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*05・昼下がり③
しおりを挟む触れる手の熱さを、どう言い表せばいいだろうか。
後ろから腰を掴まれ、揺さぶられる。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、ぁあん、んんっ、あっ!」
辺りに満ちる湿った気配と、肌と肌がぶつかる音は、否が応でも自分達が今何をしているのかを示してでもいるかのように思えた。
何をってそんなもの、セックス以外にはないんだけれど。
(あ~……ヤバい、気持ちいい……)
はぁはぁと荒く息を吐きながら、ともすればそれだけで頭がいっぱいになりそうだ。
リシュの腹の中でかき回されている剛直は、腹立たしいほどの長大さと力強さで。自分との差に悔しくなる。
年は同じだし、鍛え方に操作があるとは思えないのだが、リシュが持ちえない雄臭さのようなものを、マディが有しているのは確かだった。
もっとも、リシュは自身の持つともすれば中性的ですらある美貌を全く疎ましく思っていたりはしないのだけれど。
ただ、同じ男であるだけ、何も思わないわけではないというだけの話で。
「ぁっ、ぁっ、ぁあ、ぁあ……あぁんっ、んぁっ、あ!」
技巧も何もない、動きに合わせて漏れ出る喘ぎは艶やかに上擦って少しばかりみっともないだろうか、否、そんなもの今さらだろう。
今更、何かを装う方がそれこそおかしい。
とりとめもなく思考が巡っては、与えられ続ける刺激に、すぐに何もかもが霧散していく。
だって気持ちいい、気持ちいいのだ。
ともすれば単調になりそうな動きは、それでもリシュの腹の中のひと際、感じられるところを擦り上げて。
「はぁっ、はぁっ、くっ……ん、リシュ、出るぞっ……うっ……」
荒い息の合間に宣言され、了承するようになんとか小さく首を縦に振ると、それを待っていたとでも言わんばかりに動きが早まり、途端ぶわっと腹の奥に熱を感じた。
「ぁっ、ぁあっ……」
ほとんど同時にリシュの頭も真っ白に染まっていく。表現しがたい法悦。腹の奥に広がるマディの魔力は、それだけでリシュに充足感をもたらすかのようだった。
とさっと、ベッドの上に崩れ落ちる。
「んっ……」
その動きに伴って、ずるっと抜け落ちたマディの雄芯の感触に、ぶるりと体を震わせて。
視界がぼやけている。
程よい疲労感が、今、リシュを満たしていた。
リシュを追いかけるように身を倒して、唇を寄せてきたマディが、ちゅっと、こめかみにくちづけてくるのに、リシュはなんだかくすくすと笑ってしまった。
なんだその行動。恋人でもあるまいし。
口には出さないが、妙な甘ったるさを感じて、居た堪れなくなったのは間違いない。
「んだよ……くそっ……笑うなよ」
そんなリシュの反応に、半ば無意識に動いてしまってでもいたのか、悪態吐くマディの声には、隠しようもない照れが混じっている。
それがますますおかしくて。
「くっ……はは、あははっ……!」
笑うリシュをマディが見降ろしているのがわかる。
ややあって疲れた溜め息は諦めだろうか。
「はは、すまない……なんだかおかしくて」
しばらくして、ようやっと笑いをおさめたリシュは、
「ほら、いつまでもそんな顔をしてないで機嫌を直してくれ」
言って手を伸ばし、自分の上に留まっていつつも少しばかり距離のあったマディの頭を、すっと、ごく自然な動作で引き寄せた。
伸びあがって唇を寄せて。宥めるようなくちづけを一つ。
お返しとばかり、マディから返されたそれも、性感を刺激しすぎない軽いもの。
事後の戯れにはきっとこれぐらいがちょうどいい。
否、やはり少しばかり甘ったるすぎるだろうか。
こんな、ただの暇つぶしに等しい行為に。
時間を確認したわけではないが、おそらく、それでも就業時間までにはまだ少し間があるのではないかと思った。
程よく退屈が紛れたな、と内心で呟いて、行為後特有の気怠さに、そのまま少し仮眠を取ることにする。
「ん……ぁっ、……マディ……俺はこのまま少し寝るから、君は先程までの続きに戻ってもいいよ……」
作業を中断させた自覚ぐらいはリシュにもあったので。
リシュの方の仕事は終わらせているから、このまま休んでいても、誰に咎められることもない。
そんなリシュに、はぁとマディが溜め息を吐く。
「へいへい、わかりました、戻りますよっと」
面倒くさいと声音で匂わせて、それでもマディは大人しく仕事に戻ることにしたらしい。ごそごそと身支度を整える気配。
脱ぎ散らかした服を、きっと拾いながら身に着けていっているのだろう。
「っと、その前に……」
そんな言葉と共に、さっと、リシュの上をマディの魔力が撫でていったのは、互いの体液でドロドロになっていたリシュの体を、ある程度魔術で整えたからだろう。
少しばかりすっきりした感触にそれを悟って、リシュはなんだか満足した気持ちで目を閉じた。
上向いた気分のまま、そう言えばとほとんど何も考えずに口を開く。
リシュとマディは例えば恋人同士だとか、そんな、甘ったるい関係ではない。
そんな雰囲気を感じると笑いだしてしまうぐらいに。だから、きっと、二人は。
「ねぇ、マディは知っているかな? 俺達みたいなこんなことする関係をセフレって言うらしいよ」
「セフレ?」
単語に聞き馴染みがなかったのだろう、マディが眉根を寄せたのだろうことが見なくてもわかる。
「セックスフレンドの略」
恋人同士でもないのに、性的な交渉を持つような相手。
もっともマディとリシュの間には、世間一般で言うような単純な友人関係など到底当てはまらないだろうとも思うけど。
「なんだそりゃ。まぁたお得意の前世小説からの受け売りかよ」
辟易していると言わんばかりのマディの言葉に、目を閉じたままリシュはくすくすと小さく笑う。
「これぐらい。前世小説に限らない知識だと思うけどね……」
もにょと返した言葉は不鮮明で、半ば意識は夢の中。
はぁと、またマディが溜め息を吐いたのはわかったのだけれど。
「言ってろよ」
言い置いて、閉じられた扉。
そんな気配に誘われるようにまた、リシュは今度こそ眠りへと落ちていったのだった。
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