部も街中にあるのが普通だ。それに比べて第七師団の支部は少し異端な場所にあるから道覚えてね」
覚えなくとも入る方法ならいくつかあるが通常から入るのが一番楽で速い。
そこまで難しくはないので大丈夫だろうとアサギは案内を続ける。
あるところで木が生い茂る所まできた。ものの歩いて数分と所だ。
「この辺りですか?」
「一応な」
あるところに階段がある。それは古く苔むしていてひび割れやツタが蔓延りもはや使われているのか怪しいくらいのものだった。
「神社?」
上へあがる階段の造りとその模様から宮越が思い付いたかのようにポツリと呟いた。
「そうだよ。けど正確には神社の跡地って感じだけどね」
その階段を登って行くアサギ。それに続く三人はこんなところにあるとは到底思えなかった。
第七師団は誰も見つける事が出来なかった支部にいたと言われているがあっさり見つかってしまいそうなところで期待外れ、という表情になるのは仕方ないのかもしれない。
途中階段の踊場に出た。
まだまだ上が続いていることに三人は深くため息をついた。
「何してんだ?先行くぞ?」
踊場から階段へ、は行かずその踊場から横に。獣道へと入っていった。
これには驚きの三人。疲れも吹き飛びそうな勢いで驚く。
「ここから後少しだ。頑張れ」
獣道は細く草木が某々のところを掻き分けて進む。
しかし数秒。ものの数秒歩いたときだ。とある変化が現れる。
小さな祠、が現れた。
こちらも階段と同じような酷い状態だった。何か封印でもされていそうな扉。全て石性の祠の雰囲気は危なさを伝える。
「これ、大丈夫なの?」
嫌な予感しかしなかった茅世弥。
「大丈夫だよ。お前らのことはもう登録したから。手、翳してみ」
登録?なんのことやらとアサギに言われた通り手を祠へと向ける。
それと同時に突如現れる魔法陣。そして光だす。
「!?」
これが入り口と気がついたのは着いてからだった。
光に包まれそれがおさまり目を開くとそこは草原だった。草原の周りには何かを守るかのようにして樹海が広がっていた。
草原に丘があり土の道が続いていた。そしてその先にある建物。それこそが、
「ようこそ、第七師団支部へ」
後ろからアサギが追い付いてきた。
「本当に来たんですね」
「うわぁ、すごい」
「そうね、何か綺麗」
三人にはそれぞれ何か引かれるものを感じたようだ。
建物の形はいびつで少し古い気もしたがまたそれが味となり三人に移る幻想的なものを産み出していた。
「さぁ入るぞ。やることがあるんだ」
見蕩れる三人を残しさっさと丘を登って行く。
ついていく三人の足取りは速い。
「ただいま」
鍵のかかっていないドアを開く。アサギに続いて三人も入る。
複雑な形をしていた外見。そのため中も迷路のような構造を想像していたが玄関に廊下と普通と変わらない内装になっていた。
「お邪魔します」
そのうち我が家のような感覚になるだろうが初めて入る瞬間だ。
「取り敢えずこっち」
案内されたのは手前の扉、の次の部屋。
外見とは裏腹に内装はとても古いとは思えない綺麗さだった。
アサギに案内されたのはとある一室。テーブルにホワイトボード、三面モニターなど会議室のようなところ。
「ここは作戦室。そこのルームはガーディアンにあるやつと一緒だから自由に使っていいから。」
ガーディアンにあるものと似たもの。仮想戦闘するところというわけだ。
「さて、座ってくれ」
ボードの前におかれたテーブル。それぞれ席についた。
「えーと、どうせ荷物くるまで暇だろうから聞きたいんだけどいい?」
個人にではなく三人に対してだった。無言で首肯く三人。
「そーだなー。まずガーディアンでの目的は?後はなんでチームに?」
質問は単純だった。
静かな時間が流れる。
町外れだからか気温だ多少低く、肌寒い。そう感じさせる間だった。
そんな中、初めに話したのは茅世弥だ。
「まず、私がガーディアンに入った理由だけど親に負担をかけたくなくてお金を稼ぐつもりで入ったわ。魔力量は優秀な方だったから入れたけど上手く魔法を使うこともできないわたしはかえって親に負担を掛けさせてしまって、だからメンバーを探したの」
「なるほど、で次は?」
ちゃんと聞いているのか聞いていないのかわからないような返答をするアサギ。
続いて宮越。
