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97.寿命

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別荘では穏やかな時間が流れていた
リトスは結界の張られた広い庭が気に入ったらしく多くの時間を庭で過ごしていた
日中、付近を散歩するついでに薬草の採取をしたり、少し足を延ばして迷宮に行ったりする
それはこれまでにない心地いい時間だった

夕飯の片づけを終えてリビングでくつろいでいると不意にレティが甘えてきた
「どうした?」
隣に座ってもたれかかって来るレティの肩を抱き寄せると胸に顔を擦り付けるようなしぐさを見せる
ヤバい俺の理性が持つだろうか…?
「何か幸せだな~って」
そう言って黙り込む
「レティ?」
何となく変な気がしてレティの体を起こして顔をのぞき込むとその目からは涙が溢れていた

「どうしたんだよ?」
一体何があった?
さっきまで普通に過ごしてたのに…
こんな時どんな対応をすればいいかさっぱりわからない自分に嫌気がさす
ルークならもっとうまくやれるんだろうけど…

「シア…」
「ん?」
「シアは…寿命のこと考えたことある?」
「!」
不意打ちを食らった俺の顔はきっと引きつっていたはずだ

「…あるんだね」
「…ああ」
「だから…」
「え?」
「…だからキス以上の事はしてくれないの?」
その言葉に鈍器で頭を殴られたような錯覚に陥る
いや、確かにその通りなんだけど…多分レティが思ってるのとは違うと思う

「龍神族の寿命は300年だもの…年より幼く見えるしそんな気にはならないよね…」
「違う」
自分でも驚くほど低い声だった
そのことに気付いたのはレティの怯えるような顔を見てから
ホント情けない

「そうじゃない。確かにここ最近寿命の事をずっと考えてたし、それもあってレティに手を出せなかった」
別荘に来てからずっと一緒に寝てるのにキスしかしてない
正直何度も襲いかけたんだけどな?
だってレティがかなり勇気を出して誘って来てるのも気付いてたし色々限界だった

「なぁレティ」
「…?」
不安そうに俺を見るレティの顔をそっとなでる
「俺は…人族の寿命はどれだけ長く見積もっても100年だ。俺は先に老いて、レティを置いていくことになる」
「シアそれは…」
「それでも俺でいいのか?その事実がレティを苦しめるのが俺は怖いよ」
不思議なくらいあっさりと俺はそう口にしていた
「シア…シアはそう思ってたから…?」
「正直何度も襲いかけたんだ。でも多分…一度抱いたら手放せない」
違うか…抱かなくても手放せないんだろうけど、抱いてしまえばレティが逃げたくなっても逃がしてやれない

「…シアは知らないんだね?」
「へ?」
「龍神族は生涯で一人だけ魔力を交換することが出来るの」
「魔力の交換?」
「うん。大抵伴侶となる相手と交換するんだと思う。魔力の交換をしたら思いが強い程相手の事を感じ取ることが出来みたいなの」
「相手の事を感じ取る?」
まさかそれって…
「相手の強い感情やおおよその居場所とか…?」
「…」
マジか…
「いや、それ滅茶苦茶便利?」
全てが筒抜けになるわけじゃないのなら大した問題じゃない
むしろレティが危険な状態の時にすぐわかるって考えれば便利どころの話じゃない

「結構知ってる人が多いからそれが嫌なんだと思って…」
だから泣くほど不安になったのか…
「そんなわけないだろ…」
俺はレティを抱きしめた
かすかに震えるその体がレティの抱えていた不安を物語ってる気がして自己嫌悪に陥る
もっと早くちゃんと話せばよかったと

「それとね」
「?」
「寿命のことなんだけど…」
レティは少し言いにくそうにしていたものの意を決したように続けた
「魔力の交換をしたら種族間の寿命は調整されるみたいなの」
「調整って…」
「龍神族の寿命の一部を分けるって感じになるのかな?調整されると私もシアも200年くらいになるはず…」
何だそれ
そんな都合のいい設定みたいな…

「…やっぱり嫌だよね?」
「え?」
「家族や友人が亡くなってもシアだけ生き続けるなんて…」
レティのその曇った表情が痛々しかった
「レティ」
さっきよりも強く抱きしめる
「俺はきっと、レティが思ってるよりずっとレティを愛してる」
「…シア?」
「レティと同じように年を重ねられるならそれでいい。確かに大勢見送ることになるんだろうけど、その分レティと長く過ごせるってことだろ?」
「シア…」
顔を埋めて泣くレティを抱きしめたまま自分の中の不安がなくなるのを実感していた
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