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後
しおりを挟む次に感じたのは熱。追って理解したのは痛みだ。
脳髄を揺らすような、とてつもない痛み。
「あっ! あっ! あっ!」
男は悲鳴を上げる澄月に一切配慮することなく、いっそ無遠慮に乱暴に、思うがまま腰を打ち付け始めた。
はぁはぁと荒い男の息が、堪らない嫌悪感となって澄月の上に降り注ぐ。
「おお、すごい、すごいぞ澄月。これは……うっ!」
程なくして澄月の腹の中は、男の吐き出した熱い欲望で満たされた。
「ぁっ、ぁあぁぁああああぁぁぁ……」
澄月は絶望的な気分でそれを感じ、もう戻れはしないのだと痛感する。
「ああ、澄月」
男はうっとりと甘い声で酔うように澄月の名を呼んで、すぐに、一度熱を吐いたぐらいでは全く萎えていなかった剛直で、澄月の腹を苛むのを再開し始めた。
「澄月、澄月、澄月」
澄月の名を何度も呼びながら男が腰を振る。
「あっ! あっ! あっ!」
男の動きに合わせ、漏れ出る呻きも抑えられない澄月のことなど、一切考慮せず、自身の快楽だけを追いかけていった。
無理やりに男をねじ込まれた澄月の腹は傷つき破れ、辺りには血の匂いが漂っている。
「あっ、あっ、あっ」
痛いなどという次元は疾うに過ぎ去り、今、澄月が感じているのは熱だけだった。
まるで熱した火箸で腹の中をかき回されてでもいるかのように、男が穿つ腹が熱い。
ぐちゃぐちゃと体が全て壊れてしまいそうだった。
どうしてこうなったのか。
自分にいったい何が起こっているのか。
何もわからず、男の為すがまま、揺さぶられる澄月の腹にまた、男が熱を吐く。
何度も、何度もとめどなく。
しまいにはあふれ、こぼれ、隠微な匂いと男が澄月の腹へと注いだ魔力が、部屋中を隙間なく満たしていった。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ……」
堪えきれず呻き、悲鳴を上げ過ぎたのどは涸れ、澄月の唇からはもはや小さな喘ぎがこぼれるだけ。
なのに男はそんな澄月の頬をゆるりと撫でて、澄月の腹を穿つ腰の動きを止めないまま。
「ああ、愛しい、愛しいぞ、澄月。まさか余がこれほど誰かを愛しいと思う時が来ようとは。ああ、美しい澄月。これでお前は余の物だ」
そんなことを嘯いて。また、澄月の腹を熱で満たした。
絶望は、男の形をしている。
少なくとも澄月にとってはそう。
澄月はただ、挨拶に赴いただけだった。なのになぜ、こんなことになってしまったのか。
どれだけ時間が経ってからだったのか。
あまりに長い時間に渡って苛まれ続けた澄月はいつしか意識を失い、いったいいつ自分が男から解放されたのかさえ分からない有様だった。
澄月に分かったのはただ、自分の純潔は無残にも奪われ、腹の中、奥深くにこれでもかと男の熱を注ぎ込まれた事実のみ。
今の澄月は隅々にまで男の魔力に満ち、まるで存在ごと男に支配されてしまったかのようで。そう思った途端、嫌悪感に吐き気が込み上げた。
知らぬ間に寝台のような場所に寝かされていたのは、男なりの気遣いなのだろうか。
否、気遣いを知っている人間は、あんな行いなどしない。
あんな、人の尊厳を傷つけるような行為など。
なのに。
「ん? どうした、澄月。目が覚めたのか?」
目を覚ました澄月の側には、男がぴったりと寄り添っている。気持ちの悪い体温が肌に触れた。
顔を青ざめさせる澄月が、はっきり見えているだろうに男は気にせずひどく上機嫌で、男の熱で満ちた澄月の裸の腹を撫でてくる。
「ああ、余の魔力が満ちているな。どうした澄月、早く子にせぬか。余の情けぞ」
ありがたいだろうと、澄月がそう思うのを疑ってもいない様子で促してきた。
澄月はぎょっとして目を見開く。
子、子だって?
今、男はなんと言った?
子にしろと言ったのだろうか。この、注がれた魔力を、子に?
この国で男の身で澄月に子を宿せと?
