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第一章・リーファ視点
1-51・各地への視察
しおりを挟む公国内の各地への視察は主にお忍びで行う。そうでなければ意味がないからだ。
使用する馬車も、流石に荷馬車ではないけれど、少なくとも見た目上は乗合馬車などにも使用されるような、ごくごくありきたりなものに見えるようになっているし、僕自身の装いも、認識阻害と変化の術を掛け合わせた上で、服だっていつもとは全然違う、初めて身につけるかもしれない庶民に埋没できるような地味なものだった。
ちなみに、認識阻害と変化の術には生前に母様が作成した魔道具を使用している。魔石を利用することによって自身の魔力を使用せずに済む優れものだ。勿論、魔石ではなく自分の魔力を使ってもいいし、自分以外の誰かの魔力も使用可能で、今回は義兄上が、この魔道具に魔力を注いでくださった。
そもそも、毎晩転移魔法を使うつもりでいる僕からすると、そんな魔道具に流す魔力程度、大した意味などないのではないかと思うのだけれど、妊娠中というのは本来、極力魔力の行使を控える方が望ましく、少しでも僕自身が魔力を使う頻度を減らすためにという、義兄上からの配慮だ。
義兄上は僕を送り出す際、嬉々として件の魔道具を発動させた上、見慣れない服を着た僕をひとしきりかわいいかわいいと褒めちぎっていた。
だいたい義兄上は、僕がどんな服であれ、新しい服を着たらいつもそうして褒めちぎるばかりなので、いつも通りと言えばいつも通り。これは実は兄様や他の人も同じような感じなのだけれど、義兄上の反応はひときわ顕著なのだ。
むしろ大げさだなぁと思うのだけれど、義兄上の本心からの言葉なのがわかっているから、僕はいつも喜んで受け止めている。
大体の予定というか、ルートは義兄上と僕と、僕について来てくれる護衛や侍女の人たちとは決めてあるのだけれど、これは決して公国側に知らせることはない。
これもまた、ありのままの国の姿を見る為の取り決めだった。
嘘偽りない、ありのままの姿の国の様子を見極める。
一応、事前に気になる所や、問題となっている所は公国側にまとめてもらっていて、それを元に、それ以外の所も併せて見て回るのだ。
特に不正や、管理の悪さなどが理由ではなく、仕方がない事情で問題が起こっているような場所には、後日支援や援助を行うこともあった。
そういったものも含めての属国なのだから、当たり前の話。
予めまとめてもらっているから、実際にどこを見て回っているのかという見当をつけることぐらいは出来るとは思うけれど、場所はわかっても、向かう道の詳細や、向かう順序などは、やはり公国側に知らせないことになっているのもあり、一度公邸を出てしまうと、公国内を回る視察のことは追えないように工夫していた。
だから、実は僕を見送りに出てきたのは義兄上をはじめとしたナウラティスの者達だけで。出発でさえ公国側には知らせないままとなる。
「大丈夫だとは思うけれど、充分に気を付けるように」
お顔を両手で掴まれて、とても近い位置から真っ直ぐに見つめられながら、とても心配そうに告げられた。
僕は笑ってちゅっと、義兄上へと唇を寄せる。
いってきますのキスだ。
「義兄上も。充分に注意なさってくださいね?」
特にあの公女様とかに。くすくすと笑う僕に、義兄上からもキスを返されて、名残惜しくくちづけあう。
ねっとりと口内を堪能し合い、唾液と共に魔力を流し込まれて、体が熱くなりそうになるけれど、夜まで我慢するしかない。
夜には戻ってくるのだからきっと、お昼間だけなら我慢できると思う。
ちゅ、ちゅ、くちゅんと幾度かくちづけを交わし、ようやく体を離して馬車に乗り込んだ。
義兄上に見送られて公邸を後にする。
馬車の内部は、外側からはわからないようにはなっているけれど、そもそもナウラティスからこの公邸に入った時に使用したものと同じになっていて、拡張魔法も施されているし、決して乗り心地が悪い物ではない。
そもそも、本当に見た目通りの馬車でなんか、義兄上が送り出すはずがないのだから、当たり前の話だった。
だから、馬車に乗っているだけではいつも通り過ぎてよくわからないけれど、窓から見える景色はどれもこれもが目新しい。
それらを内心で少し楽しみながら、同時に、どこかおかしな所はないかと、注意深く国中を見て回る。それが今回の僕が任されたお仕事なのだった。
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