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xx・世界の意志
しおりを挟む―それにしても。貴方が俺達を此処に上げるとは思わなかった。
金の獣の唸り声なんかに、彼が動じることはなかった。
―君たちはこの子と関わり過ぎていたからね。上げるしかなかったんだよ。君たちはもう、この子の、欠片を与えられてしまっているから。君たちはすでにこの子の一部だ。
―は。一部、ね。
―俺の瘴気はよかったのか。
―ああ、そうか、君は半分魔の者なのか。構わないよ。どうせ此処にいたらそんなもの消えていく。此処はそういう所だからね。ここはこの子の作り出した世界だ。この子の見る、夢の世界。
―……あんたも?
もの言いたげな問いかけに、男は柔く微笑んだ。
―一人は寂しい。そう嘆いたのはこの子だよ。
僕はだから生まれてきた。
まるでそう言わんばかりの男の声に、その場にいた誰もが何も言えなくなる。
―此処には何もない。退屈だけどこの子がいる。僕はただ、この子を守る為だけに此処にいる。結界を張って、花を植えて。
―彼に、子供を与えるのも?
―そうだねぇ……それは僕の意志でもあるかなぁ。だって触れたくなるじゃないか。可愛いデュニナ。愛しい僕の。
―はっ。反吐が出るな。いったい何人目だ?そうして出来た子供をまた下界に下すのか。
―ふふふ。世界には神人が必要だからね。純粋な神人はもう、僕とデュニナにしか作れない。世界を保つためには、その子供の血を広めないといけないだろう? これは君たち人間の望みでもあったと思うけど。
―だからと言って、そうやって何度デュニナから子供を取り上げたっ!
―大丈夫だよ。この子が気付く時は来ないから。この子はただここで微睡んで、夢の中。時に起きて戯れる。そして僕と交わって子を成し、産み落とす。何もおかしなことはないだろう?
―おかしい、おかしなこと、な。そんなことばかりしているから、デュニナが逃げたんじゃないのか?
―それこそまさかだねぇ。あれはただの事故だ。見つかってよかった。
―ふん。どうだか。
少年に寄り添うように寝そべったまま、男たちの言い争いを黙って聞いていた赤竜がゆっくりと頭をもたげて口を開いた。
―だが、貴方は我々に干渉した。
―そりゃ、ね。だってこの子を探していたのだし。僕はここから降りられない、何故ならここから降りてしまっては、この子を掬い上げられないからね。だけどこの子を探す手足がいる。
―それが僕たちだったと?
―そうだよ。あの界で一番神人の因子を強く持つ者。君たち四人以外に、僕を下ろせる者はいなかったから。
―だからと言って、僕達は貴方ではない。
―そうかな? この子の側にいる間。君たちは僕だったはずだけど。僕の現身、僕の化身、僕そのもの。
―だが。
―確かに、君たちには君たちの自我があった。だが、この子に傾倒したのは、果たして本当に君たち自身の意志だったのかな?
―貴方の意志だったと?
―少なからず、影響はあったと思うよ。なんにせよ、もう全ては過ぎたことだ。僕達は皆ここからは出られない。この、デュニナの箱庭からは。
それが、『世界』の意志だから。
そう告げる藤色の男は晴れやかに笑っていて。
その言葉を聞いた四人は、もう何も言えなかった。
彼らの真ん中には、ただ健やかに眠る一人の少年。
少年は目覚めない。
ずっと。
ずっと。
ふわり、風に乗って銀の花が舞う。
それは下界で。
『デュニナ』と呼ばれている花だった。
Fine.
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