「私はその、理由は特に無くて。あ、でも回復の魔法だけは使えるから役にたちたいなぁと思ってたけど、ただ魔力が多いだけで入った私では何も出来なかったけどね」
「ふーん、最後兼拍は?」
その似たような境遇からか友達になった二人はその後もチームとして置いてくれる人を探して回ったらしい。
最後は兼拍。
「私は小さい頃にある人にここに置いていかれました。その人は私の恩人でその人みたくなりたくて強くなりたいって思いました。二人と同じように魔力が異常に高くそれだけでここにいます。その恩人が第七師団の団長で、置いていった人です。私はその人を探しています」
「へー………、皆いろいろあるんだな」
いつも間にか頬杖をつきながら聞いていたアサギ。
「でも、皆強くなりたいのは一緒だろ?」
唐突に変わるアサギの雰囲気。
肌寒いと感じていた感覚が急にブルッと悪寒が走るほど寒く感じる。
その感覚は三人一緒に感じた。この緊張感に三人とも黙って首肯くことしか出来なかった。
「よし、そんじゃあまず手始めに魔法の超土基礎を教えてやるよ」
そう言いながら立ち上がる。
持ってきたのはすぐ近くにあったホワイトボード。移動式のタイプだ。
「えっと待って下さい」
イキイキと用意するアサギに待ったをしたのは兼拍。
「土基礎というのは魔法のあれやこれやですよね?それぐらいなら熟知しています」
この言葉がいけなかった。そのことはすぐに三人とも理解する。
「ほう?熟知ねぇ。なら魔法の発動条件、理由当は知っていると?それを仮定して質問だ兼拍。
・魔法において一番重要なのは?ただし使用する上において
・魔法には三つ種類がある。その種類は?
ちなみにこの二つは知ってて当然だよな、回答時間は十秒、はいスタート」
ホワイトボードのペンをくるくると回しながら二つの問を出した。
「えっと……………」
不意を突かれ、急いで考え始めた兼拍。その様子を見た二人も同じく考え始める。
一番先に答えが出たのは兼拍だった。
「重要なのは魔力です。二つ目は………」
二つ目で止まってしまった。属性なら兎も角種類とは何なのか想像もつかなかった。
二人も兼拍以上の答えは見つからずそのままタイムアウトとなった。
「やれやれ。簡単にしてやったのに。まぁそりゃそうだよな。自分の魔法すらロクに操れないもんな」
挑発気味に三人を見下ろす。しかしこれは事実だった。
「重要なのは魔力、ではなく想像力だ。つまりイメージだよ」
「「「イメージ?」」」
三人ともブレのないハモり。そして三人の顔には?マークが浮かんでいた。
魔法において必要なのは勿論魔力。魔法は使用するとき魔力を消費して発動する。が、その前に大切なのはイメージ。これがままならないと魔法の発動に苦労したり違ったりと定まらず結果上手くいかなくなる。
その事を説明すると三人はうっ、とどこか刺されたような表情になりアサギに返す言葉も失った。
「んで、次は答えられもしなかった訳だが種類ってのは大きく分けて三つ、文字、詠唱、図の三つだ」
これには三人ピンとこないようで疑問どころか意味すら理解していなかった。
「いいか、文字ってのは〈魔法式〉、詠唱がその魔法を唱える〈言葉〉、図が〈魔法陣〉を表しているんだよ。どれも特徴が違う」
魔法式
魔法を文字や数字など特定の魔法を表すものでそれ事態がひとつの魔法を表す。
言葉
詠唱を唱えることでその魔法を表す。魔法式を読むことでこれが成立する。短縮や独自に変化させたものもいる。
魔法陣
魔法式や詠唱を陣で表したもの。追加で発動条件により発動する。ひとつひとつに違いがありこれも独自に変化したものがある。
これらのことをホワイトボードへ書き出したアサギ。それを見た三人は言われてみれば、と思い出す。
「どんどん行くぞ?荷物が届くまではどうせ暇だろうしな。お前らが学ぶことは多いぞ」
ここからアサギの授業というのが始まる。そのきっかけとなった。
いつの間にか三人も興味を持ち出すことにならだろうがそれはまだ少し先の話。
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追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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