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26・帰りの馬車の中にて
しおりを挟むその後は特に会話なども交わさず、流石に程なく、馬車は目的地である神殿に着いた。
神殿で行われる儀式中は、前日と変わらず特にしなければならないことなどない。
むしろ祭壇の近くに座り心地のいい椅子を用意され、そこに座っているだけでいいと言われた。
リシェは大司教の資格を有していると聞いているのだが、サフィルと同じく、今回に限っては特にお役目のようなものもないらしい。
隣り合ったリシェとサフィルの前で司祭たちが何か良くわからない祝詞のようなものをぶつぶつと呟き、時折ぺこぺこと頭を下げた。
神へと祈りを捧げていたりだとかする仕草なのだろう。
リシェも時折それに倣うように頭を下げるので、サフィルも真似て同じようにする。
そうすればいいと事前に聞いていたためだ。
前日行ったのとほとんど同じ手順と時間で、神殿での祈祷と報告とやらは済んだ。
今日の予定は1カ所だけなので、後は王宮に帰るだけ。
夕方からは国賓を招いての晩餐及び夜会が開かれることとなっている。
時間はちょうどお昼頃で、昼食は帰りの馬車の中で、とのことで、息と同じく、リシェからのエスコートを受け馬車へと乗り込んだ後で、司祭からバスケットを差し出される。
受け取ったのはリシェだった。
そしてまた向かい合わせに座って。程なくして動き出した馬車の中は空気ごと行きと同じ。
そう思った直後、リシェがおもむろに壁際からテーブルを引き出して真ん中に設置した。
昼食を摂る為なのだろう。手慣れた仕草に少し驚く。
とは言え、侍女や侍従、あるいは司祭さえこの馬車には乗っておらず、二人きりなのだから、どちらかがこういったことをしなければならず、サフィルでは勝手がわからない。
なら、リシェが行うしかなかったのだろう。
一国の王が自らで動くようなこととは思えなかったけれど、リシェは何も気にした様子がなかった。
これはおそらく本当に今までに何度も同じようなことがあり、すっかり慣れ切ってしまっているのだろう。
そう言えば昨夜、私的な空間に誰かが居るのを好まないのだと言っていただろうか。
まさか今までは馬車に一人で乗っていたのだろうか。
あり得そうだ。
思いながらサフィルは微かに目を瞬かせた。
馬車の中は、王族が乗るに相応しい程度には広い。
真ん中にテーブルを出しても、膝が当たるというほどではなく、それほど窮屈だとは感じなかった。
リシェが甲斐甲斐しくバスケットから取り出したのは、サンドイッチのようなパンに何かを挟んだもの。具材は数種類用意されているようで、肉も魚も野菜も確認できた。
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