【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

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第一章・リーファ視点

1-49・もう大丈夫

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「それで、リーファ。昨夜の公女殿下のお話は、悲しくてわけがわからないばっかりだったとは思うけれど、その中で何か気になることはあったかい?」

 そんな風に義兄上が促して下さったので、僕は少しだけ考える。思い出すと、どうしても悲しくなってしまうけれど、でも思い出さないとわからないから仕方ない。
 気になること。そんなの、たくさんあった。でも、その中での一番。さっきも、これだけは確認しなくちゃって思った。

「義兄上は、結婚するんですか?」

 公女様は、夫だとか、結婚したらだとか言っていたはず。
 他はだいたいわけがわからないばかりだったから確認も何もないのだけれど、これだけは確認しなくっちゃって思っていた。
 だから僕がそう訊ねたら、義兄上はぎょっとしたように驚いた。

「私が結婚?! 誰と?!」
「多分、あの公女様と?」

 公女様のお話は、そんな感じのものだったと思う。
 だけど、義兄上はすぐさま、力いっぱい否定する。

「まさか! あり得ない。あの公女殿下と結婚?! そんな話は何処からも出ていないよ?! あの公女殿下となんて、結婚するわけないじゃないか!」

 それを聞いて僕は安心した。
 こんなにも義兄上がきっぱり否定するってことは、本当にそんなお話は何処からも出ていないのだろう。

「よかった! もし、僕だけ聞いていないとかだったらどうしようかと思って、怖くなってたんです」

 僕が知らないだけじゃなかった!

「リーファ……お前にだけ知らせない何か・・なんてあるわけがないじゃないか。お前が望むのなら・・・・・私のことなんて、なんだって教えてあげよう。それでなくとも今でさえ、お前ほど私に詳しい者・・・・・・はいないよ?」

 義兄上がそっと、僕の頬を両手で包み込む。掬うように顔を上げさせられて視線が合った。
 義兄上がどこか切ないお顔をしている。それでいて、困っているかのような表情でもあった。
 僕が素直に頷くと、ほっと小さく息を吐いた。

「他は? たくさん何か言われていただろう?」

 予想していた通り、義兄上はあの公女様が僕に何を言ったのか、多分全部ご存じなんだと思う。
 その上で、僕が気になった言葉は何かと聞いて来てくれている。僕はもう少し考えた。

「えーっと……」

 わけがわからないばかりだった公女様のお話。その中で気になったことというのなら、それは。

「僕ははしたない・・・・・んですか?」
「リーファ?」
「それと、えーっと、えーっと、子供の父親がわからないからはしたなくて軽率・・・・・・・・で、義兄上がこれから先、僕や僕の子供の面倒を見て下さるのは、僕が寄生・・することになって、だから僕は分別・・がなくて、立場を弁えてなくて、それで、だから、僕は不要・・で、」
「リーファっ!」

 義兄上は大きな声で、僕の言葉を遮った。思い出してまた悲しくなってしまっていた僕は、思い出すのをやめてきょとんとする。

「義兄上?」
「リーファ。あの公女殿下の言ったことが、わけのわからないことばかりなのはリーファも知っているだろう? 何一つ本当のことがない。誰がはしたなくて軽率・・・・・・・・不要・・だって言うんだ。リーファは私しか知らない・・・・・・・のに。リーファほど貞淑で無垢な天使なんて、私は他に知らないよ? リーファは私の全てなのに。不要なわけないじゃないか!」

 義兄上はそうやって、さっきの僕の言葉を一つ一つ否定した。
 僕はなんだか面映ゆくなる。無垢な天使! 天使だって! そんな風に言われると恥ずかしい。

「それに、リーファやリーファのお腹の中の子供の面倒を、今後、私がみていくのなんて当たり前のことだろう? 私こそ・・・責任を取らなくては。寄生・・というのも、ひどい言葉だ」

 続けて義兄上は、兄様と同じことを言った。責任を取るのは義兄上だって。
 僕はやっぱりよくわからない。でも。
 改めて義兄上に、公女様の言葉を全部否定してもらえると、やっぱり僕は安心した。
 僕はいったい何をあんなに悲しく思っていたんだろう。こんなにも義兄上は、僕を大切にしてくれているのに。
 義兄上がまた、僕を抱きしめる。

「リーファは何にも気にしなくていいんだ。今はお腹の子供を無事に生むことだけを考えよう? 大丈夫、何も心配は要らないからね。ああ、いや、その前にこの視察を終わらせなければ。終わらせて、出来るだけ早くナウラティスに帰ろう」

 義兄上の言葉に、僕はこくこくと何度も何度も頷いた。
 義兄上がそう言うんだから、大丈夫。
 ああ、本当に、早くナウラティスに帰りたい。その為にも。残りの視察を頑張らなくっちゃ。
 何処よりも何よりも安心できる、義兄上のあたたかな腕の中で。僕は昨夜思った悲しいのが、今度こそ本当に全部、どこかへ消えていくのを感じていた。
 だからもう、本当に大丈夫。もうきっと悲しくなることはない、とそう。
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