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102・一人きりの食事
しおりを挟むそもそもサフィルが離宮に着いた時にはすでにお昼を過ぎていた。
そこから休憩を挟んで別々に二人に会って。
その後、与えられた部屋に戻ってほどなくしたら夕飯の時間。
『晩餐は共にできない』
言われていた通り、サフィル一人の食卓となった。
案内されたのはやはりどこか王宮の其処を彷彿とさせる、それなりに広々とした食堂で、家族がそろって食事がとれるようになのだろう、テーブルも大きい。
そこにぽつんとサフィルが一人。
寂しい。
そう感じた。
思えば王宮ではほとんどリシェが一緒だった。
勿論、毎食と言うわけにはいかなかったけれど、リシェは可能な限り、サフィルと食事を共にしてくれた。
それも朝昼晩と三食、時には午後の休憩だと様子を見に来ることさえあって。そんなことがひと月だ。
時折、サフィル一人で食事を摂る時もはやり寂しいと感じていたけれど、今はその比ではない。
なにせ離宮は当然のことながら、王宮よりもよほど人が少なく、周囲の気配と言うだけでも薄かった。
どうしても閑散とした印象を受け、しぃんと静まり返った周囲は、サフィルを心細くさせるのに充分で。
(子供でもあるまいし……)
内心で眉をひそめたところで、感じた寂しさはどうしようもない。
リシェが近くにいない。
もしかしたらその事実だけでも大きいのかもしれなかった。
王宮にさえいたならば、たとえ同じ部屋にいなくとも、同じ王宮内、それもそれほど離れていない場所に、リシェの気配が感じられたのだ。
魔力と言えばいいだろうか、それを感じられるぐらいの距離にリシェがいた。
だが、今は勿論、そんなもの微塵も感じられなくて。たったそれだけのことでさえ、心細くて堪らなかった。
当然、サフィルは本当に一人なわけではなく、周りには侍女も侍従も護衛だっている。
皆、王宮でもサフィルについていてくれる見知った顔ばかり。
見覚えがないのはこの離宮に勤めている者たちなのだろう。
そんな風に、何人もの人に囲まれていながら、それでもサフィルは寂しいと思った。
どれだけ見慣れていて、気安くても。
彼らがどんなにサフィルに心を砕いてくれていても。
彼らはあくまでも使用人であり、食卓を共に囲うようなことさえない。
皆、教育の行き届いた行儀のいい者ばかりだった。
今までサフィルは、立場があるということは、そんなものなのだろうと気にしたことがなかったのだけれど、それさえも今は寂しくて。
リシェは、後からでも追ってくる、そう言っていた。
本当に来てくれるのだとしたら、出来るだけ早く来て欲しい。
もう何度目になるだろうか。サフィルはまたしてもそう願ってやまなかった。
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