ポンコツ能力は使いよう!?~戦術で最強を凌駕する~

シロクロ

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4 これからとそれから

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 すっかり夕方になっていた。空は赤く染まり街は街灯と部屋から漏れる光で薄暗く照らされていた。

 「今日のところは解散にするか」
 アサギの提案に兼拍、宮越、茅世弥の三人も同意する。
 「そういえば、いつの間に私たちを仲間として迎え入れてくれたのかしら?」
 ふと、思ったのだろう。ずっと拒んでいたアサギがすんなり受け入れる訳はない。そう考えた茅世弥。
 その言葉に宮越も確かに、とアサギの方を見る。
 「アサギ、あの言葉に嘘はないですよね?」
 最後に兼拍からのダメ押し。
 ここまできては先ほどがなかったことには出来ない。アサギもするつもりはないが。
 
 あの後、しっかりあの二人には頭を下げてもらいこれ以降この三人に関わるなと言って承知した二人は逃げるかのように去っていった。
 それに続き、楠原も用事があるらしく「アサギ頑張れよ」と喧嘩を最後の最後で売って逃げられる。
 周りからは視線と歓声がすごくなり始めそれは徐々に大事となりこれに参った四人もその場から逃げるように出てきたのだ。
 
 「………認めたってか、認めざるを得なかったンだけだが?」
 嫌みのように兼拍を見ながら言った。
 目をそらす兼拍は拗ねていたが同時に嬉しそうでもあった。
 「まぁ、ともあれ明日からよろしくな」
 改めて、と付け足しながら。
 「こちらこそ」
 「これからよろしく」
 この三人にとっては初めてチームとしての仲間になった。
 誰からも相手にされず、勝つ術を知らず何もわからないまま生きていたが、あの戦いでアサギの凄さを実感して充分自身に繋がった。
 「さて、さっきも言ったが今日は解散にしよう。明日の9時にガーディアン、今日会った席で待ち合わせよう」
 時刻的には五時辺りだろう。
 年齢的には高校生だが慣れないことでわかならい疲れがあるだろうとふんだ。そのため今日のところは解散。ということ。
 これ以上いても意味がないというのも解散の理由にもなったりするが誰も断る者などおらず明日ということになった。
 「……………」
 「……………」
 二人はそれぞれの宿と家庭があるらしく先に帰っていった。残されたのはアサギと兼拍。
 「お前帰らんの?」
 「ガーディアンで部屋を借りてるので」
 つまりもう着いたも同然ということだ。後はアサギが帰宅するのみ。
 「そういえばさ、貰ったポテトどうした?」
 「おいしくいただきました。お腹減ったんですか?」
 さっき蕎麦を食べていたような、と思い出しながらもアサギが活躍していたことを考えると道理かもしれないと一人納得。
 「いや、ちげーけど………まぁいいや、じぁな。」
 何がしたかったのか訳もわからないがアサギが帰ってしまったので兼拍も自分の寮へと戻っていった。

 帰路についたアサギ。
 アサギが帰る場所は家として使っているガーディアン専用支部でアサギはそこの管理人だった。そのためガーディアンからは少し距離があるためやや時間がかかる。
 アサギの場合はちゃんと道は通らないのですぐに着いてしまうが。
 春頃の夕方は一気に気温が下がり風が冷たくなる。
 その風が直撃し、実感する。
 いつもはその支部に引きこもり外の風を浴びたのはえらく久しぶりだったので冷たい風でも気持ち良かった。
 その引きこもっていた支部が見え始める。
 ガーディアンからは魔法のワープゲートのようなもので直通だが、少しは歩かなければいかないので、
 ワープゲートの場所変えてもらおうか、などと考えながら帰る。
 支部と言えど待っている仲間はいない。あの三人と違い、アサギは組もうと思えば誰とでも組めるだろうがアサギ本人が組む気になれなかったことが原因で今は一人。
 待っている奴といえばある意味いることを思い出す。えらく今日が長く感じたためかすっかり忘れていた。
 「色々ありすぎだろ今日」
 今日という一日に不満の独り言。しかし呆れたように笑い、いつもよりは楽しめたことも実感していた。
 「ただいまー」
 鍵もかかっていないドアをあける。
 誰もいない建物にアサギの声が響いた。もう既に日が落ち、辺りは暗くなり部屋も暗くなっていた。
 そんな暗闇の中、怪しげに光る二対の何か。明らかに人のものではない。なら何なのか。
 正体はすぐに明らかになった。
 「らしくもなく長いこと出掛けていたな」
 声の発生源はその二対の光るものからだった。
 よくよく見るとそれは目だ。目が光っていたのだ。そしてその正体は、
 
