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3・王宮にて
3-5・告白
しおりを挟むティアリィを先に応接スペースのソファへと促して、控えていた侍従から茶の用意を受け取り、僕自身がテーブルへと運んだ。
そのまま、当然の顔をして彼の横へと腰を下ろす。
その途端、流石にティアリィも不審に思ったのだろう、あれ? と言わんばかりに首を傾げ僕を見上げてきた。
「殿下?」
ごく近い位置にいるティアリィへと、僕はにっこりと笑いかける。
ああ、ようやく。ようやくだ。
そんな逸る気持ちは、自然笑みへと現れていることだろう。
「ようやくだから、もう、堪えきれなくて」
本当は初めから堪えるつもりもなかったけど。でも、こんなに早急にと焦るのは、正しく僕が限界だからというのも本当で。
ティアリィはただただ戸惑った顔で僕を見ている。だが……――その目に拒絶は、ない。
僕は笑った。本当に笑った。否、心の底からの笑みがこぼれて。
だって、こんな、こんな。
ティアリィの銀の髪が美しくさらと顔にかかっている。長い睫毛が頬に落とす影は色濃く、ティアリィをより可憐に演出していた。
ああ、本当に。ティアリィは美しい。なのに戸惑う様子まで可愛らしく、何処か無垢な気配が漂っている。
それは彼に触れたものがこれまでいないからだろうか。否、今後例え誰が彼に触れても。きっとティアリィは清いままなのだろう。その魂、存在ごとが清廉で。
「でん……か?」
ティアリィが躊躇いがちに僕に呼びかける。僕は慎重に彼の様子をうかがっている。僕を拒絶する気配の有無を。決して見逃さないように。
だって僕は別に無理強いしたいわけじゃないのだ。たとえ手段がどれほど強引だとしても。彼が本気で受け入れないようならば、僕はきっと身を引けるだろう。だけど、そうでないなら、僕は。
「これまで長かったよ。本当に」
言いながらティアリィの手を取った。ティアリィは抗わない。ただ、固まって動かずに僕のなすがままと成っている。
僕は彼を見つめた。僕のありったけの好意を眼差しに乗せた。
「こんなに性急に、なんて、自分でもどうかとは思っている。でも本当にようやく、なんだ。君と、初めて出会った時。――……君にはすでに、婚約者がいた」
僕とティアリィが初めて出会ったのは5歳になってすぐだった。そこから、14年。僕達は今、19となった。
僕は耐えに耐えたのだ。ティアリィが欲しくて、欲しくて、でも、手を伸ばせなくて。
諦めるつもりなんて少しもなかった。ただ慎重にタイミングを見計らっていただけだ。彼を余さず絡め捕れるように。焦らず、じっと。じっと。
そしてやっと今日。僕は誰に妨げられることもなく、ティアリィに手を伸ばせる。
「僕はすぐに父上や母上に言ったんだ。君が欲しいって。でも父も母も首を縦には振らなかった。君には婚約者がいたし、その婚約を破棄するには、僕からの求婚だけでは弱いと言われたよ。まだ幼かったしね。何より我が王家は、王族からの強権など、出来るだけ避けるように心がけている。僕がどれだけ強請ったって、我が儘を言うなと、逆に窘められる始末だった」
だから耐えた。出来るだけティアリィの側近くで、ずっと。ずっと。
ティアリィは何も返しては来ない。だが、僕の手を振り払いもしない。
僕を見るティアリィの目には、やはり拒絶はどこにもなかった。
「でも僕は君が諦めきれなかった。遊び相手と称して、君を頻繁に王宮に呼びつけたのは、僕の悪あがきのようなものだ。君はちっとも気付かなかったけど、僕はずっと君を見ていたよ。そんな僕を見かねたのか、そのうちに条件が付いたんだ。まず第一に、君とアルフェスの婚約関係が、双方同意のもと、解消されること。君を王宮に呼んだ翌年から、アルフェスも一緒に呼ぶようになったのはこれがあったからだ。勿論、爵位的に問題がなかったというのもあるけどね」
僕の言葉は止まらない。ティアリィは瞬きさえ忘れたような様子で、ただ、僕の話を聞いていた。
「君はともかく、アルフェスが君に好意を抱いているのは、初めて会った時によくわかったよ。だけどやっぱり諦めきれなくて。それからも僕はじっと注意深く、君たちを見ていた。付け入る隙が出来るといいなって期待して。……――アルフェスと君の性質が合致しない、なんてのは、僕にとっては僥倖だったなぁ。誓って作意なんてない。いや、僕の君への恋情が産んだ奇跡かな? その後、ルーファ嬢へは少し助言をしたけどね、たったそれだけ。それだけでああなった」
僕は告げる。ありったけの気持ちを込めて、彼に。
ああ、ティアリィ。美しい君。僕は君ほど尊い存在を、他に知らない。
そんな君に。こんな風に、手を伸ばすことが出来るなんて。
ねぇ、ティアリィ。
「わかってるかい? 僕は君が好きなんだ」
それは君に初めて告げる……――僕の、存在全部をかけた、好意だった。
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