【完結】悪役令息?だったらしい初恋の幼なじみをせっかく絡めとったのに何故か殺しかけてしまった僕の話。~星の夢・裏~

愛早さくら

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3・王宮にて

3-4・最後の平穏

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 わかっていたことではあるが、ティアリィは優秀だった。
 書類に手を付け始めてすぐ、瞬く間に山を切り崩していく。とは言え、ひとまずはと、軽く目を通して期限ごとに仕分けていっているだけではあるのだが、その目を通す速度自体がとにかく早い。
 流石に僕ではこうもいかないなと思いながら、適当な山を同じように仕分け、ある程度が終わった所で期限の迫っているものから取り掛かっていった。
 そうでなければ仕分けだけで随分と時間が取られそうだったからだ。其処をティアリィが請け負ってくれているのなら、僕は進められる物を先に進めていった方がいい。
 黙々と手元にある書類に目を落としていた僕は、しばらくしてから改めて溜め息を吐いた。
 ああ、本当に、どれだけあるんだ。

「しかし全部の書類がここに集まってるんじゃないかと思うね、この量は」

 落とした呟きは愚痴のようなものだ。ティアリィは手を止めないまま肩を竦めた。

「それこそ、まさかでしょう」

 全部、というのは言い過ぎだったとは自分でも思った。しかし、尋常じゃない量なのは確かで。心当たりはあったが同時に、こんなもので僕の衝動がどうにかなるとでも? と、逆に気持ちが固まった部分もあった。
 もしそうだとしたら、僕を軽く判断しすぎというものだ。
 ふと目に留まった、急ぎではない紙束の一番上の案件など、呆れるほど。

「でもほら、それなんか、侍従の選出だって。皇太子の仕事かい?」

 言ってから、しかし、とも思い直す。すると案の定、同じことに思い至ったティアリィが僕の代わりのような言葉を返した。

「そういう内向きの決裁は皇后陛下の管轄だったかと思いますが……殿下にまで決裁権を下ろしたって事でしょうね。これからの為にも、慣れて頂こうと思っておられるのでは?」

 加えて、皇后管轄の仕事をティアリィに目を通させる。そこに含まれる意味は、僕の意向に沿うものだった。ティアリィはそこまでは看過しておらず、何ら不審には思っていないようだ。
 我が国は皇帝と皇后である両親ともにまだまだ健在で、僕が譲位されるのは最低でも数年は先になる予定だった。そしてその場合、余程のことがなければ僕の伴侶、つまり次の皇后となるのはティアリィで両親もそうなるだろうと考えているのだろう。つまりこれは妃教育の一環か。あるいはそれらの仕事にもティアリィを・・・・・・慣れさせるためか。
 僕は思ってもいなかった援護射撃を両親から受けた気がして、妙に浮き立つ気持ちを抑えきれなくなりそうになる。だから、

「それにしてもね、急にこんな量を回してくるなんて。うちの親は頭がおかしいのかな?」

 そんな憎まれ口のような言葉を吐きながらも、口調ばかりはだらしなく緩んだ。

「不敬罪ですよ」

 僕の浮ついた様子には気づかなかったらしいティアリィが、呆れた調子で窘めてくる。
 僕はやはり浮ついた心のまま言葉を返した。

「いいさ。この部屋には君と僕しかいない」

 ああ、そうだ、この部屋には、僕とティアリィの二人しかいないのだ。とは言え、部屋の隅に侍従は控えているし、幾人かが見えない場所で護衛もしている。だが、彼らとて僕の側でそれを職としている以上、余計なことなどせず言わず、ならばほとんどいないのと同じだった。
 ティアリィが溜め息を吐いて口を開く。

「人事的なことなら、ある程度はこちらで絞ってから、殿下に回しますよ。最終判断だけは殿下がなさってください」
「流石だね。君の人選なら間違いなさそうだ」

 明日以降にはなるがと、予定を軽く告げられて、僕はひどく満ちた気分で頷いた。
 ああ、彼は知らず自らで。僕の伴侶となる準備をしてくれると言ったのだ。これはどれほどの僥倖だろうか。

「軽く見た限りですが、こちらが急ぎの案件のようですよ。全て今日中、明日の朝までには各部署まで回す必要のある書類です」

 話している間に仕分け終わったのだろう、そのうちの急ぎと思われる物にすでに取り掛かりながら、ティアリィが山の一つを指して告げてきた。
 僕はその量にしばし押し黙る。ざっくりとであっても、ある程度仕分けが終わって、急ぎが、これだけ。

「……結構な量だね」
「全体の3分の1ほどかと」
「なるほど」

 思わず零れた呟きにはティアリィが端的に応えをくれた。
 なるほど。
 これがすべて、明日の朝まで。
 僕は考える。考えたが、まぁ、僕一人でも何とかなるか・・・・・・・・・・・とも予想を立てた。
 少し、睡眠時間は削れるかもしれないが、朝までには終わるだろう、ならば構うまい。

「……少し、休憩しようか」

 出来るだけ早くと内心少し焦りながら、急ぎと示された書類を裁きつつタイミングを見計らって、そう、ティアリィへと言葉をかけたのは、それから数時間後。昼までにはまだ少しある、休憩とするにはちょうどいいぐらいの時間だった。
 時間はある。逃がさない。
 そんな決意を顔には出さず席を立った僕の視線の先で。ティアリィはいつも通り、ただひたすらに美しく、かわいかった。

 そうして僕は罪を犯す。否、その先の行動すべてが。僕により罪へと成ってしまうのだ。
 その時の僕はまだそれを知らず。浮かれ、慢心するばかりだった。
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