 猫だ。黒い。それもしゃべる。

 ただしゃべることもそうだがどこかそれ意外にも異形さが雰囲気から感じられる。
 そんな見た目猫が暗闇の中から悠然と歩いて来たのだ。
 「そうか?俺だって出かけることぐらいはあるだろ?」
 フンッと鼻を鳴らす。
 アサギはジッと見てくるその猫を無視して部屋へと上がる。
 (さて、明日はどうするかな)
 仲間はポンコツたち。まだまだ課題と問題点がある。やることなど尽き果てはしない。


 翌。昨日に続き晴れ。現在時刻8時半を長針が指し、過ぎるという頃。
 ガーディアン内部。フロア二階。昨日と同じ場所。そこにはもう既に座っている兼拍の姿。
 いつも通り黒のローブに黒いとんがり帽子。黒のスカートと、地味な服装。
 約束よりも三十分も速く来てしまった。
 (予想はしていましたが、やはり誰もいませんね)
 アサギ、宮越、茅世弥の姿は見えない。
 しかし朝早いにも限らず人はぼちぼちいて賑わっていた。朝から戦っている人やトレーニングに励んでいる人など何時でも変わらない光景となっていた。
 フードコートの方も全て開店して、一日のローテーションで二十四時間を交代でやっている店などもあると聞く。
 まだ朝食を取っ手いないためかお腹から切ない音がする。
 「うぅ、お腹減りましたね」
 机に突っ伏した。
 お金が無い訳ではないのだが、余裕は無い。フードコートでは味、匂いなど完璧に近い状態の料理が多く人気が高いが、そのぶんいいお値段なのだ。
 とても庶民に毎日三食買えたものではない。
 「はぁ~」
 自然とため息がでる。
 そんな兼拍の後ろから声がかかる。
 「朝からため息とは。なんかあったか?」
 現れたのはアサギだった。手にはアイス。
 それを見た兼拍は昨日のことを思い出す。
 昨日はお腹減ったと思ったときには蕎麦を、そして今日はアイス。いつもタイミングよく現れる。
 「…………狙ってます?」
 「なにが?」
 ジッと下から睨みつけるがアサギはなんのこと?と目を丸くするだけでなんのことだか理解していない。
 わざとではないと思うがイラッとくるので兼拍的には止めてほしくて仕方ないが言ったところで、とうことだ。
 「…………何だよ?」
 立ち尽くしていたアサギを下から見ているとずっと見られているのが気になるのかしびれを切らしアサギが無表情で兼拍を見返す。
 「いえ、アサギは九時半頃にきて悪びれもなく堂々と登場する人かと思っていました」
 「何かひでーな。それより他はまだ来てないみたいだな」
 二人の姿が見えないことから悟った。
 兼拍の反対側に座りアイスのコーン部分を食べ終える。
 「さて、まだ時間あるし…………」
と、アサギが立ち上がりながら言った時、それに重なるようにして
 「お待たせ」
 「あれ?時間間違えたかしら?」
 二人が揃う。
 「………………………」
 立ったまま硬直したアサギ。数秒後何もなかったかのように座り直した。
 兼拍が可哀想な目を向けてくるがガン無視。本題へと入る。
 「よし、全員揃ったな。とりあえず今日はチーム結成の…………」
 アサギが言うより速く
 「パーティー!?」
と、宮越が割って入る。何をそんなに期待したのかものすごくわくわく顔で言った。
 「違う」
 即答かつ白い目で見られしゅんと黙る。
 気をとりなおして、
 「チーム結成の………」
 「儀式、とか?」
 続いて割って入ったのは茅世弥。チームなと組んだこと無い無知さで人によってはあるのかと勘違いしていた。
 「違う」
 しかし全く違うのと意味がわからないアサギは茅世弥にも白い目を向ける。
 「………チーム結成の………」
 「くしゅんっ」
 割って入るというよりアサギの声を打ち消し兼拍のくしゃみが炸裂。
 これに耐えきれなくなったアサギが机をバンッと叩き、
 「っるせーよ。何なんだよ言わせろよ。てかなんだよパーティー、儀式って、脳までポンコツかよ?ポンコツなのは能力だけにしてくれよ」
 アサギはそれはそれはお怒りだった。散々止められ出てきた言葉が下らない事ばかり。しかもけっこう真面目にアサギは話していた。
 「ちょ、そんなに起こらなくても。むしろ私はくしゃみがでてしまっただけですが……」
 「てめぇーも同罪だ」
 「えぇぇ?」
 理不尽極まり無いが確かにあの流れからのくしゃみは悪意しか感じない。
 しかし出てしまったものは仕方無い。が、アサギは知るか、と聞く耳を待たない。
 「いいか、……………」
 最初の集合はアサギの説教から始まった。

