ポンコツ能力は使いよう!?~戦術で最強を凌駕する~

シロクロ

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12 空のコップと予期せぬモノ

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 誰も居ない森。静かな朝を迎える。
 そこには怪しげな魔法陣が複数箇所。
 光出す魔法陣。そこから這い出るようにして現れるのはモンスター。まるでロボットのような個体だ。
 ひとつ目は赤く光り、触手のような四本の手の先にはブレードや銃口が。支える四本の足は地面をしっかり踏みしめ一歩一歩確実に進んでいた。
 飽きる事なくぞろぞろと這い出続ける。
 ここは都市からそう遠くはない場所だった。
 そのためか、この存在を知るのはまだ居ない。



 アサギたちはあの後結局グダグダになり一時帰宅。
 第七師団に戻った後、今後について話し合った。
 まずはこのまま特訓は続けること。
 魔法の勉強や戦闘方法の修正などいくつか行ったが中でも一人ひとりの魔力量の検出で賑わった。 

 アサギが異常に少なかったこと。
 通常より少なすぎて四人からは「ポンコツの仲間入りだ」とか「人の事言えない」などさんざん叩かれた。
 しかしその後アサギが、
 「俺は自分でも戦えますー」
と、上から目線でド正論を叩き返したのは傑作だった。
 次に驚きだったのが兼拍だ。アサギとは逆に多すぎて兼拍を除く四人は絶句。想像を絶するほどの多さ。
 表すならば、通常よりかなり多いと言える人の約十倍と言っても過言ではない。
 後の三人は通常通りで何ともなかった。
 しかし妙だったのがアサギの数値を計った時に魔力量が定まらなかったことだ。
 一定の範囲を数値が行ったり来たりしていたのだ。
 理由は話してもらえずお流れになったがアサギの謎が深まった。
 
 この後は対して何もせずグータラしているうちに翌日を迎える。
 昨日の時点でもう既にやることは決めていた。
 それは直球に言うと〝買い出し〟だった。
 言い出したのは勿論兼拍。
 普段からこのように仲良くしてもらえる友達は少なかったのだろう。
 その事を悟ったアサギは特にすることもないのでOKを出した。
 三人も快く承諾してくれた。
 中でも宮越は妙に嬉しがっていた。

 ─朝─
 
 
 アサギは今回も寝ることなく朝を迎えた。
 現在時刻午前五時。今の季節ではようやく明るくなる頃。
 アサギはリビングで本を読んでいた。朝ごはんとなるおにぎりを片手に。
 周りから見ればパラパラと開いては閉じ繰り返しているようにしか見えないがしっかり読んでいるのだ。めちゃくちゃ高速で。
 「…………………はぁ、どのやつだっけな」
 ため息がでるのは無理もない。とある本を探してはや三時間。一向に見つかる気配はない。
 この師団には地下に膨大な図書がありそこから本を数札持ってきて探すも無駄に終わった。

 もしかして、ないんじゃね!?

 そんな事がよぎるのも仕方なかった。
 もういいや、と現実逃避し、今まで持ってきた本に目を向ける。
 今度はゆっくり読もうと。かけていた眼鏡をおいた。
 先程尋常ではない速さで読めたのはこの眼鏡のおかげだ。
 「…………あの、」
 唐突に背後から声がした。
 後ろをふりかえれば兼拍がいた。
 こんな朝早くに何のようだろうか。
 アサギは一度本を閉じた。
 「どした?」
 「……………いえ、その目が覚めてしまって」
 「……………」
 心の中で正直小学生かよ、とツッコんだが口に出さないで正解だと思った。
 「アサギは何してるんです?」
 大量に置かれた本が何十冊も置かれていたらそれは気になるだろう。
 「んー………探し物」
 もう諦めてしまったが。
 そんな感じなので適当に本を投げていたら兼拍が興味を持ったように手に取り、ページを開き始めた。
 内容もわからず適当に見ていく。
 「見てわかるか?」
 ペラペラと小刻みにめくっていく兼拍の様子を見るとおおよそ読めているようには思えなかった。
 「………わからないです」
 「だろうね」
 


