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62・青年の事情③
しおりを挟むこれまでの司祭たちの言動を思い出すに、それはあながち間違っていないように思われた。
彼らは……なんと言えばいいのか、言葉と行動が一致していないのだ。
否、口から出る言葉がことごとく露悪的と言い換えてもいい。
基本的にサフィルを蔑むようなことを言う。例えば、
『お前など、』
『お前ごとき、』
『所詮は、』
などだ。
しかしその実、内容そのものはむしろ気づかいさえ感じられるようなものばかり。
『お前のような体力のない軟弱者は適度に座ってでもおればよいのだ』
などと言われたとしても、しかしそれは言い換えれば、
『疲れているだろうから休んでいるといい』
と言うことになる。
少なくともそう声をかけてくるタイミングや、その後の対応からすると、そう解釈して間違っていないだろうと思われた。
司祭たちは皆、初めて出会った時からそのような調子だったので、サフィルはむしろ誤解をしないように気を付けてさえいる。
それを思うと、サフィルに先程セーミュの告げた、聖王にとってサフィルの変わりはいないという話を伝えなかったのも、あるいはサフィルを気遣ったが故なのだろう。
おそらくはサフィルのお思考を縛らないためだ。
もし、リシェと何かがあった際、サフィルが気にしたりしないように。
きっと間違っていないことだろう。
「王家の血を引く者がろくにいないのも、当然って言えば当然だよな。でも、さっきも言ったように例外がある。聖王妃はあんただけだ。他なんてない。でもそれだとあんたとリシェの間に子供が出来なければ王家の血はほとんど途絶えてしまう。それじゃ困るんだよ。だから……」
先ほども言っていた。セーミュは今も伴侶候補なのだと。
だが、聖王妃にはならないのだという。
サフィルはさっぱり意味が解らないまま、セーミュの言葉を待った。
セーミュはそこで少し口を噤んで、ややあって言いづらそうに口を開く。つまり。
「もしもの時には、リシェに子供を産んでもらうしかないんだ。聖王妃は唯一無二、他なんてあり得ない。だが、王配は別だ」
サフィルは絶句した。
役割を変えればいい、まさかそういうことなのだろうか。
「マチェデュル教の抜け道みたいなもんで、役割が明確なんだよ。で、役割が違った場合、別人だと解釈する。つまり、聖王妃を娶ったリシェと、王配を伴侶としたリシェは別の人間だってな。そうしたら貞淑のままであれるんだとか何とか……」
だから自分は今も、リシェの伴侶候補のままなのだとセーミュは吐き捨てるようにそう言った。
何処まで行っても、理解しがたい話だった。
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