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第2話・過去と今
2-17・過去と今
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少女は何もわからなかった。
いったい自分はどうしてしまったのだろう。
確か、いつも通り近所の公園まで遊びに行って、夕暮れになったから弟と連れ立って家路を急いでいたはずだ。
いつもと変わらない街並み。歩き慣れた道。否、歩き慣れた道、であったはず。なのに。
特に何があったわけでもなかった。
何も変わらない。
弟と、今日の夕飯は何だろうか、なんて話しながら歩いていて、そして。そして……――どうしたん、だったろうか。
「うぅっ……おねぇちゃぁんっ……!」
どうして弟は泣いているのだろう。
自分はいったいどうしたのだろうか。
お姉ちゃん、なんて。最近はお兄さんぶって、『姉さん』だとかなんだとか呼んでいたくせに。
まるで小さい子供みたいだ。
否、弟はまだ子供だ。それは少女も同じ。
「……泣か、なぃ、で……」
あんまりにも弟が泣いているから、涙をぬぐってあげようと思って、それに慰める為、頭でも撫でればいいかだとか。そんなことを考えたのに、ゆる、持ち上げた手は、信じられないぐらいに重かった。
まるで自分の体じゃないみたいに。
少女はわけがわからなくて首を傾げる。
少女の意識としては、ただいつも通り、今、目の前で泣いている弟と家路を急いでいて、その次が今だった。
さっきまで笑っていたはずの弟が泣いているのも意味が解らないし、自分がどうやら地面に倒れているらしいのも理解できない。
混乱する少女に弟が泣き縋る。
「うぅっ……よかったっ……よかったぁっ……! お姉ちゃんっ……!」
いったい何がよかったのだろう。
それに弟がなんだかひどく薄汚れているように思えた。
泣いている、だけではなく、怪我もしているような。
わけがわからないままの少女は、そこでふと気付いた。
少女に覆いかぶさるようにして泣いて縋る弟の向こう側。
見知らぬ女性と男性の姿があることに。
女性は呆れかえったとばかりの顔をしていて、男性は柔らかく微笑んでいた。
……――少女がようやく動けるようになって、弟を宥めて。現状を教えてもらったところ、少女は神隠しにあっていたのだと告げられた。
人ならざる者に、どこかへと連れ攫われていたのだと。弟を庇って、弟の身代わりに。
記憶にはまるでない。
ああ、でも確か、そうだった。
弟と歩いていて。夕暮れ時だった。辺りは、真っ赤だった。
家の近所には、昔は神社があったと噂されている、ちょっとした森のようになっている場所があった。
今は鳥居さえ残っていないので、本当に神社だったのかどうかさえ分からない。
その森のようになっている場所のすぐ傍の道に差し掛かった時だ。
そうだった。
少女は、少し前を歩いていた弟へと手を伸ばす何かに気付いたのだ。
だから咄嗟に弟を押して、自分と位置を入れ替えて、そして……――そして気付いたら、今だった。
あの時、感じた何かに、自分は連れ去られていたということなのだろう。
聞けばいつの間にか一週間ほどが経っているのだという。
おそらくあの女性と男性が、少女を助けてくれたのだ。
そうに違いないと理解した少女は、丁寧に二人に礼を言った。
そのあと少しだけ続いた交流で、彼らに返しきれない恩を受けることになる。
それはもう、何十年も前の話だった。
ヨウコは本を閉じた。
書店の一角。
滅多に降りて来ない其処で、ヨウコは一冊の本を手にとって、視線を落としていたのである。
思えばあれからすぐだったと思い出す。
玄夜の不安定さが、より一層顕著になってきたのは。
だからヨウコは、今まで、否、これから、自分や玄夜が関わってきたこと、関わっていくことを本という後から読めるものにして残そうと思ったのだ。
書店の形にしたのは、本を納めやすいようにと考えたに過ぎない。
効果が出ているのかどうかはわからないが、少なくとも玄夜は、昔を思い出しやすくなっているようにはヨウコに見えた。
同時に、猫又の言葉も思い出した。
いったい何を考えているのか、なんてそんなもの。
「そんなの、私が一番知りたいわよ……」
ぽつり、呟いた言葉を、聞き咎める者は誰もいなかった。
※※※
ちょっと続きをすぐには書けなさそうなのと、書いたとしても終わらなさそうなのでいったんここで休止します。
状態もいったん完結にさせて頂きました。
「これ以上は連載を続けない」という意味での「完結」です。
物語としては未完です。
この後、本当は、
第三話、陰陽師的な祖先をもつ警察官僚からの依頼(書店は数年おきに不定期的に引っ越ししていて、以前からの知り合いの警察官が突き止めて訪ねてきて依頼を持ってきた的な。増えてるみぃちゃんに驚くとかそういう。)
第四話、依頼話(未定)のラスト、眠りに落ちる玄夜
第五話、目覚めない玄夜とヨウコの選択。からの、いつも通りの日常
っていう予定でした。
気が向けばこのまま、ここに追加するか、別で続きを書くかもしれません。