 
 数分後。
 アサギも落ち着き、三人も落ち着いた。そして話は戻る。
 「チーム結成するためにまず三人にやってもらうことが多々あるんでな」
 知りもしない三人はそれぞれ顔を合わせなんのことやらと?を浮かばせる。
 「まぁ、他の奴と組めばこんなことにはならないんだが………実は俺は支部所属なんだよな」
 
 支部
 現在アサギたちがいるところが本部。そしてそれらが枝分かれするように少し離れた場所に支部がこの国中に散らばっている。支部に所属しているものがチームを組むときその支部へ編入させ仲間と組まなくてはならない。

 ガーディアンには多々こういった少し面倒なルールや心得などがある。
 ガーディアン本部として入った三人には手続きが必要になるということだ。
 「支部、かぁー」
 感心する宮越。
 「何か不満でも?」
 「あ、そういう訳ではないよ」
 本当のことで特に不満に思った訳ではなくただただ感心したのだ。
 「支部っていうことは他にも人がいるのかしら?」
 支部は多ければ百人以上がいる。その事を知っている茅世弥はアサギが他の人ともチームを組んでいるのではないかと考えた。
 「いや、いねーよ。俺一人。実際猫見てーのはいるけど」
 チームとしてはこの四人だけになる。つまり最初はアサギ一人だけで支部を担っていた。そういうことになる。
 「その支部は何て言う名前ですか?」
 兼拍が言うのは支部ひとつひとつにある支部を表す名前。支部によって様々で有名なものから無名に近い廃れた支部などがある。
 アサギ一人ということで期待は持てないがどんな支部なのは気にはなる。

 「

 アサギの言葉の後、静寂。
 最初に我に帰ったのは茅世弥だった。
 「な、第七師団って………嘘、よね?」
 動揺から言葉が片言になる。
 それに続いて宮越が、目を見開いたまま、
 「ま、まさか」
 その後に兼拍が続くと思いきや黙ったまま微動だにしなかった。
 「いや、本当だよ。俺は管理人だけどね」
 その言葉にですら三人の受けた印象は強かった。

 第七師団
 支部では特別扱いされている支部がいくつかあり、そのなかでも数字で振り分けられ尚且つ師団と呼ばれる支部は本部直属と言えるほどの精鋭部隊が揃った支部。数字の師団は一から十二まであり第一師団から第十二師団までで表す。
 その中でも第七師団ほど特別な師団はなく、名前自体なら誰でも知っている師団だ。
 第七師団は少数の部隊にも関わらず一人一人の力はひとつの支部に匹敵、それ以上の実力者が集まった師団なのだ。
 有名なのが一夜にしてひとつの国との戦争を終戦までに導いた、という伝説があり今でも伝説として残る師団だったが謎の失踪をとげ今では廃れた師団と化していた。

 そこまでの有名な師団をアサギ一人で今まで守っていたのだ。
 「だからお前らには編入を頼むわ」
 驚きだが、断る理由もない。
 「わかったわ」
 茅世弥が代表で答えるが他の二人もコクンと首肯く。
 編入と言ってもただガーディアン一階へ行きカウンターの係員に頼めばそれで終了なので簡単だ。
 早速四人で一階へと向かう。
 
 カウンターでは受付係員が二人。その隣にもう一人、編入・変更係と書かれた札を下げている係員がいた。今回はそちらの係員にお世話になる。
 人などほとんどいないため番号カードを渡されお待ちくださいとか言われたが待つこともなく呼ばれる。
 「今日はどうのようなご用件でしょうか?」
 「チームの変更とこの三人の編入をお願いします」
 「かしこまりました。お手持ちにナンバープレートはありますか?」
 慣れているのかテキパキと用意する係員の女性。