 それから二時間が経過。
 アサギは作業というより探し物を探していた。兼拍も一緒にわかりもしない書物を読むことに興味を持ったのかアサギの隣で黙々と読み続けた。
 「…………何してるのかしら?」
 「………………さあ?」
 起きてきた茅世弥と宮越の二人からは何しているのかさっぱりわからなかった。
 続いて南も起きてきてこの光景を見ると?を浮かべた。
 はたから見るとただの読書タイムだが、兼拍がしょっちゅうわからないところがあればアサギに聞いていた。
 「…………ん?全員そろったか?」
 今さらと言うほど時間がたったころ、アサギの目が三人をとらえた。
 「準備しといてくれよ?」
 アサギはとくに無いのでこのまま黙読を続けるが四人はそれぞれ自室へと戻っていった。
 


 出発時刻は午前八時半。
 開店と同時にいくわけではないが第七師団支部は離れているため少し速めに出る必要がある。そのためだ。

 「…………………遅い」
 支部の庭でもある広大な地にただ一人寝転がっていたアサギ。
 今日は珍しく真薪またたぎが来ていた。
 猫姿でアサギの隣で寝ていた。
 「出かけるなんて珍しいじゃないか?」
 寝てはいなかったようでそれでいてピクリとも動かない。そんな真薪がアサギに疑問を抱いていた。
 「……………まぁね」
 「油断するなよ?」
 勿論だとも、と言いたいがこんなグータラしている時に言えた言葉ではない。
 
 それからしばらくして。
 ぽかぽかの日差しのなか気持ちよく無心でゴロゴロしているとそれを遮るものがいた。
 「起きて下さい」
 アサギを覗き込むその顔は兼拍。そして兼拍の白い髪の毛の先がアサギの顔に触れる。
 イラッ、とした。正直。
 こんな心情であるが兼拍が起こしに来たということはもう準備が整ったのだろう。
明らかに遅刻であるが。
 「………行くか」
 現在、九時前であった。



 着いたのは九時半辺り。丁度人が増え始める辺りだった。

 アサギたちが来たなのはガーディアン付近にある商店街、通称ガーディアン街。
 ここでは戦闘に使うものやここにしかない限定品などが多く、年中任期を集めているところだ。
 ここは基本ガーディアン関係者しか売買する事が出来ず、証明書またはガーディアンだとわかる物を待っていないと買うことすら出来ない。
 
 「……………人、多いな」
 煩わしそうに言うのはアサギ。
 祭り状態であるこの状況にアサギはついていけない。
 しかしそんなアサギとは違い、楽しむ気満々なのは特に兼拍だった。
 「す、すごいですね!」
 早く店を廻ってみたいというのが見てとれる。
 「…………楽しそう」
 南も初めてのようで兼拍よりはましだがそわそわしているのは気のせいではない。
 宮越と茅世弥は何回か二人で来たことあるようで慣れている様子。しかし人数が増えてうれしいようだ。
 「最初は皆で廻ろ?」
 「そうね!」
 宮越の意見に反対する者は居らずアサギも強制連行された。

 その後はあっちへ。こっちへと散々見て回った。ひとつひとつ探るかのように。
 (つ、疲れた)
 ものの一時間でアサギは根をあげた。
 女子だからか服とか小物の店などがアサギにはキツかったらしい。
 アサギにも正直よりたいところがあったので自由を望んでいた。
 そんなことは知らないと次の店へ。

 (………………………)
 アサギはなんとなーく思っていたことがあった。
 「お前に似た奴いっぱいいるな」
 それは兼拍だった。
 「え?」
 兼拍の服装、魔女姿だった。よく見るとすれ違う女子二人に一人のペースでその格好がみられる。特にとんがり帽子。
 これをガーディアン本部で目印にしていたアサギからしては分身したようにしか見えない。
 (これは困った。よし、)
 そこでいいことを思い付いたのだ。
 「ちと、雑貨屋見てくる」
 返答を待たずにアサギは雑貨屋へ直行。店内へと入っていく。
 置いていかれた四人。丁度ひと息したかったので近くのベンチに腰掛けアサギの帰りを待つ。

