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42・陛下の子供
しおりを挟む彼女に促されるまま手早く買い物を済ませ、私は家へと急いだ。
リリーは予想通りぐずっていて、リダを力いっぱい困らせていた。
「遅くなってごめんなさいね、リダ」
ぐすんぐすんと涙をこぼしているリリーを受け取りながら謝罪した私に、リダはふるりと首を横に振る。
「いいえ、お気になさらないでください。買い物ぐらい、ゆっくりなさっていらしてよろしいんですよ。ミリーは四六時中リリー様と一緒なんですから、少しぐらい気晴らしも必要でしょう」
ミリーというのは、いわば私の偽名のようなものだ。流石に名前そのものは名乗れなくて、周囲にはそう呼んでもらっている。
とは言え、愛称の一つに過ぎないのだけれど。
ちなみにリリーの名前は、実はマノリリファと言って、古い言葉で、『崇高である』だとかいう意味があった。名前を付けたのは陛下だ。陛下にとっても初めての子供であるからだろうか。もしかしたら陛下は、次の国王をこの子にと考えていたのかもしれない。
私は産まれたのが女の子だったと知って、少し喜んだのだけれど、陛下のつけた名前を知って、こうして連れ出すことに躊躇を覚えてしまった。
リリーはたとえどのような状況に身を置いていたとしても、間違いなくこのイェルティエ王国、国王の第一子で、本来ならばこんな辺境の一角で過ごしていいような存在ではない。
だが、王宮を出ると考えた時に、この子を置いていくなんて選択肢は私の中には存在しなかった。
私がいない王宮に一人残してどのような状況になることかと想像すると、心配でたまらなかったというのもあるし、子供を手放したがる母親なんていない。ただそれだけの話でもあった。
子供の性別なんて、本当はどちらでもよくて、それでも男の子と女の子だった場合、やはり王位を継ぐのは圧倒的に男の子の方が多く、そういった意味で、心情的にも女の子の方が連れ出しやすかったのもあり、喜んだのにはそういう理由も含まれていたのである。あるいはそれらは前世の感覚故なのかもしれないけれど。なにせ、この国の王位を継ぐのに男女の規定はないのだ。だから陛下は自分の後継として、この子をと考えているのかもしれなかった。
いずれにせよ、こうして連れ出してしまっている以上、何をどう考えてももう一緒だ。
幸いなのは国民の中に、陛下の子供が生まれたことが、広く知れ渡っているようではないことだろうか。防犯上の理由も含め、王族の子供が生まれたことを発表する時期が、考慮されること自体はそれほど珍しいことではなかった。
そもそも、私とまだ婚姻を取り交わしていない現国王であるジェラマト陛下は、対外的にはいまだ独身で、ご成婚の知らせの前に子供のことだけを発表するなどあり得ない。
婚約者の存在は、貴族などの上流階級の間では当たり前に知られていたけれど、他の国民にまで知れ渡っているようなものではなく、元々初めから予定されていた婚姻式の予定さえ、公示すらまだである状態だった。
本当はそれと同時に、子供の存在も発表される予定だったのである。
だが、私が王宮から逃げ出したせいで、それらが国民に知られることはなく、今に至っている。
つまり、リリーが陛下の子供だと知っている者は、周囲の住民の中には誰もいなかった。
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