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第1話・みぃちゃん
1-08・懸念
しおりを挟む子供の食べあとというものは、総じて、決してキレイではない。
特に四歳か五歳か。ようやく一人で食事が摂れるようになってきたばかりの年齢だと考えると、むしろ当然のことと言えただろう。
目の前の少女もそうだ。
しかもメニューがそばという、おにぎりだとかそういう食べやすいものではなかったのもあり、小鉢の周りには汁やそばの欠片、あるいは入れたネギなどが飛び散っていて、それは少女の服の袖などにもついていた。
初めにめくってやればよかったかな、などと思いながら、玄夜は、お腹がいっぱいになったからか、食事の最後の方にはうつらうつらとし始め、しまいには眠ってしまった少女を指して、どうするのかと視線でヨウコに問いかけた。
まだ随分早い時間だけれど、幼い子供だと思えばこんなものかもしれないとも思う。
お風呂とかはどうしようか。着替えもない。
否、そんなことは考えなくてもいいのだろうか。
ヨウコはそんな玄夜の内心を知ってか知らずか溜め息を吐いて、少女を抱いたまま、億劫そうに立ちあがったかと思うと、いつも自分が横になっている布団へと少女をそっと置いて寝かせていた。
意外にもさっと袖口の食べこぼしや、口の端の汚れを近くに置いておいたティッシュで取ってやっている。
だいたいいつも動かないばかりの人だけれど、それぐらいはするのだなぁと言わんばかりの玄夜の視線にも肩を竦め、先程までの席へと戻った。
こたつへと潜り込む。
玄夜は机の上を手早く片付けて拭き、食器を流しへと持っていった。
洗い物は後にしてヨウコの前の席へと再度、腰を下ろす。
あの少女をどうするのか、いったい何がどうなっているのか、ヨウコに確かめておこうと思ったからだった。
玄夜が何を聞きたいのかは、ヨウコも勿論わかっているのだろう、自分へと注がれる視線に、ヨウコは深く溜め息を吐いた。
「聞きたいことがあるなら、口にしなよ」
視線で問いかけるんじゃなくてね。
どこかうんざりしたような指摘に、玄夜は小さく肩を竦めてみせる。
「そんなの、俺がわざわざ聞かなくたって、わかってるんじゃないですか?」
そもそも、少女がいったい何なのかを察した時から、玄夜が心配していたことだった。
時間も時間だったので、夕食などを摂らせてしまったが、それもよかったのだろうかとも思う。
否、駄目だったなら、ヨウコがそう告げたのだろうけれど。
ならば構わないということだとは思う。だけど。
「あれ、まずくないですか? あのままだとあの子、死んじゃいますよ」
声とともに眉をひそめての言葉に、返ってきたのはまたしても、どこか疲れたようなヨウコの溜め息なのだった。
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