 しばらくしてアサギが帰ってきた。
 アサギの手には小さな袋が握られていてその中身をさっそく取り出した。
 「「「「?」」」」
 四人の頭に浮かぶ。しかもその中身が緑のリボンだった。更に深まる謎。
 アサギはそんな疑問を浮かべる兼拍から帽子をひょいっとつまんで何かをし始める。
 「え?な、何をするんですか?」
 兼拍は我に返り、アサギにとられた帽子を取り替えそうとする。
 他三人は未だに何してんのの顔。
 アサギから取り替えそうと腕をつかむ。
 そして反対の手で帽子に手をかけた。
 奪い取ろうとする。
が、あっさり返したアサギ。
 「?」
 被り直しながら怪訝な顔でアサギを見る。アサギもまた兼拍を見ていた。
 「何ですか?」
 少しふて腐れたように言ってみるがアサギの視線は自分ではなく帽子にあると気が付いた。
 「ああ!」
 「………おしゃれ」
 「うん、いいと思う」
 茅世弥、南、宮越の順でアサギに続くように兼拍の帽子に目を向ける。
 何だ何だと自分でも気になり一回帽子を取り、それを見る。
 「…………あっ」
 ここでようやく気が付いた。変化に。
 地味で誰もが似たような帽子は兼拍のだけ緑のリボンが巻き付けられ、真ん中でリボン結びされている。
 「これでいい目印になった」
 プレゼント、よりかは完全に言葉の通り目印の為にやった事らしい。
 しかし単に嬉しかった。
 「ありがとうございます」
 「って訳で自由行動にしよう!」
 兼拍の礼を無視して勝手に提案する。むしろ決めた。
 「二時間後ここで」
 待ち合わせ場所を雑貨屋の前に指定してアサギはまたしても返答など待たずに人混みへと紛れていった。
 そんなアサギに追い付ける訳もなく、追う暇もなく消えてしまった。
 「……………」
 死んだ目をする兼拍。
 形だけでもプレゼントかと思いきや完全に目印として勝手に帽子をデコった挙げ句逃げるかのようにどこかへ行ってしまったアサギに対しての目。
 ありえない、と。
 そんな様子を見ていた三人は笑いながら各々各自自由行動へと移っていった。



 全員バラバラに行動を始めてはや三十分が過ぎた。
 アサギ以外にもそれぞれ散らばり好きな店へと足を運んだ。
 その頃アサギはとあるバーに来ていた。
 店の中には客と思われる人は一人と居らずカウンターで店員が食器を磨いているだけだった。
 入ってきたアサギに目を向けるも無言でそのまま食器を磨き続けた。
 「………最近どーよ?」
 そんな無愛想な店員のおっちゃんにアサギが声をかけた。
 「久々来やがったと思ったら喧嘩売ってんのか?」
 笑うアサギ。店員もそんな事を言いながらもどこか笑顔だった。
 「つまり売上は伸びてねーのな」
 「んだよ、冷やかしに来たのか?」
 というのもまだこのバーは開店前で扉にも閉店の札が下がっていたはずだ。
 「嘘嘘、いつもの頼むよ」
 アサギがそう言うとカウンターに座るそのテーブルに空のコップを置いた。
 「は?」
 「半分」

 「は?」
 「濃いめ」

 「は?」
 「無し」

 どんどん何かが決まっていく。ただ置かれたコップには何も入っていなかった。
 「あ、それとリンゴジュースひとつ」
 アサギの追加の注文にはしっかりと中身が入っていた。ただ空のコップには何も入ってはいない。
 「さて、どっからいくか」
 「………………」
 何かを話始めようとする店員に黙って聞くアサギ。リンゴジュースに口をつけながら話を待った。
 「よし、今日は久々だし二つ提供しようと思う」
 「二つ…………おっけ」
 店内二人だけの話が始まった。


