【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

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第一章・リーファ視点

1-50・寂しさを我慢する

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 出来るだけ早くナウラティスに帰る。
 そうするには一刻も早く視察を終わらせるしかすべがなかった。
 否、例えば僕だけ帰るということは可能だっただろう。妊娠中ということもあって、体調面を理由にすればそれらは決して不自然ではない。
 そうすると流石に今までのように毎日というわけにはいかなくなるけれど、魔力を注ぐだけなら、ここに来る前に兄様が言っていたように、1週間ぐらいなら問題にはならないのだろうし、数日に一度ぐらいなら、義兄上あにうえがお一人で僕の元へと通う、あるいは、僕が義兄上の所へと通うことだってできる。
 でも、義兄上はそんなこと提案しなかったし、僕だって一人で帰るだなんて義兄上に言わなかった。
 だってそれは、なんだか違うって思うんだ。
 僕が今、一人でナウラティスに帰ったら、僕はもうあの公女様と会うことはないし、悲しい思いをすることもない。でも、だったらなぜ、僕はわざわざ今回この視察に同行したのかがわからなくなってしまう。
 僕はもうじきお母さんになるんだ。だったら余計に一人で帰るなんてあり得ない。
 義兄上がどういったお気持ちで、その提案をしなかったのかはわからないけれど、もし、義兄上にそう訊かれていても、僕は首を縦には振らなかったことだろう。
 正直に言うと、僕は少しだけ怖いと思っている。
 昨夜、公女様が言っていたことに対する、悲しい気持ちはもうない。そういう意味ではもう平気だ。
 でも、公女様が僕に対して、わけのわからないことを言った事実は変わらないし、あの公女様が昨夜の今で何か変わっているとも思えない。
 言われた言葉に対しては気にならなくなっても、そんなことを僕に言ってきた公女様自身のことが、僕は少しだけ怖いと思っているんだ。
 出来れば会いたくない、関わりたくないって。
 そんなことが難しいんだろうこともまた、やっぱりわかってはいるんだけれど。
 義兄上と僕は少しだけ話し合った。
 出来るだけ早くナウラティスに帰るためにどうすればいいのか。
 それには結局、今までのように義兄上と僕とで、分担するしか方法がなかった。

「大公閣下ご自身は、問題ないんだけどね」

 大公閣下に近しい人の中に、問題のある人がいる。
 義兄上が確認した資料の中で、不自然な所が幾つか見つかったらしい。
 もっとも、それらは大きく問題になるようなものではなく、なるほど、大公閣下が見落とされたのも仕方がないと思う程度の物。

「ちょっとした横領と予算改編と。つまり財務関連だねぇ。ここの細工が出来るとなると、随分と人が限られてくる。加えておそらく、あの公女殿下に何事か入れ知恵しているのも多分、同じ人物だろう。現状は大きな問題になるような状況にはない。だけど、こういう小さな綻びでも放っておくと取り返しがつかないことになっていくものだし、これを見落とす、見逃すなんて、それこそ、何のために視察をしているのか、意味がなくなってしまうからね」

 だから今のうちに、こういった部分は、ちゃんと正して・・・おかなければならないのだそうだ。
 こう言った所の確認や是正も、大切な視察の理由の一つなのだとか。
 必然、僕か義兄上のどちらかがこのまま公邸で、この綻びの対処をしなければならない。もう片方はもともとの予定通り、国内各地の視察に赴く。
 どちらがどちらを担当するのか。義兄上は当然、ご自身が公邸に残るとおっしゃった。
 おそらく、謹慎か何かを言い渡されているだろう公女様も勿論、公邸にいる。彼女と僕を、出来るだけ遠く離しておきたいというお気持ちがおありになるのだろう。
 それに。

「各地への視察も、やっぱり心配には違いないのだけれど。でも、物理的に誰かから傷つけられることなんて、まず考えられない。それ以外に防ぎようがない言葉でとなると、おそらく、あの公女殿下以外で、リーファにそんなことを言える人間なんていないはずだ」

 だからいっそ、公邸にいない方が、安全・・じゃないかというのが義兄上のお考えで。
 僕は抗わずに頷いた。あの公女様のことは、やっぱり怖かったし、各地を回ること自体は、元々楽しみにしていたんだ。義兄上がご一緒じゃないのは、少し残念だけれど。

「結局、数日離れることになってしまったね」

 義兄上が僕の頬に手を添えてすりと擦った。僕の方からも義兄上の手に頬を擦り付ける。

「毎晩戻ってきます。いいでしょう? 義兄上」

 日中は仕方がなくっても、夜にまでなんて耐えられない。

「大丈夫? そんなことをして負担にならないかい?」

 心配そうに義兄上に、くすぐったい気持ちになって僕は小さく笑みをこぼした。

「距離も短いし……多分、大丈夫。それに義兄上が、おかしなことにならないように、魔力を注いでくださるでしょう?」

 絶対に大丈夫だなんて僕にも言えない。でも、それぐらい、何か問題になるようにも思えなかった。
 僕のおねだり・・・・に義兄上はふんわりと笑って。

「勿論。いくらだって注いであげるよ。可愛いリーファ。お前が大丈夫だと言うのなら、私の所へ戻っておいで」

 そう言いながら、僕の唇を、しっとりと、義兄上の唇で塞いでくださったんだ。
 すると途端流れ込んでくる義兄上のあたたかい魔力。

「んっ……」

 微かに声を漏らして、優しいくちづけを受けながら、僕はどうしても少しだけ覚えてしまう寂しさを、きっと頑張って我慢しなければとそんなことを思っていた。
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