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54・思いがけない邂逅
しおりを挟むそう、楽しみに思っていたのだ。
それに歩くうち、昨夜の青年のことも思い出して、近いうち接触を図ってみよう、そんな風にも予定を立てた。
なんの義務も負わない者同士、話してみるのもいいかもしれない、などと、勝手ながら想像したりして。少しだけ気分が浮上していた。
だがそれは、目的となる中庭の近くへとさしかかるまでのことだった。
初めに気付いたのは気配だ。
魔力と言い換えてもいい。
「リシェ様……?」
先程別れたばかりの気配。
仕事だと言っていたが、リシェの執務室はこの近くにあるのだろうか。私室からそれほど離れていないと聞いていたのだけれど。
それとも、何か用事でもあったのか。
なんとなく気になって、咎める人がいないのをいいことにそちらへと足を向けてすぐ。サフィルはもう一つの魔力にも気づいた。
馴染みのない魔力。だけど知っている。良い印象も抱いていないそれ。先程彼のことも考えた……――セーミュだった。
どうやらリシェと一緒にいるらしい。
(中庭で? なぜ……)
不思議に思うと同時に、少しだけ胸がもやもやした。
誘われるように、そちらへと足を進めると、庭木の先、二人の姿が確認できる。
流石に声までは聞こえない。でも何か、言い争っているようだった。
否、違う、言い争っているというよりはどうやらセーミュが一方的に声を荒げているようなのである。
その証拠に、昨夜一度聞いたきりではあるけれども、セーミュの声だけが微かに耳に届いた。対峙して、何かを話しているように見えるのにリシェの言葉は聞こえない。
ただ、セーミュの方へと首を横に振ったり、あるいは宥めるような様子を見せたりしていて。
体格差も相俟って、癇癪を起す子供とそれを叱る大人のよう。
リシェとセーミュはおそらく、サフィルとリシェよりも年の差が小さいはずなのに、まるでそんな風に見えないのが不思議だ。
特にセーミュは小柄ではあれど、特段、童顔と言うわけではないので余計に。
声をかけようか。否、それ以上近づこうか、迷う。
迷っている間にリシェがまた首を横に振って、大きく溜め息を吐いて。踵を返して何処かへと歩み去っていった。
追いすがるようにセーミュが何か言っている。
だが、リシェは振り返らず、直に見えなくなってしまう。
「……、っくしょうっ」
今までで一番大きな声だったのか、ようやく聞き取れたセーミュの言葉は荒々しく苛立ちに満ちていて、サフィルはびくり、体を震わせた。
しかもそのままセーミュはイライラした様子で、こちらへ向けて歩き始めたのである。
このままでは鉢合わせしてしまう。
はたと我に返り、思い至った時にはすでに遅かった。
「あ?」
少し伏せ気味だったセーミュの視線が、サフィルの気配に気付いたのだろう、さっと持ち上がる。ばち、剣呑なばかりの彼の眼差しと、目が合った。
「ぁあ?」
サフィルを認めて、余計に尖ったセーミュの眼差しはもはや睨み付けていると言ってもよく。サフィルはますます、何をどうすればいいのかわからなくなるばかりだった。
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