 ナンバープレートとはガーディアンの証明書みたいなもので人それぞれ違った番号が記してあり、その番号やバーコードで読み取ったものの中に個人情報やチームの記録が記され非常に大事なものとなる。

 ここではそれを編入変更として使うようだ。
 指示された三人と現団長であるアサギがナンバープレートを渡す。金属製のキーホルダーのようなもののためなくしたりぐしゃぐしゃになったりする心配はない。
 渡すとすぐに返却された。ただ読み取っただけなので後の変更などは係員が勝手にパソコンなどを用いて行ってくれるだろう。
 「ありがとうございます。明日には編入、変更は済んでいると思われますがそれまではまだ正式に変更はされておりませんのでご注意お願いいたします。
 他にご用件はありますか」
 結局本格的に活動出来るのは明日からのようなので特に用件がない。
 「ないよ、変更ありがとう」
 「いえ、仕事ですので」
 ペコリと一礼。
 営業マンだなぁ、と思いながら受付カウンターを後にする。
 カウンター近くの椅子に座りこれからを相談する。
 明日からとは言え、正式にチームとして組んだのだ。これから忙しくなることは既にアサギの頭のなかでは予測済み。今でもできることを三人に伝えた。
 「浮かれてるのはいいがよく聞け」
 三人でわいわいとこれからを話したり喜びあったりとふわふわした気持ちでいるとアサギから指示が通る。
 何事かと静まりアサギの話に耳を傾ける。
 「とりあえず今できるのは生活手段の確認とお前らの魔法についてだが、まず生活手段はどうするつもりだ?」
 アサギの言うことに理解出来ないのか首をかしげたまま返答がない。
 「簡単に言うと支部とか師団は拠点がそこになるから住み込みが許可されてるんだけどお前らはどうするってこと。今の借りてるのか親と同居してるのかは知らないが、どっちでもいいが確認しなきゃならない」
 「な、なるほど」
 ようやく理解した三人。
 ちなみに兼拍はガーディアンの寮、宮越は借りたアパート。茅世弥は親と同居しているらしい。それぞれ違う所なので確実で選択する事になる。
 「あーちなみに俺は管理人だからもう泊まり込みってか住んでる」
 完全に管理人を越え、住人に成り果てたらしいアサギは第七師団の設備はかなりいいらしくそこらの旅館にもひけをとらないほど、とのこと。家賃も団員なら無料。
 「…………」
 「…………」
 「…………」
 三人はしばらく考えた。
 「別に今すぐに決めなくてもいいぞ?茅世弥に関しては親がいるわけだしな」
と、気を使ったのかアサギは言うが既に三人は決まっていた。
 「部屋が空いてるなら貸してください」
 「私もそうしてほしい」
 「なら私もそれでいいわ」
 迷うことなく決まった。
 家賃なしは相当大きいのかあっさり他を捨てる三人に少しその場所の持ち主に同情するアサギ。
 「………まぁ、いいや。そうか、わかった。部屋は貸すがとりあえず今日は物の移動と持ち主との契約のあれやこれを済ませてこい」
 了解、と潔く聞く三人は笑顔。
 そして改めて
 「さて、お前らはさっき実感しただろうがポンコツにも戦いようはある。けどこのままなんてのは許さんからな。ゆっくりでもいいから俺はその使えない能力を少なくともマシにするつもりだ。覚悟しろよ?」
 うちに来たからには、と悪意丸出しの表情で笑うアサギ。
 しかしそんなのは脅しどころか三人に火をつける形となりアサギ的には結果オーライとなったが複雑な気持ちになった。
 
 自分たちの使えない能力が戦えると言われ嬉しかったのかまた浮かれモードになるが今日くらいは勘弁してやるかぁ、と呆れる。
 隊長は勿論アサギどなり、これからこのチームで戦って行くことになる。

 (…………さーて、これからどうするかな?……………………。あれ?これ、俺詰んでね?)
 
 今さら自分が立たされている現状とその難しさに我にかえったアサギ。
 真っ暗な未来しか見えないアサギの目は正しいのか。それとも偽りか。その答えはこれから取りかかるポンコツたちの魔法の成長に委ねられた。

 しかしアサギは予想外の結果とその将来をまだ知らない。
 
 
 
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