信じられなかった。
それが出来るか出来ないかで言ったら、出来ることは知っている。
だが、同時にこの華国では、それは禁忌とされていた。
子を成したが最後、後ろ指を指され、石を投げられ、最終的には国にはいられなくなる。
澄月は名家、白家の当主だ。
男を訪ねたのも、その就任の挨拶で、そんな澄月にこの男はいったい何を言っているのか。
澄月はゆると首を横に振った。
出来るわけがない。
たとえどれほど尊厳を傷つけられても。どれほどこの身を男に弄ばれたとしても。そんなこと、出来るはずがない。
澄月は震える唇をようやく開いて、掠れきった声を絞り出す。
「な、な、何をおっしゃっておられるのです……陛下は、」
「玉冴だ」
「っ! ゆ、玉冴、さまは、わ、わたくしに女になれと……?」
呼び方を指摘され、素直に呼び直しながら続けた問いに、男はきょとんと首を傾げた。
「なんだ? 澄月は女になりたいのか? 別に止めぬぞ。好きにするがよい」
「いえ! お、女になど、なりたくはありませぬ」
見当違いなことを言われ、慌てて首を横に振る。そんな話では全くなかった。
この国で当主となれるのは男のみだ。女になど、なりたいはずがない。そんな話では、なくて。
「なら、そのままでよいではないか。余は気にせぬ。お主がお主であればよい」
まるで寛容な君主のようにそんなことをいう男には、澄月の気持ちなど、まったく通じていないようだった。
澄月は絶望する。
これはいったい何度目の絶望だろうか。
やはり澄月の絶望は、この男の形をしているのだ。
「玉冴、様……」
あまりに話が噛み合わなさすぎて、もはや澄月は何も言えず、信じられない気持ちで男を見つめることしかできなかった。
とは言え、当然あのまま子を成すことなどできるはずがなく、翌日になり、何とか男の元を辞すことを許された澄月は、可能な限り男から逃げることにした。
きっとあんなこと、男の一時の気の迷いだ。
そもそも、在位中から潔癖だと有名だった男なのだ。今更、色に溺れるはずがない。
元より澄月と男に接点などほとんど存在しなかった。あの挨拶の折に、初めて間近に拝謁したぐらいなのだから間違いない。
だからきっと、大丈夫。会わなければ大丈夫。
そんな澄月を嘲笑うかのように、男はことあるごとに、あるいは特に用事などもないのに澄月を呼び出すようになり、顔を合わせたら最後、決まってあの日のように組み敷かれた。
元より澄月では男に敵わず、男を止められるようなものも存在せず、澄月は男の望むまま、体の隅々までもを苛まれ続け。
いつしか男の乱暴な行為にさえ、反応するような体となってしまった。
浅ましくも快楽を覚え始めた肉体が、よりいっそう澄月を追い詰める。
何度、男に促されても、子を成さないままでいることが澄月の最後の砦。だけど、それさえも。
「澄月」
男は乱暴だった。
澄月を一切気遣わなかった。
だが、澄月の名を呼ぶ、その声ばかりは慈しみにまみれ、美しい、愛しいと、澄月に注ぐ心ばかりは本物で。
澄月にはもう、わからない。
いつまで、この男に抗っていられるのか。
「澄月」
いつまで、子も成さぬまま、しかし男からも逃げきれず。このような関係を続けてしまうのか。
「玉冴さま」
そう、澄月が名を呼ぶだけで、男は本当に満ち足りたという風に、幸福そうな笑みを見せた。
ああ、その顔の慕わしさと言ったら!
一年と少しを過ごす頃には、もう。
男はその間に、気持ちが若返ったせいだろうか、姿やその他さえもすっかりと若返り、見違えるばかりの精悍さを湛え。よりいっそう精力的に激しく澄月を求めた。
幾度も、体を重ねた影響だろうか、あるいは過ぎるほど注がれる男からの好意に絆されたせい?
澄月は、すでに、男を拒みきれなくなっていたのだった。
「ああ、澄月、ようやく子が成ったな」
男が満足そうに笑う。
澄月は絶望の上で頷いた。
「ええ。ええ、玉冴さま」
玉冴さま。
まさかそうして宿した子供さえ、たった2年で取り上げられるとも知らず。
澄月はすっかりと男に捕えられ、逃げることなど叶わぬまま。
絶望の形をした玉冴という男に捕らわれ、散らされた澄月という花は。これからどこへ向かうのか。それは澄月本人にさえわからぬ果てに……――ただ、風に揺れていた。
終
15
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と、言うか、初めてのBL作品、ですって??!!
おお、なんだか光栄です!
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(イメージの類似は望んでないのに捕われる、的な部分でしょうか?)
偶然!ってほんとに凄いですね!
塔の上と10年後も読んでくださっているとの事、ありがとうございます!
これからも執筆頑張ります〜!