未定です。
中途半端になって、申し訳ありませんでした。
いったい自分はどうしてしまったのだろう。
確か、いつも通り近所の公園まで遊びに行って、夕暮れになったから弟と連れ立って家路を急いでいたはずだ。
いつもと変わらない街並み。歩き慣れた道。否、歩き慣れた道、であったはず。なのに。
特に何があったわけでもなかった。
何も変わらない。
弟と、今日の夕飯は何だろうか、なんて話しながら歩いていて、そして。そして……――どうしたん、だったろうか。
「うぅっ……おねぇちゃぁんっ……!」
どうして弟は泣いているのだろう。
自分はいったいどうしたのだろうか。
お姉ちゃん、なんて。最近はお兄さんぶって、『姉さん』だとかなんだとか呼んでいたくせに。
まるで小さい子供みたいだ。
否、弟はまだ子供だ。それは少女も同じ。
「……泣か、なぃ、で……」
あんまりにも弟が泣いているから、涙をぬぐってあげようと思って、それに慰める為、頭でも撫でればいいかだとか。そんなことを考えたのに、ゆる、持ち上げた手は、信じられないぐらいに重かった。
まるで自分の体じゃないみたいに。
少女はわけがわからなくて首を傾げる。
少女の意識としては、ただいつも通り、今、目の前で泣いている弟と家路を急いでいて、その次が今だった。
さっきまで笑っていたはずの弟が泣いているのも意味が解らないし、自分がどうやら地面に倒れているらしいのも理解できない。
混乱する少女に弟が泣き縋る。
「うぅっ……よかったっ……よかったぁっ……! お姉ちゃんっ……!」
いったい何がよかったのだろう。
それに弟がなんだかひどく薄汚れているように思えた。
泣いている、だけではなく、怪我もしているような。
わけがわからないままの少女は、そこでふと気付いた。
少女に覆いかぶさるようにして泣いて縋る弟の向こう側。
見知らぬ女性と男性の姿があることに。
女性は呆れかえったとばかりの顔をしていて、男性は柔らかく微笑んでいた。
……――少女がようやく動けるようになって、弟を宥めて。現状を教えてもらったところ、少女は神隠しにあっていたのだと告げられた。
人ならざる者に、どこかへと連れ攫われていたのだと。弟を庇って、弟の身代わりに。
記憶にはまるでない。
ああ、でも確か、そうだった。
弟と歩いていて。夕暮れ時だった。辺りは、真っ赤だった。
家の近所には、昔は神社があったと噂されている、ちょっとした森のようになっている場所があった。
今は鳥居さえ残っていないので、本当に神社だったのかどうかさえ分からない。
その森のようになっている場所のすぐ傍の道に差し掛かった時だ。
そうだった。
少女は、少し前を歩いていた弟へと手を伸ばす何かに気付いたのだ。
だから咄嗟に弟を押して、自分と位置を入れ替えて、そして……――そして気付いたら、今だった。
あの時、感じた何かに、自分は連れ去られていたということなのだろう。
聞けばいつの間にか一週間ほどが経っているのだという。
おそらくあの女性と男性が、少女を助けてくれたのだ。
そうに違いないと理解した少女は、丁寧に二人に礼を言った。
そのあと少しだけ続いた交流で、彼らに返しきれない恩を受けることになる。
それはもう、何十年も前の話だった。
ヨウコは本を閉じた。
書店の一角。
滅多に降りて来ない其処で、ヨウコは一冊の本を手にとって、視線を落としていたのである。
思えばあれからすぐだったと思い出す。
玄夜の不安定さが、より一層顕著になってきたのは。
だからヨウコは、今まで、否、これから、自分や玄夜が関わってきたこと、関わっていくことを本という後から読めるものにして残そうと思ったのだ。
書店の形にしたのは、本を納めやすいようにと考えたに過ぎない。
効果が出ているのかどうかはわからないが、少なくとも玄夜は、昔を思い出しやすくなっているようにはヨウコに見えた。
同時に、猫又の言葉も思い出した。
いったい何を考えているのか、なんてそんなもの。
「そんなの、私が一番知りたいわよ……」
ぽつり、呟いた言葉を、聞き咎める者は誰もいなかった。
※※※
ちょっと続きをすぐには書けなさそうなのと、書いたとしても終わらなさそうなのでいったんここで休止します。
状態もいったん完結にさせて頂きました。
「これ以上は連載を続けない」という意味での「完結」です。
物語としては未完です。
この後、本当は、
第三話、陰陽師的な祖先をもつ警察官僚からの依頼(書店は数年おきに不定期的に引っ越ししていて、以前からの知り合いの警察官が突き止めて訪ねてきて依頼を持ってきた的な。増えてるみぃちゃんに驚くとかそういう。)
第四話、依頼話(未定)のラスト、眠りに落ちる玄夜
第五話、目覚めない玄夜とヨウコの選択。からの、いつも通りの日常
っていう予定でした。
気が向けばこのまま、ここに追加するか、別で続きを書くかもしれません。
未定です。
中途半端になって、申し訳ありませんでした。
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