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3・王宮にて

*3-7・流されられない想定外

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 はじめは触れるだけ。
 しだいに絡みつく。唇を食まれ、次には舌で舐られた。

「はっ、ん……」

 息を継ぐために緩めたあわいはこじ開けられ、瞬く間に口内までもが侵食されていく。
 ぴちゅ、と、唾液が絡みつく音が卑猥で、頭の芯が痺れるようだった。
 熱くなる。顔だけではなく、体ごと、全部。

「ティア、リィ……」

 時折、角度を変えて。あるいはそのままねっとりと。唇が腫れそうなほど、執拗に繰り返されるくちづけの合間に囁かれた俺の名は、どうしてこんなに甘いのか。
 うっすらと、知らず閉じてしまっていた瞳を開けると、細められた殿下の目蓋の奥から覗く瞳が、どうしてこんなにも切なく俺を見ているのか。
 俺は溜まらなくなって、自分から殿下に縋りつく。
 応えるようにかきいだかれた体と、何度となく塞がれる唇と。
 ようやくくちづけが落ち着く頃には、俺の息も殿下のそれも、すっかり上がってしまっていた。同時に、体の熱も、あるいはそれ以上に熱くなってしまっていて。
 興奮しきった殿下の眼差しが俺を射抜き、殿下は俺から視線を放さないまま、自身の服も寛げていく。
 露わになる逞しい体は、俺とは全然違っていた。
 俺だって鍛えはしたのだ、だけどいつまで経っても情けなくなるほど貧相なままの、うっすらとしか肉のついていないなまっちろいそれとは違って、筋肉質で厚い。
 服を着ていた時の方が、むしろ細身に見えたほどで。これほど引き締まっていたなんて。
 元々殿下の方が俺よりも優に頭半分は身長も高く、細身に見えたとはいえ、体格もよかった。
 だが、今、初めて目にしている裸体はそれ以上だ。
 俺は知らず、殿下を見ていた。熱い体を持て余すようにして、頭を霞ませながら。
 俺を蕩かす、ギラギラした眼差しから、ごくり、一つ唾を飲み、視線を下ろしていく。くっきりとした鎖骨や、厚い胸板。割れた腹筋と、その下の……――。そこで俺の目が留まった。
 茹り始めていた思考がだんだんと冷めていく。
 んん?
 殿下の、僅かだけ緩められたトラウザーズを窮屈そうに押し上げて、くっきりと形を主張するのは、殿下自身のそれ。布越しでも容易に分かるぐらいには、それは、どう見ても。

「で……でん、か?」

 何度目か。殿下を呼ぶ俺の声は震えていた。視線はそこから動かない。いや、だって、それは。

「どうしたの? ティアリィ」

 俺の視線の先に、気付いていないはずもないだろうに殿下は、当たり前に行為を続けようとしていた。
 その証拠に、ギラギラとした眼差しは変わらない。否、より強くなっただろうか。熱い欲がそこにある。恐ろしいほどの熱量で。
 ああ、それはいい。それはいいのだ、いっそ心地よいほどなのだから。だけど。

「あ、あの、ちょっとお伺いしたい、ことが……」

 殿下は、この場で、何をどうするつもりなのだろうか。勿論、性的に迫られているなんてことは分かっているのだ。そうではなく、いったいどこまで、何をどう、俺を、どう、するつもりなのかなんてことが、今更に気になって、気にせずにはいられなくて。
 性行為というものが、いったい何をどうするものなのかということぐらい、経験のない俺だって知っている。殿下が最終的に求めていることだって、この空気で分からないはずがない。俺自身、まさに流されかけていた。きっとさっきまでのままだと、何処までも受け入れてしまっていただろう、だけど、待ってほしい、本当に、今日、何処まで、何を?

「何かな?」

 俺の掠れきった問いかけに、殿下が言葉ばかりは柔らかく促してくれる。眼差しに宿る熱はそのままに。
 ごくりと、改めて唾を呑み込む。
 俺の上がりきっていた体の熱は、随分と冷めてしまっている。半面、頭はちっとも正常に働かないままだった。

「えっと、あの、今から、何処まで……何を、」

 俺の視線は、殿下のそこにくぎ付けだ。だけどわかる。殿下の笑みが、今、間違いなく深くなったのだろうことが。

「何処まで、何を、ってそんなもの……勿論、僕は君を、全て貰い受ける・・・・・・・つもりだよ」

 言っただろう?もう、堪えられないって。

 殿下の声は、柔らかい。ああ、本当に声ばかりは柔らかく、甘く。
 全て。貰い、受ける。
 そうだろうな。そうだろうとも。殿下の答えは勿論、俺の予想通りだ。わからないはずがない。殿下の熱に充てられ、混乱したまま、わからないまま、ここまで流された俺にだって、わかっていた。
 それでも、だ。

「気になっているのは、これかな?」

 言いながら殿下がわざわざそれを取り出してくれた。はち切れんばかりに反り返る、見るからに固くなった、過ぎるほど逞しいそれは、直接見ると、予想以上の大きさだった。
 え、いや、あの、ほんとうに。
 殿下は笑っている。多分、きっと、間違いなく笑っている。そこから視線が外せない俺に、確かめるすべはないけど、だけどわかる。

「大丈夫だよ」

 殿下は言った。まるで地獄への導きのような言葉を。

「君も知っているだろう? 僕の得意なのは身体操作・・・・だよ」

 何が、大丈夫なのか。いったい俺の体の何・・・・・を操作するつもりだというのだろう。 
 いずれにしても。今、視線が外せないままの殿下のそれは。信じられないほどの大きさを有していた。到底、受け入れられるとは思えない。どう考えても入らない。
 俺は内心、冷や汗が、止まらないような心地になっていく。

 いや、ほんと、無理だろ、それ……。

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