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8・嫁いできた理由
しおりを挟む昨夜のことを思い出すと身が竦む。
怖かったし痛かったし混乱した。
サフィルに出来たのはただ過度に拒絶しないようにすることだけで。
抵抗してはいけない。
事前に言い含められていたことを思い出して、必死に耐えたのだ。
あのような性急で痛いばかりの行為を。
少し耐えれば終わるだろう、そう思った部分もある。
ただし予想に反して、随分と長い時間揺さぶられ続けることとなったのだが、途中からは記憶も曖昧で。思い出すと言っても、痛くて苦しくて怖かったことぐらいしか覚えていなかった。
それを今夜もとそう思うと、やはりどうしたって身が竦んだ。
司祭は辛いならば心に沿えばいいと言った。
つまりそれは拒否しても構わないということだ。
閨で、リシェを慰めるためにと嫁いできたはずなのに。
出来るだけ早く子供を、と言いながら、心に沿ってもいいのだという。
サフィルにはわけがわからなかった。
ただ、司祭たちがそう言うのは、昨夜の行為を彼らもまたひどいと思っていて、傷ついただろうサフィルに耐える必要はないのだと示そうとしてくれたからなのだろう。
口では何をどう言っても、それが彼らの気遣いなのだろうことがわかる。
あれだけ散々、口を酸っぱくして、慰み者だの閨に侍るだけでいいだの言っておきながら、いざ蓋を開けてみれば心に沿って、それらを放棄してもいいのだという。
なら、サフィルはいったい何のためにこの国に嫁いできたというのだろう。
王族に嫁ぐ。
それも、聖王妃、つまり正室として。
その上、宗教的理由もあり、側室も愛妾も愛人もいない聖王のただ一人の伴侶にと望まれたのである。
ただ子を成せばいいと言われていた。
責任も公務も何もない、ただ閨に侍り、聖王を慰めるだけでよいのだと言われ続けた。
だからサフィルはある程度の覚悟を持って、この国へと嫁いできたのだ。
勿論、サフィルの暮らしていたリリフェステにとっても、母の母国たるナウラティスにとっても、マチェアデュレなどという国はさほど大きな意味など持たない。
だから今回の縁談だって別に断っても何ら問題はなく、ただ、育ての親たる子爵が喜んで、また頼りになる伯父が良いのではないかと言ってきたから受けたに過ぎず、ある程度の覚悟は持っていても、それほど強い意志の下、嫁いできたわけではなかった。
それでも、求められている自分の役割を放棄するつもりなんてない。
正直、まだ身が竦む。怖いし嫌だ、そう思う。
でもサフィルは今夜もまた、リシェとの閨を拒まないでいるつもりなのだった。
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