 「ひとつはとある国の姫の失踪だ。まぁ有名っちゃ有名だな。けどそれだけじゃない」
 「、ね」
 話は続く。
 「それと同時にその国では呪われた剣ってのが現れた」
 「呪われた……剣」

 「そうだ。しかも姫様が消えて数日のうちには現れたらしい」
 「その呪いって?」

 「剣が人を呼び、その人に竜の恐怖を見せるって話らしい」
 「呼んだ挙げ句に脅かすのかよ。たちワリーな」
 
 「何でもその剣は竜族に伝わる物らしい」
 「ふーん…………」
 リンゴジュースを冷やす氷をかじる。

 「どう思う?」
 「……その噂が本当かデマかは置いといて竜族に伝わるってのはと思うよ」
 氷でいっぱいになった頬を膨らましながら答えた。
 
 「その噂は本当だと思うか?」
 「まあ、無くは無いと思うよ。そんな剣はいっぱいあるし、何よりその国の郷は元竜の住みかだったって聞くし」

 「二つ目は?」
 これ以上の考察や予測は無理だと踏んだアサギは次へと進む。
 「もうひとつは魔力移植実験についてだ」
 店員の言葉からは驚きの言葉が出た。
 「移植…………まさかうちの国じゃないだろうな?」
 「それはないと思うぞ」
 魔力移植など想像しただけで寒気をもよおす言葉だ。言葉から想像できるだろうがろくでもないものだった。

 「他者の魔力を移植する、つまり人工的に魔力の適正やそのものを強めたりする事が目的らしい。ただ、勿論実験段階だけあって多くの失敗とそれに伴って死者が出ている」
 「………………」
 アサギの顔からは期限が悪そうなのが見てとれる。
 話は続く。

 「成功しても何かしらの後遺症、障害や激痛などが伴うと。それを成功と呼べるかは謎だがな。死者の体は異形といえるほどに………」
 「もういい、散々だ」
 アサギがストップをかける。
 最初の話とは打ってかわり最悪そのものの内容だった。
 アサギは「吐き気がする」と舌打ちしながらため息をつき、落ち着きを取り戻す。
 「有力な情報提供感謝するよ。そのうちまた来る」
 「お代は今日が久々に免じて貰わないことにする」
 優しい店員。慣れ親しい間柄なので出来る事だろう。
 その優しさに甘えさせてもらおうとした次の瞬間、鳴り響くケータイのアラート。
 アサギの物からだった。

 ビィィィィィィィ

と、耳障りな音。ガーディアンからの緊急警報だ。
 アサギは常にミュートにしているためこの警報以外はバイブだけが鳴る。
 しかし、警報だ。
 アラートを止めその内容を探る。
 送られて来たのは録音された音声。
 本部長から直々のものだった。

 『各隊員に連絡する。たった今大規模な敵国からの侵略を確認。警報レベルは六、各隊員早急に現場に急行されたし』
 
 「……………くそ、ここでか!?」
 アサギに焦りの声が漏れる。
 そんなアサギに更なる追い討ちがかかる。

 ヴゥゥー、ヴゥゥー

 鳴り響くはまたしてもアサギのケータイからだった。
 今度は通話着信。

 「楠原か、何でこんなときに」
 言葉ではそう言ったが一瞬にして払拭、こんなときだからこそ楠原はかけてきたのだろうと思い返す。
 あいつはそういうやつだと。

 『もしもしアサギか?今ガーディアン街だろ?』

 ロケーションでも使ったのだろうか。特に他人に自分の行動を伝えないアサギの居場所を知るにはそれしかない。

 『仲間たちは一緒か?』

 「いや、違うけど………」
 何かあったのか?そう続けようとする前に楠原からはいつになく焦りのトーンで返ってくる返事。

 『ガーディアン街の近くに大量のモンスターと敵国の主力が集まった。魔力的に兼拍が居るところだ』

 その言葉の意味をアサギはいち早く理解した。

 『あの魔力量だ。いずれにせよ戦えないあいつはぞ』
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