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16・感謝と、そして

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 まだ何か言いたいことがあるというのだろうか。
 シュネス殿下のお言葉を、何一つ否定せずに受け入れたというのにいったい何を。
 思わず寄ってしまった眉を、いったいどうとらえたというのだろう。私にはよくわからない。
 ただ、歪んだまま、苛立ったようなシュネス殿下の雰囲気は全く変わらず。そして。

「本当はお前のような者っ、捕らえて処刑でもしてしまおうかと思っていたのだっ! だが、罪など何も侵していない以上、そのようなことはできないと口うるさい者がいてなっ! 罪など、俺を蔑ろにした、それで充分だろうにっ……! くそっ! ニディアにも感謝しろ! 視界に入らなくなればそれでいいだろうと、追放ならばいいのではないか、そう進言してきたのはニディアなのだからなっ! そうでなければ、それぐらいで済ますものかっ!」

 そんな風に、怒声のよう、浴びせられた言葉に私はびっくりしてしまう。
 まさか碌に問えるような罪もないというのに、処刑まで考えていらしたとは。
 私はいったいどれほど嫌われていたのだろうか。
 もちろん、何もしていないし心当たりもない。
 私からしてみれば、何なら、私に歩み寄って来なかったのは、むしろシュネス殿下の方だった。
 シュネス殿下は腐っても王族。私の方からの歩み寄りなど、立場を踏まえれば容易ではないことぐらい、わかりそうなものなのだけれど。
 きっとそう言うことではないのだろうな、漠然と思う。
 そして、敢えて追放へと誘導したらしいニディアが、私はますます気になって仕方なくなってしまうのだった。
 これはいったいどう反応すればいいのだろう。
 いずれにせよ、まさか無視するわけにもいかない。
 私はやはり慇懃に腰を折った。

「かしこまりました。ニディア様に感謝いたします」

 ただただシュネス殿下の言葉に従う姿勢を見せる。
 何も逆らわない。
 父も私の傍らで、同じように腰を折っていた。
 シュネス殿下はいまだ気分を害したというような表情のまま。
 まだ何か気に食わないらしい。
 大変な騒ぎとなってしまっているのだが、王妃様はまだいらっしゃらない。
 私はちらと、下げたままの頭の先、シュネス殿下に気付かれないように父と密かに目配せし合った。
 小さく、視線だけで頷き合う。
 次にシュネス殿下が何も言わないうちにと、私は静かに口を開いた。

「でしたら、シュネス殿下。僭越ながら私共はこのまま下がらせて頂きます。シュネス殿下、及びニディア様の寛大なご対処に今一度感謝を」

 改めて深く礼を取り、それでは失礼致しますと、辞去の挨拶を告げる。

「っ……! ああ、そうだなっ、とっとといなくなってしまえっ!」

 シュネス殿下はやはりどこまでも憤ったまま。
 いっそ追い立てるように、私達の辞去を、それでも許して下さったのだった。
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